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「祖父、父の悲願」実現のため「金正恩訪米」はあり得る!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
専用機の前での金正恩委員長

 トランプ大統領が平壌を訪問した韓国の特使一行から金正恩委員長の「早期に会いたい」との申し出を受託したことで史上初の米朝首脳会談が5月末に行われる見通しとなった。

(参考資料:「犬猿の米朝」を韓国は仲を取り持つことができるか――「水と油」の米朝の主張

 会談場所は未定のままだが、米朝首脳会談をアレンジした韓国(板門店か済州島)、米朝双方と国交のある永世中立国のスイスや北朝鮮で米国の利益代表部を担ってきたスウエーデンなどが開催地として有力視されているが、トランプ大統領が訪米を招請すれば、金委員長がワシントンを訪問する可能性も決して低くはない。

 金委員長の決断は共和党候補指名が確実となったトランプ氏が一昨年(2016年)6月15日、アトランタでの選挙集会で金正恩委員長が訪米するならば「会談の用意がある」と発言したことが原点にある。

 トランプ氏は当時、対立候補の民主党のヒラリー・クリントン氏が「独裁者を擁護するのか」と批判したことに対して「金正恩と会うため自らが訪朝することはない」と釘を刺しながらも「話し合うのがなぜだめなのか」と猛烈に反論していた。

 「成功の可能性は極めて少ない」と悲観的だったが、それでも「金正恩氏が米国に来るのならば会う。テーブルに腰掛けてハンバーガーを食べながら、もっといい核交渉を行う」と1カ月前に「金正恩と北朝鮮核問題について対話することに何ら問題はない」と公言したことを撤回しなかった。この時の発言に今も変わりがなければ、米朝史上初の首脳会談は金正恩委員長の訪米が前提条件となる。

 では、トランプ大統領が訪米を招請すれば、金委員長は受諾するだろうか?

 

 極論を言えば、受託する可能性が高い。最大の理由は米朝首脳会談、平和協定の締結、国交正常化が三代にわたる北朝鮮の大いなる悲願となっているからだ。

 米朝間では過去2回首脳会談の可能性があった。いずれもヒラリー氏の夫、ビル・クリントン大統領の時代で、1度目は金正恩氏の祖父・金日成主席の政権下の1994年。

 当時、金主席の訪米計画は米韓関係者らの橋渡しによるところが大きかった。1994年4月に訪朝したウィリアム・テーラー米戦略問題研究所副所長らに対して金主席自ら訪米の意欲を示し、米CNNが米TVメディアとして初めて金主席との単独インタビューを全米に流したことで話題となった。後に金主席は訪朝した在米韓国人ジャーナリストの文明子氏に「英語の勉強をしているところだ」と述べたことから「金日成訪米」は一層現実味を帯びることとなった。

 金主席が訪米に意欲を示したことで米朝の仲介に動いたのが1992年の大統領選挙で金泳三大統領に敗れ、浪人の身であった後の大統領、金大中氏(当時:アジア太平洋平和財団理事長)であった。

 金大中氏は1994年5月に訪米し、ナショナル・プレス・クラブ(NPC)で講演を行った際、「金日成訪米」について触れ「訪米の招待状を出したらどうか」と提案。これを受ける形でNPCが金主席に講演依頼の招待状を出すに至った。

 金主席は自身の最後の誕生日となった1994年4月15日に行った米CNNとのインタビューで「核兵器の運搬手段もなく、国土も狭く、核兵器を実験することもできない」と核保有を否定し、2か月後の6月15日に一触即発の状況を回避するため訪朝したジミー・カーター米元大統領との会談で原子炉の凍結及び平壌での金泳三大統領との南北首脳会談に同意していた。

 金主席は当時、平壌での初の南北首脳会談を終えた後、2回目を米国で行うことを検討していた。米朝国交樹立のため訪米し、その際に金泳三大統領も訪米するというシナリオだった。しかし、それも、カータ―訪朝から1か月もしない7月8日に心臓麻痺を起こし、急死したことで無となった。これにより、米朝首脳会談も、南北首脳会談もいずれも頓挫してしまった。

 北朝鮮最高指導者の2度目の訪米計画は金正恩氏の父、金正日総書記の政権下で、クリントン大統領の任期最後の年の2000年にあった。

 この年の10月、北朝鮮軍トップの趙明禄朝鮮人民軍総政治局長が訪米(9日)し、次いでオルブライト米国務長官が平壌を訪問(25日)した後、クリントン大統領はミサイル問題の解決と関係改善のため自身の訪朝を計画していた。だが、11月6日に行われた大統領選挙で後継者のゴア副大統領が共和党のブッシュ候補に敗れたことで訪朝は白紙化してしまった。

 クリントン大統領は12月21日の朝、4度目の挑戦で1997年に大統領になっていた金大中氏に電話をかけ「退任前に(米朝関係正常化の)チャンスが欲しいが、北朝鮮訪問はほぼ不可能だ。そのため、来年1月に金正日をワシントンに招待したい」と伝えた。これに対し金大統領は「金正日がワシントンに行って何も得ずに戻るわけにはいかない。事前に成功を保障しておく必要がある」とアドバイスしていた。

 米国務省は同年12月22日、金正日総書記宛てのクリントン大統領の親書を北朝鮮の国連代表部に手渡した。親書は「われわれ二人(クリントン氏と金総書記)が会えば(関係改善)問題の解決が可能になる」として金総書記にワシントン訪問を求めた。

。 しかし、ブッシュ次期大統領が大統領選挙期間中から「米朝ジュネーブ核合意」をはじめクリントン政権の対北外交を痛烈に批判していたこともあってレイムダックに陥ったクリントン大統領を相手に首脳会談をしても意味がないと判断した金総書記はクリントン親書を受け取った2日目には「関心がない」と回答。これにより実現に至らなかった。今度はまさに3度目のチャンスということになる。

 金正恩委員長は海外留学経験もあり、初歩的な英語及び仏語は喋れるようだ。父親よりも、開放的で、父親と違い何よりも飛行機嫌いでもない。自ら操縦桿を操るほどである。

 建国70周年(9月9日)を前に祖父も父も成し遂げられなかった歴史的な米朝首脳会談実現のため李雪主夫人を連れてワシントンに乗り込むかもしれない。

(参考資料:北が降参しなければ、軍事攻撃も!米国務長官の「北との対話」発言の真意

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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