「米朝軍事衝突」の危険性が高い3つの理由

朝鮮半島沖に向かう原子力空母「カールビンソン」

 ロシアのラブロフ外相は11日、「米朝軍事衝突の危険性が非常に高い」と現在、米朝間で繰り広げられているバトルに憂慮を表明していた。その5日前の6日には中国の王毅外相が「現在の朝鮮半島情勢はすでに危険な限界線に達している」と述べ、早期に歯止めを掛けないと大変なことになりかねないとの危機感を露わにしていた。

 中露だけでなく、東南アジア諸国や欧州にも米朝軍事衝突を危惧する声が急速に広まり、フランスなどが平壌に特使派遣を検討している中露同様に危機回避のための仲裁に乗り出す動きが出ているが、北朝鮮が予告した中長距離弾道ミサイル「火星12号」によるグアム包囲作戦計画の金正恩委員長への提出期限が数日後に迫り、北朝鮮が反発している米韓合同軍事演習も8日後の21日に開始される現状は、まるで時限爆弾を抱えているようなものである。

(参考資料:北朝鮮がグアム沖に向けミサイルを発射する確率が90%の訳

 イラク戦争をはじめこれまで戦争の多くは当事国を含め誰も望まなかったし、また起きないだろうと思っていたのに実際には勃発してきた。その多くが不可抗力によるものであった。では、現在の米朝対立はどうか?

 全面戦争にまで発展するかどうかは別にして、軍事衝突、局地紛争に発展する可能性は決して低くはない。むしろロシア外相が懸念しているように高いと受け止めざるを得ない。その理由は主に3つある。

 第一の理由は、双方が相手に一方的な譲歩、屈服を強いる究極のチキンレースを展開していることだ。

 ラブロフ外相は「より賢明で強力な側がまず身を引くべきである」と名指しは避けたものの米国に引くよう求めたが、「最強」を標榜するトランプ大統領にその気はない。

 米国の解決策は、外交圧力と経済制裁と軍事プレッシャーを掛け、北朝鮮を屈服させ、対話のテーブルに引きずり出すことにある。ARF(アセアン地域フォラーム)からの北朝鮮追放の試みや8度にわたる国連安保理の制裁決議、そして史上最大規模の米韓合同軍事演習などがその実例である。北朝鮮がギブアップするまでは手を緩める考えはないようだ。

 一方の北朝鮮もまた核武装を強化することで米国に白旗を掲げさせ、降伏させるようと躍起になっている。現に、ICBM成功祝賀宴で演説した軍トップの黄炳誓軍総政治局長は「米国が白旗を掲げ、降伏するまで(米国に)痛打を浴びせる」と対決姿勢を露わにしていた。

 北朝鮮が「史上最悪の制裁」と称した安保理決議「2371」に反発する政府声明でも「すでに選択した国家核武力強化の道において一寸たりとも引き下がらない」と公言している。まして、「屈服か、降伏か」のチキンレースを展開しているのは「予測不能」のトランプ大統領と「統制不能」の金正恩委員長である。勝気な二人の組み合わせはどうみても噛み合いそうにもない。

(参考資料:始動した米CIAの極秘「金正恩除去作戦」

 第二の理由は、外交的平和的解決のための対話が困難なことである。

 中露両国は平和的・外交的解決策として米朝に対して第一段階でミサイルと核実験の中止と米韓合同軍事演習の中止、第二段階で平和協定と国交正常化と核・ミサイルの放棄をセットで打診しているが、米国は対話のための代償として米韓合同軍事演習を中止する用意もなければ、北朝鮮もまた、平和協定の締結と国交正常化の見返りとして核・ミサイルを放棄する考えはない。

 米国の対話の条件は北朝鮮が無条件で核とミサイルの放棄を意思表示することにある。その具体的な証としてミサイル発射と核実験を凍結することにある。まずはミサイル発射と核実験を凍結し、次に放棄すれば、北朝鮮が望む平和協定の締結、国交正常化、制裁解除の3点セットを提供するというものだ。

 これに対して北朝鮮の条件は何よりも核とミサイルの保有を米国が認めることにある。北朝鮮が再三主張する敵対政策の撤回とは第一にインドやパキスタン並みに核・ミサイル保有を米国が容認することで、次に平和協定と国交正常化、そして制裁の解除(援助)である。「民族の命であり、国宝である」とする核保有の認知が先決なのである。憲法に定め、党規約に盛り込んだ核の放棄を3点セットと交換する考えは毛頭ないようだ。

 第三の理由は、頼みの中国の影響力に限界があることだ。 

 中国と北朝鮮との間には日米安保条約のような条約がある。1961年に交わされた中朝友好条約には「相手方に反対、敵対するいかなる団体や行動、措置には加わらない」とする一条がある。ところが、中国はこれまで国連の対北非難、制裁決議に一度も棄権したことも、拒否権を行使したことがない。今回も米国が主導した制裁決議に同調、賛成している。北朝鮮にとっては差し詰め、米国が「主犯」なら、中国は「共犯」である。

 朝鮮半島に「虐める姑よりも止めるふりする小姑が憎い」とのブラックジョークがあるが、北朝鮮には米韓合同軍事演習も止めさせられず、米国に同調して北朝鮮に制裁を科す中国はまさに小姑に映っているようだ。

 北朝鮮は今年5月3日、国営メディア「朝鮮中央通信」を通じて初めて中国を名指しで、それも全面的な批判を展開したが、「朝中親善がいくら大事とはいえ、命である核と変えてまで中国に対し友好関係を維持するよう懇願する我々ではない」として中国を突き放していた。

 「朝鮮中央通信」は4月(21日)にも「我々の意志を誤判し、どこかの国(米国)に乗せられ、我々に対して経済制裁に走れば敵から拍手喝さいを浴びるかもしれないが、我々との関係に及ぼす破局的な関係を覚悟せよ」と威嚇していたが、5回の核実験、5回のテポドン発射が証明しているように北朝鮮は中国が反対しようが、核・ミサイル開発を断念する考えはこれまた毛頭ないようだ。

 北朝鮮が米国の警告を無視して、グアムに向け「火星12号」4発発射すれば、それが仮に実験であれ、領土、領海でなく、公海上に落ちるにせよ、このミサイル発射が「アンダーセン空軍基地を含むグアムの主要軍事基地を制圧する」ことが狙いである以上、トランプ政権が指をくわえて傍観することはないだろう。

(参考資料:軍事衝突は? 不気味な8月の米韓合同軍事演習(UFG)

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮半島問題専門誌「コリア・レポート」創刊。1986年 テレビ、ラジオで評論活動開始。98年 ラジオ短波「アジアニュース」パーソナリティー 。2003年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会会員、日本ペンクラブ会員。著書に「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」(飛鳥新社)「世界が一目置く日本人、残念な日本人」(三笠書房)「大統領を殺す国 韓国」(角川)「金正恩の北朝鮮と日本」(小学館)「北朝鮮100の新常識」(マサダ)「韓国人と上手につきあう法」(ジャパンミックス)など20数冊

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