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金正恩政権は6度目の核実験に踏み切れるか

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
チキンレースの様相となった金正恩委員長と習近平主席

北朝鮮の核実験の「Xデー」とみられている4月25日が目前である。

この日は、朝鮮人民軍創建85周年にあたることから「太陽節」(金日成主席生誕日)の4月15日に続いて核実験の可能性が取り沙汰される所以である。金正恩政権が核兵器完成に向けて、また国威発揚と軍の士気高揚のため、さらには米国をはじめとする外圧への反発として強行するのではと、日米韓など周辺諸国は極度に警戒している。

しかし、冷静に考えてみると、北朝鮮は公式にも、非公式にも一度も「核実験を4月中に実施する」と予告も、公言もしたことはない。外務省も、労働新聞などメディアも後にも、先にも「核実験の準備はできている。最高指導部が必要だと判断すれば実施される」(韓成烈外務次官)と繰り返しているだけだ。要は、4月中にやるかどうかは、金正恩委員長の決心次第ということだ。

これまでに核実験は過去5回実施されているが、米韓合同軍事演習期間中(3-4月)に行われたことは一度もなかった。1回目(2006年)は10月、2回目(2009年)は5月、3回目(2013年)は2月、4回目(2016年)は1月、5回目(2016年)は9月と、いずれも米韓合同軍事演習期間を避けて行われていた。

トランプ政権の北朝鮮に対する軍事的プレッシャーはオバマ政権の比ではない。この期間、米国の戦略爆撃機「B-1B」がグアムのアンダーソン基地から飛来し、江原道のヨンウォル郡にある韓国空軍の「必勝射撃場」で爆撃訓練を行ったのは一度ではない。2度、3度も繰り返して行われてきている。空対地巡航ミサイル24基など61トンに及ぶ兵器を搭載しており、930km離れた場所から北朝鮮の核心施設を半径2~3km内で精密打撃することが可能だ。

また、通常兵器では最強の爆弾と称される大規模爆風爆弾「MOAB」もアフガンのイスラム国支配地域に初めて投下し、北朝鮮にその威力をまざまざと見せつけた。「MOAB」は有事の際は、金正恩委員長ら北朝鮮最高司令部が作戦を担う地下バンカーなど核心施設を狙っていることは言うまでもない。

さらに、米韓合同軍事演習に参加して、一度は韓国の釜山港を出港したはずの「原子力空母も「カール・ヴィンソン」も数日内に朝鮮半島沖に戻ってくる。FA18」など爆撃機24機、対潜ヘリ10機、「E2C」など早期警戒機4機、電子戦機「EA18Gグラウラー」なども含め90機が搭載されており、シリア空爆のように海上からの攻撃がいつでも可能な状態にある。

国際社会の外交的圧力も日増しに強まっており、28日には北朝鮮問題に限定した国連安保理理事国閣僚会議が米国のティラソン国務長官の司会の下に行われる。核実験やミサイル発射を再度強行すれば、閣僚会議の結果がどうなるかは北朝鮮が一番よく知っているはずだ。

友好国・中国の圧力、経済的締め付けも一段と強まっている。

米中首脳会談後、北朝鮮の外貨獲得主力輸出品目である石炭の輸入禁止、中国国際航空の平壌便の運航停止、中国人韓国客の北朝鮮渡航規制などに踏み切った習近平政権は北朝鮮が中国の説得を無視し、核実験を強行すれば、北朝鮮の生命線である原油供給を大幅に削減することも辞さないと北朝鮮を牽制している。

北朝鮮が苛立っていることは、朝鮮中央通信が21日に「彼ら(中国)が誰かに踊らされて経済制裁に執着するならば、われわれとの関係に及ぼす破局的な結果も覚悟すべきだ」と不満を表明していることからも明らかだ。金正恩委員長にとっては習近平主席とも「チキンレース」を展開する羽目となった。

北朝鮮は「我々の核抑止力は国と民族の生存権を守るためのものであり、何かと交換するためのものではない」(朝鮮中央通信)とし、「経済援助などの見返りに核放棄はしない」と粋がっても、また米国の軍事プレッシャーにも外務省報道官が21日の談話で「強大な核を保有した以上、全面戦争には全面戦争で、核戦争には核打撃戦で迷わず対応する」(外務省談話)と強弁しても、内心は穏やかでないはずだ。

遡ってみると、北朝鮮が核実験を予告、示唆しておきながら、実際にやらなかった例は何回かある。

一度目は、2010年の年で10月から11月にかけて、二度目は2012年で、4月から5月にかけて、そして3回目は2014年で、国連安保理の北朝鮮非難声明に反発して北朝鮮外務省はこの年の3月30日に4回目の核実験、それも「新たな形態の核実験」を示唆していたが、実際に4回目が実施されたのは、およそ2年後の2016年1月であった。

現状では、よほどの覚悟がなければ、6度目の核実験はできないだろう。やると決心した場合、金正恩政権はそれ相当の「出血」を覚悟しなければならないだろう。

もしかしたら、今回も、やらないかもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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