「嵐の前の静けさ」の朝鮮半島―北朝鮮は10日に向けてミサイルを発射するか!?

原子力空母「ロナルド・レーガン」率いる空母打撃群(提供:U.S. Navy/Mass Communication Specialist 2nd Class Z.A. Landers/ロイター/アフロ)

 朝鮮半島が不気味なぐらい静かだ。トランプ大統領の国連総会での「北朝鮮を完全に破壊する」発言(19日)に金正恩委員長が「暴言には必ずその代価を払わす」(21日)と噛みつくなど米朝首脳同士による激しいバトルはあったものの、その後は小康状態が続いている。

 米軍は9月23日に米戦略爆撃機「B-1B」2機とそれを護衛する戦闘機「F-15C」など軍用機10機を休戦協定(1953年)以来初めて「海の38度線」と称される北方限界線(NLL)以北に北上させ、北朝鮮を威嚇する軍事示威を行ったが、北朝鮮は9月15日の弾道ミサイル「火星12号」の発射以降、全く音なしの構えだ。

 金委員長が自らの声明で「国家と人民の尊厳と名誉、そして私自身の全てを賭けて、トランプの暴言に対して必ずその代価を払わす」と内外に向けて啖呵を切った以上、このまま何もしなければ、沽券、威信にかかわる。「好き勝手なことを言っている老いぼれには行動で見せるのが最善である」と大口をたたいた以上、何らかの行動に出るだろう。

 北朝鮮は先月28日頃、平壌郊外の山陰洞の兵器研究所(工場)から複数のミサイルをどこかに移動させている。北朝鮮のミサイルの移動に合わせるかのように米軍のミサイル追跡艦「ハワード・レーレンシェン」も28日午後、長崎の佐世保から出航しているのが確認されている。今年だけでも過去3回この追跡艦が出航してから数日後に北朝鮮はミサイルを発射していた。直近では7月4日の二段式の弾道ミサイル「火星14号」で、出航から3日後に平安北道のパンヒョンから発射されていた。

 ミサイルの移動と追跡艦の出航からほぼ1週間経つのにミサイルはまだ発射されてない。米国の攻撃を恐れ、自粛しているのか、それともロシアが説得して自制しているのか、あるいは発射のタイミングを見計らっているだけなのか、様々な見方がなされているが、準備さえ整っていれば、いつ発射されても不思議ではない。

 北朝鮮は10日には労働党創建日を迎える。その2日前の8日は父・金正日総書記就任20周年の記念日である。ミサイル発射を決行するとすれば、過去にも核実験や衛星と称するテポドンなどが記念日に合わせて行われていたからこのタイミングにセットする可能性が大だ。一部に米国の対北制裁に同調する中国への反発から18日に開幕する中国共産党大会に合わせるとの見方もあるが、どちらにせよ、北朝鮮のミサイル発射が再開されるのは時間の問題のようだ。

 発射されるミサイルがグアムをターゲットとする「火星12号」か、それともハワイや米本土攻撃用の「火星14号」か、一度も発射実験をしたことのない東海岸を標準に定めた三段式の大陸間弾道ミサイル「火星13号」なのかは発射されるまでは誰にもわからない。

 北朝鮮の今回の対応が太平洋上の水爆実験など即「史上最高の超強硬対応措置」とは考えにくいが、トランプ大統領が「米国を脅かすなら北朝鮮は今すぐに世界が見たことのない火炎と激しい怒りに直面する」(8月8日)「グアムであれ、どこであれ、米国の領土であれ、同盟国であれ、何かすれば、金正恩は本当に後悔することになる」(8月11日)と予告していることから北朝鮮がミサイルを発射すれば、9月3日にペンタゴンがトランプ大統領に提出したとされる「同盟国を脅威に陥れない軍事オプション」(マティス国防長官)が作動することになるかもしれない。そうなれば、朝鮮半島の緊張状態は極限に達するだろう。

(参考資料:北朝鮮の「史上最高の超強硬対応措置」で米朝軍事衝突は不可避!

 もう一つ危険な兆候は、米軍が今月中旬にステルス戦闘機「F-22」や「F-35B」など軍用機を再度、NLL越えさせ、北朝鮮側の公海上で軍事示威を行うことだ。軍用機だけでなく、15日頃に日本海に入る「海上の軍事基地」と称される米海軍第7艦隊所属の空母「ロナルド・レーガン」率いる空母打撃群も同じように北上し、北朝鮮領海に近い公海上での訓練を計画している。

 空母打撃群はイージス駆逐艦、ミサイル巡洋艦、支援艦、核ミサイルを搭載したオハイオ級戦略原子力潜水艦などで構成されているが、同海域でICBMを含む北朝鮮の弾道ミサイルを探知・追跡・迎撃する訓練を韓国海軍と実施すると伝えられている。

 前述したように米軍はすでに先月23日にグアムのアンダーセン空軍基地を出発した「B-1B」戦略爆撃機2機が沖縄嘉手納基地から出発した「F-15C」戦闘機4機の護衛の中、NLLを越え、北朝鮮の領空に近い国際空域で2時間にわたって軍事示威を行っている。

 NLLは日本海に面した元山沖から距離にして60kmしか離れてない。「B-1B」はNLLから150kmまで北上し、潜水艦弾道ミサイル(SLBM)基地のある新浦から120km~150km、核実験場の咸鏡南道吉洲豊鶏里から130km~140kmまで飛行していた。

 「B-1B」は空対地巡航ミサイル24基など61tに及ぶ兵器を搭載していて、930km離れた場所から平壌の労働党庁舎など北朝鮮の核心施設を半径2~3km内で精密打撃することができる。地中貫徹爆弾「バンカーバスター」も保有しており、金委員長ら首脳部が潜む地下バンカーなどへの空爆も可能だ。明らかにいざとなったらいつでも攻撃できるとの本気度を示すための軍事デモンストレーショであった。

 その後、判明したことだが、このデモンストレーションには空中給油機や早期警報機のほか金委員長ら首脳部の斬首作戦を遂行する特殊部隊を運ぶ「MC-130」輸送機と作戦を遂行する特殊部隊を無事ソウルに帰還させる軍用ヘリまで動員されていた。本番さながらの演習が行われていた。

 この時は北朝鮮は全く対応ができなかった。深夜に侵入したため不意を突かれたから▲電力不足でレーダーが稼働せず、捕捉できなかったから▲元山に配備されている地対空ミサイル「SA-5」では届かなったから▲国際空域を飛行し、領空侵犯しなかったからなど様々なことが取り沙汰されているが、原因は不明である。

(参考資料:北朝鮮が北上した米戦略爆撃機「B-1B」を迎撃できなかった謎

 国連総会に出席していた李容浩外相は2日後の25日、ニューヨークで「これからは米国の戦略爆撃機が例え我々の領空境界線を越えていないといっても任意の時に撃ち落とす権利を含めすべての自衛的対応の権利を保有することになるだろう」と米国を牽制していたが、迎撃の能力と意思があるかどうかは別にして、国際空域での迎撃は明らかに国際法違反である。

 問題は、米軍機あるいは空母が、北朝鮮が設定している領海の基線(陸から22km)からさらに92キロメートルまでの「軍事境界線水域(領海・領空」)に入った場合の北朝鮮の対応だ。

 米国も韓国も「軍事境界線区域内の水上・水中・空中における外国軍用艦船・外国軍用飛行機の行動を禁止する」と規定した北朝鮮の1977年の「軍事境界水域」宣言を認めていない。

 それでも韓国は北朝鮮との無用の衝突を避けるため「軍事境界水域」への船舶の入域や通過を自粛してきたが、仮に米軍艦が南シナ海同様に航行の自由を主張し、北朝鮮の軍事境界線に入った場合は、北朝鮮の覚悟次第では一気に開戦という事態も想定される。

 トランプ大統領と金正恩委員長の「究極のチキンレース」は今まさに「度胸勝負」の様相を呈している。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮半島問題専門誌「コリア・レポート」創刊。1986年 テレビ、ラジオで評論活動開始。98年 ラジオ短波「アジアニュース」パーソナリティー 。2003年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会会員、日本ペンクラブ会員。著書に「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」(飛鳥新社)「世界が一目置く日本人、残念な日本人」(三笠書房)「大統領を殺す国 韓国」(角川)「金正恩の北朝鮮と日本」(小学館)「北朝鮮100の新常識」(マサダ)「韓国人と上手につきあう法」(ジャパンミックス)など20数冊

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