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「独り相撲」の文大統領の平昌冬季五輪の「南北単一チーム提唱」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
南北単一チーム実現に向けてIOC会長に協力を要請する文大統領

韓国の文在寅大統領は来年2月に江原道の平昌(ピョンチャン)で開催される冬季五輪での南北の単一(統一)チーム、合同入場行進構想を明らかにし、訪韓した国際五輪委員会(IOC)のバッハ会長に協力を求めていた。

バッハ会長は「南北単一チーム構想は平和を追求する五輪精神に立脚する」と文大統領の提案に一応理解を示したものの是非に関する直接的言及は避けた。

文大統領の提案は一方的な提案である。北朝鮮との事前協議もなく、また同意を得たものでもない。もちろん、北朝鮮の意向を汲んでぶち上げた構想でもない。何よりも、肝心の単一チームの相手となる北朝鮮は大統領の一連の提案に何の反応も示してない。正確に言えば、関心も興味も示していないようだ。

唯一、IOC委員である張雄(チャン・ウン)氏がIOC委員の立場からコメントしていた。なんと、文大統領の提案を「良く言えば、天真爛漫、悪く言えば、絶望的」と酷評していた。

北朝鮮主導の国際テコンド連盟(ITF)の名誉委員長でもある張委員は北朝鮮のテコンド選手団を引率し、先月(6月)下旬に訪韓したが、文大統領ら韓国側体育関係者らの再三の要請を「右から左に聞き流した」そうだ。

張委員は単一チームの構成について技術的にも「簡単ではない。薄氷の上でどうやってやると言うのだ。滑稽極まりない」と一笑に付し、南北スポーツ交流への期待が高まる韓国側に冷水を浴びせていた。

ここまで冷淡な理由なのは「政治・軍事的問題が解決される前にはスポーツやテコンドが南北の体育交流を主導できない」からのようだ。張委員は「スポーツが南北和解の仲介にはならない」と断言し、間接的に北朝鮮の考えを代弁していた。

聞くところによれば、韓国側は女性アイスホッケーに絞っての単一チームを念頭に入れているとのことだ。どうやら韓国女子チーム全員(23名)の出場を保障したうえでこれに北朝鮮選手を5~10名追加させる「23+α」」を検討しているようだ。北朝鮮からすれば補欠のような扱いだ。ソウル五輪(1988年)の際に「全種目の半分を寄こさなければ南北分散開催は受け入れられない」と駄々をこねた北朝鮮がこの案を受け入れるとはとても思えない。

まして、夏季五輪と違って、メダル獲得の可能性のない冬季五輪に出場するかどうかもわからない状況にある。北朝鮮はまだ一種目も出場権を獲得していない。今年9月にドイツで開催されるフィギュアスケートのペア―部門の予選に出場する一組だけに最後のチャンスがあるようだが、仮に出場権を得たとしてもメダル獲得は期待できそうにもない。

これまで公式大会で南北単一チームが構成されたのは過去2回しかない。1991年に開催された千葉世界卓球選手権とポルトガル世界ユースサッカー選手権だ。世界卓球選手権の時には公式、非公式協議を合わせて会談が実に23回も行われ、実現にこぎつけた。来年2月までの間に単一チームで合意を得るのは至難の業である。

では、合同入場行進はどうか?

シドニー五輪(2000年)で初めて実現した南北共同入場行進は2004年のアテネ五輪でも引き継がれたが、2008年の北京五輪で断ち切れた。決裂の理由はこの年に発足した李明博政権が盧武鉉前政権下の南北首脳会談での約束・合意事項を再考すると言ったことに北朝鮮が反発したためだ。その結果、南北縦断鉄道を利用した南北共同応援団の北京入り及び五輪応援計画もすべて凍結してしまった。政治の壁を崩すことができなかった最も顕著な例だ。

冬季五輪の開催期間である2月の平昌の積雪量が年々減少して深刻な問題となっている。3年前の2月に開催予定だった「平昌冬季スペシャル五輪」も雪不足で一部スキー競技が中止となってしまった。そんなことからいざとなったら海抜高1,360mのところにある北朝鮮の馬息嶺スキー場を使用する案が当初から出ていた。2014年1月オープンした馬息嶺スキー場が平昌と同じ江原道内にあるからだ。

韓国は朴槿恵政権の時代から江原道の崔文洵知事も江原道議会も南北共同入場・共同応援と、北朝鮮側の江原道にある馬息嶺スキー場を訓練場として活用するなどとする「平和オリンピック方案」を提案していた。オ・セボン実行委員長は「分散開催は現実的に無理だが、馬息嶺スキー場は韓国の選手や外国選手が平昌オリンピックに備え使える訓練場としていくらでも活用できる。場所も北側の江原道にあり、南北の江原道交流活性化の次元でも望ましい」と話していた。

北朝鮮が政敵である韓国の平昌五輪成功のため馬息嶺スキー場を訓練場として貸し出すだろうか?どうみても、文大統領の構想は「絵に描いた餅」にしか見えない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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