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北朝鮮 「ICBMの試験発射の準備ができている」と宣言

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
軍事パレードに登場した北朝鮮のICBM

朝鮮労働党の機関誌「労働新聞」が5月31日付でICBMについて触れていた。

準ICBM格である中長距離戦略弾道ミサイル「火星12」に続き、SLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)を地上発射型に改良した中長距離弾道ミサイル「北極星2」の発射に成功したことに関連する論評で言及されたもので、「我々は最高首脳部の命令に従い、任意の時間、任意の場所で大陸間弾道ミサイル試験発射を行う準備ができている」と表明していた。

「東方の核強国、アジアのロケット(ミサイル)盟主国である我々の行く手を阻める者はこの世にいない」と豪語する論評はトランプ米政権が空母2隻を朝鮮半島近海に展開したことを批判し、「米国の敵視政策が続く限り、今後も連続的かつ多発的に弾道ミサイルを発射する」と主張。その上で「悪の本拠地を核で焦土化できるとの我々の宣言が決して空言でないことを思い知るべきだ」と米国を威嚇していた。

同じ日に政府紙「民主朝鮮」にも「米国が過去の教訓を忘れ、引き続き対朝鮮敵対・敵視政策に縋りつく限り我々の核攻撃能力もその分、強化されるだろう。それによって招くすべての責任を米国が負うことになるだろう」との論評が掲載されていた。

ICBMについては金正恩朝鮮労働党委員長が今年の「新年の辞」で、大陸間弾道ミサイルの試験発射準備が「最終段階に達した」と述べていたが、それ以後はICBMの試験発射について言及されることはほとんどなかった。「試験発射を行う準備ができている」と「宣言」したのはこれが初めてだ。

北朝鮮は昨年2月23日の最高司令部の重大声明で朝鮮半島有事の際の第一次攻撃対象は韓国の青瓦台(大統領府)と韓国内の基地及び施設、第二次攻撃対象として「太平洋上の米軍基地と米本土である」と公言し、それに従って、昨年3月からミサイル発射実験を繰り返してきた。

昨年は、韓国全土を標的にした500kmの弾道ミサイル「スカッドC」、在日米軍基地とグアムのアンダーソン基地を標的にする「ノドン」と「ムスダン」に続き、「北極星」と称されるSLBMの発射実験も並行して行い、いずれも成功させている。とりわけ、SLBMの発射成功については国防委員会が「軍事力強化で最絶頂を迎えた一大壮挙」と自画自賛していた。

エンジンも改良に改良を加え、昨年3月には中距離ミサイルに使用可能な大出力固体燃エンジン地上噴射実験を、翌4月には「新たな大陸間弾道ロケットにより強力な核弾頭を装着して核攻撃を加える確固とした担保を手にした」とされる新型ICBM大出力エンジンの地上噴出実験を、さらに9月には「ノドン」に使用されるエンジン(27tf)の3倍の推進力を持つ新型ロケットエンジンの噴射実験に成功している。

そして、今年3月19日には高出力エンジンの燃焼実験に成功していた。金委員長は燃焼実験を高く評価した上で、「今日成し遂げた巨大な勝利がどのような意義を持つか、世界が目の当たりにすることになる」と述べ、ICBMの発射実験の時期が迫っていることを示唆していた。

今年もすでにスカッド改良型の「スカッドER」の試射に続き、「北極星2型」、そして「火星12」の試射行い、いずれも成功させている。特に、5月14日に試射された「火星12号」はロフテッド軌道で発射され、水平距離787km、最大到達高度2111.5kmに達している。通常の角度(30~45度)から発射されれば、5500kmに達し、ハワイは言うに及ばず、アラスカまで射程圏内に入るとされる。

第二次攻撃対象は「太平洋上の米軍基地と米本土である」と公言した最高司令部の重大声明に基づけば、次は米本土、即ちワシントンを狙ったICBMの番になる。まして、北朝鮮が5月29日まで3週連続して行った「火星12号」、「北極星2型」そして「精密誘導弾道ミサイル」と称される「スッカドER」はいずれも金日成主席生誕105周年の4月15日に行われた軍事パレードで初めて登場したミサイルである。

北朝鮮はこの軍事パレードに5種類の新型のミサイルをお披露目させたが、5月までの間にそのうち3種類の試射を行ったことになる。残った二つがICBMである「KN-08」(火星13)と「KN-14」(火星14)の改良型である。

トランプ大統領は北朝鮮に対してはレッドラインを設定していないが、ICBMの試射が「超えてはならない線」であることは米国内ではほぼ常識化している。

トランプ大統領は金委員長の新年辞での「ICBMの試験発射準備が最終段階に達した」との発言に「そうはさせない」と公言していたが、北朝鮮がトランプ大統領の虎の尾を踏めば、米国による軍事力行使を招く恐れもある。よほどの覚悟がなければ、試射とはいえ、ボタンを押せないはずだ。

北朝鮮は6度目の核実験について春先から「最高首脳部の命令に従い、任意の時間、任意の場所で大陸間弾道ミサイル試験発射を行う準備ができている」と言い続けている。韓成烈外務次官も4月に米国のメディアとのインタビューで「核実験の準備はできている。最高指導部が必要だと判断すれば実施される」と公言していた。しかし、未だに実施されてない。

(参考資料:北朝鮮の核実験が見送られる可能性はないのか?

米国の軍事攻撃や中国による原油供給の中止、さらには国連の制裁決議による国際包囲網が待ち受けていることから慎重にならざるを得ないのか、それとも、核実験とICBMの試射中止を交渉カードにトランプ政権に対して8月に予定されている米韓合同軍事演習の中止と制裁緩和を求めているのかは定かではない。

いずれにせよ、ICBMの発射実験をやると決心した場合、金正恩政権はそれ相応の「出血」を覚悟しなければならないだろう。

(参考資料:北朝鮮に対する米軍の先制攻撃はいつでも可能な状態

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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