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北朝鮮木造船の秋田沖漂着は何を暗示しているのか!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
北朝鮮の漁船

 今年もまた、北朝鮮から木造船が漂着している。

 一週間前の11月15日には石川県・能登半島の北方約360キロ沖合の日本海海上で転覆している小型船が発見され、海上保安本部の巡視船が救出に向かい、船底の上にいた3人を救出している。

 救助された3人はいずれも男性で、彼らの話では小型船には15人が乗っていたようだ。「帰国したい」と語っていることから漁が目的で、亡命(脱北)ではなかったようだ。

 昨日(23日)も秋田県由利本荘市石脇の船舶係留施設「本荘マリーナ」に不審者がいるとの通報があり、県警が調べたところ、近くに長さ20メートルほどの木造船が漂着していた。

 木造船に乗っていた男性8人は施設内にいたところを現場に駆け付けた署員に発見されたが、「北朝鮮から来た。漁をしていて船が故障し、漂着した」と事情を説明していた。事実ならば、全員が漁師で、工作活動や脱北で来たのではないということになる。

 北朝鮮は2013年12月に金正恩委員長が政権発足後初めて軍の水産部門会議を開き、食糧問題解決のため漁獲量の拡大を呼び掛けていた。

 「年間の水産量を飛躍的に増やすよう大胆かつ大きな目標を掲げ、戦え!」との金委員長の号令に従い「労働新聞」や「朝鮮中央通信」など北朝鮮メディアは「漁は戦闘、漁場は戦場、漁師は戦士(戦場で戦う兵士)」と呼び、戦闘には犠牲は付きものであるとして犠牲者(遭難者)を「殉職」扱いにしていた。

 一例を挙げれば、朝鮮中央テレビは以下のように漁師らを扇動していた。

 「雨が降り、風速は18メートル、波高は3メートル、それでも『戦場を離れるわけにはいきません。操業させてください!』との連絡が後を絶たない。仮に殉職したとしても党への忠誠の一念から暴風雨をもろともせず、魚を取っている」

 その結果が、日本への漂流、漂着だ。特に11月から12月にかけては集中する。年間目標を達成するため無理が生じるためだ。

 一昨年(2017年)の11月から12月までの2か月間だけで木造船漂流件数は16件に上る。

 漂着場所は日本海を挟んで北朝鮮と面している秋田県、青森県、石川県、新潟県、福井県、北海道などが多いが、兵庫県美方郡新温町沖にも無人船が漂着していた。木造船の中からは遺体(26体)が発見されているが、長期間にわたり漂流していたせいかその多くは白骨化していた。

 しかし、僅か2か月間だけでこれだけの船、それも全長10メートル前後の船で日本に辿り着けるということは、北朝鮮の体制崩壊や戦争勃発など朝鮮半島有事が現実となった場合、多くの北朝鮮人が日本を目指して来ることへの前兆と言えなくもない。

(参考資料:北朝鮮が崩壊し、「シリア化」した場合、難民はどこに向かう?

 

 確かに、北朝鮮から日本は距離が遠いうえ、日本海の波が高いため、命を落とす危険が高い。それでも中には何であれ、船を手に入れ、日本を目指してやってくる「脱北予備軍」が相当数いても不思議ではないだろう。

 その証拠に1987年1月に福井に錆だらけの老朽化した50トンの小型船に乗って2家族11人が漂流したのをはじめ、2007年6月には青森、そして2011年9月にも長崎に木造船でやって来ている。いずれも韓国への亡命を果たしている。

 長崎に漂着した木造船には子供3人が成人男女6人と一緒に乗船していた。エンジンが備え付けてあったもののボートは毛が生えた程度の小型船で750kmも離れた日本海を渡って来たわけだから驚きであった。

 2011年9月に日本石川県能登半島沖で漂流していた長さ約8メートルほどの小型木造漁船には大人6人(男女3人ずつ)と小学生ほどの男児3人が乗っていた。

 リーダー格の男性は海上保安庁の関係者に「私たちは韓国に行くため北朝鮮の漁大津(オデジン)港(咸鏡北道東海岸に位置)を出発した。韓国に行きたい」とし「私は朝鮮人民軍所属の軍人で、ほかは家族と親戚」と伝えていた。

 彼らは有事の際には「難民」として日本に向かって来ることになる。生活するため脱北してきた経済難民ならば国連難民保護法や2006年に施行された北朝鮮人権法に則って日本政府は人道的に対応しなければならなくなるだろう。

 日本を経由しない北朝鮮からの韓国へのダイレクトのボートピープルは1997年に新義州から脱出した2世帯14人による集団脱北が第一号だ。14人の中には1歳そこそこの幼児もいた。

 亡命直後にまた韓国に定着した後にもソウルで会い、彼らを取材したが、一家の長は「難破の危険もあったが、子供や孫の将来のことを考えて決行した」と語っていた。船が転覆し、溺死したあのシリアの幼子の父親と同じだった。

(参考資料:韓国でまたまた米国人の疎開訓練!ハワイでは核攻撃に備えた退避訓練!

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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