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限りなく軍事衝突に向かう米朝 米国の「予防戦争」VS北朝鮮の「最終手段」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ノンストップの「トランプVS金正恩」のチキンレース

 北朝鮮は昨日(7日)、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議「2371」を「全面排撃する」との政府声明を出した。予想どおりの反発だ。

 意外なのは外務省声明ではなく、格上の政府声明で回答したことだ。「最大の制裁」と言われる安保理決議への北朝鮮の重大決意の表れでもある。

 声明では「断固たる正義の行動へと移る」と「次の手」を示唆したが、これがミサイルの継続発射や核実験を指すことは論を待つまでもない。

 ミサイルならば、軍事パレードに再三登場させながら一度も発射実験を試みたことがない三段式大陸間弾道ミサイル(ICBM)「KN-08」もしくは「KN-14」か、潜水艦弾道ミサイル(SLBM)「北極星1号」を改良した最新の「北極星3号」のどちらかの可能性が高い。

 SLBMについては潜水艦基地がある日本海に面した咸鏡北道・新浦で1~2か月前からコールドローンチによる射出試験を数回行っていることが米国の偵察衛星によって確認されている。SLBMはICBM、戦略爆撃機と並ぶ3大戦略兵器である。戦略爆撃機を有しない北朝鮮からすれば、ICBMに続き、SLBMの開発、保有が急務となっている。

 仮に「KN-08」もしくは「KN-14」の発射ならば、今度は日本列島を越え、太平洋に落と可能性が高い。

 北朝鮮が5月に発射した「火星12号」は一段式で、7月に2度発射した「火星14号」はいずれも二段式で、それぞれロフテッド(高角度)軌道で発射され、日本海に落下している。しかし、3段式となると、1998年、2009年の「衛星」と称する長距離弾道ミサイル「テポドン」同様に確実に日本列島を飛び越えるだろう。

 核実験ならば、金正恩委員長が「大型重量核弾頭を装着可能な中・長距離弾道ミサイルを早期に開発せよ」と今年5月に「火星12号」を発射した際に軍需部門の責任者らに訓示していたことから昨年1月に試験的に実験を行った水素爆弾の可能性が高い。

 水爆の爆発力はおよそ100キロトンと言われている。前回の爆発規模は6キロトンと推定され、国際社会から「水爆実験ではない」「あるいは失敗した」と疑惑の目を向けられていた。

 今春、咸鏡北道吉州郡豊渓里(プンゲリ)の核実験場の衛星画像を米ジョンズ・ホプキンズ大の北朝鮮分析サイト「38ノース」が分析した結果、地形からして昨年9月9日に行った5回目の核実験(10~17キロトン)の10倍以上の威力を持つ核実験が可能で、最大で282ktの爆発力にも耐えられると推定していた。

 核実験にせよ、ICBMにせよ、一度ならず、二度、三度となると、それも米国にとっての限界線でもある米本土を脅かすものであるならば、「我慢の子」のトランプ大統領もいつまでも傍観してはいられないだろう。

(参考資料:始動した米CIAの極秘「金正恩除去作戦」

 制服組トップンのジョセフ・ダンフォート米統合参謀本部議長は7月22日、コロラド洲で開かれた安保フォーラムに出席した際「(朝鮮半島での軍事衝突は)無残で、我々の時代に経験したことのない人命損失をもたらすが、私にとって『想像できない』のは対北軍事オプションではなく、北朝鮮がコロラドに到達する核兵器の開発を放置することにある」と、「金正恩が核と核弾頭の運搬手段開発を持続させている状況下で『対北軍事オプションはないだろう』との主張には同意できない」と公然と唱えていた。

 軍事オプションについては米国のニッキー・ヘイリー国連大使も先月9日にCBSテレビに出演し、「金正恩が我々にその口実を与えない限り、北朝鮮と戦争をする気はない」と語っていたが、「北朝鮮がこれ以上米国を挑発するならば、米国を防御するためにやらなければならないときはやる」(6日)とすでに公言している。

 トランプ大統領もまた、米議会共和党の重鎮、リンゼー・グラム上院議員が8月1日、NBCに出演し、明かしたところよると「北朝鮮がICBMによる米国攻撃を目指し続けるのであれば、北朝鮮と戦争になる」と述べている。

 トランプ大統領から「誰も望まない軍事オプション」を作成するよう求められていたマクマスター大統領補佐官(安全保障担当)は数日前(8月5日)、NBCに出演し、トランプ大統領に提出したオプション計画には「対北予防戦争(preventive war)が含まれている」ことを明らかにしていた。

 その理由についてマクマスター補佐官は「予防戦争こそが北朝鮮の核兵器から米国を守ることができる。大統領の立場は明白だ。北朝鮮が米国を脅かすことは絶対に容認しないということだ。我々は軍事手段を含むあらゆるオプションを使用する」と語っていた。マクマスター補佐官が口にしている予防戦争とは全面戦争にならないようにするための先制攻撃を意味する。

(参考資料:衝撃の米国の対北朝鮮開戦シナリオ 

 金正恩政権が国連安保理制裁決議に従わず、ICBMや核実験を強行すれば、この「予防戦争」が現実味を帯びるかもしれない。裏を返せば、北朝鮮の次なる手はトランプ政権よる「予防戦争」を覚悟の上での決断となる。

 北朝鮮は政府声明で「万一、米国がわれわれを圧殺する無謀な試みを片付けず軽挙妄動するならば、我々はいかなる最終最手段も辞さない」と強弁しているが、この「最終手段」とは北朝鮮の論調に基づけばこれまた「戦争」を意味していることは自明だ。

[「1994年の米朝開戦危機」の際の金日成主席の「戦争覚悟発言」 (参考資料:「1994年の米朝開戦危機」の際の金日成主席の「戦争覚悟発言」])

 今月21日からの米韓合同軍事演習を前に落としどころのないトランプ政権対金正恩政権による究極のチキンレースは限りなく軍事衝突へと向かっているような気がしてならない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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