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日本は北のICBMに集団自衛権を行使するか

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
北朝鮮のICBM発射の動きを監視する米軍の海上レーダーSBX-1

安倍晋三総理は先週(1月26日)、衆議院予算員会で北朝鮮のミサイル問題について触れた際に日本がミサイル攻撃を受ける前に相手のミサイル基地を叩く「敵基地攻撃能力」の保有を検討することを示唆していた。

自衛の範囲内での敵基地攻撃は国民の生命と安全、財産を守るために他に手段がない場合、即ち止むを得ない場合は、憲法でも許されている。

民進党の前原誠司議員はかつて「ミサイル発射が日本領土内に対して行なわれた場合、北朝鮮の基地を攻撃することが憲法上認められる」と発言し、政府に質したことがあった。当時、故小渕恵三総理も「誘導弾等の基地を叩くことは法理論的に自衛の範囲に含まれる、可能である」と答えていた。

現実問題として、国交はないものの、交戦状態にない、領土問題や資源紛争のない日本と北朝鮮が一戦交える根拠は見当たらない。日本が北朝鮮からミサイルを撃ち込まれる必然性もない。例外があるとすれば、二つのケースだ。

一つは、北朝鮮に大量破壊兵器を廃棄させるため国連が憲章第7章第42条を適応し、国連軍あるいは多国籍軍が海上封鎖あるいは軍事力行使に出て、それに日本が国連決議に従い、国連加盟国として協力した場合と、もう一つは、休戦状態にある朝鮮半島での米韓対北朝鮮による開戦に伴う、あるいは米国の自衛権の行使の名による北朝鮮ミサイル基地攻撃に日本国内の米軍基地が使用された場合である。

朝鮮半島で戦争が勃発すれば、在日米軍は自動的に参戦する。沖縄から米海兵隊が朝鮮半島に上陸し、横須賀から米空母が出動し、そして三沢など在日米軍基地から戦闘爆撃機が発進される。また、日米安保条約が適応され、日本は米軍の補給基地、兵站基地、あるいは後方基地と化す。日本から韓国に武器弾薬、燃料など軍需救援物資が運ばれる。日米安保条約の中(第6条)に日本の安全と、極東における国際平和と安全を維持するため米軍が日本の施設と区域を使用することが許されていることによる。

では、北朝鮮が発射の動きを見せている長距離弾道ミサイル(ICBM)に日本はどう対応するのだろうか?

(参考資料:北朝鮮はICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射するか

日本の領土、領海に本体、もしくは破片が落下する場合に備え破壊措置命令が出されている。不測の事態に備えた、自衛隊法82条の3に規定されている自衛隊の行動であり、国民の生命と安全を守るため日本の領空又は公海において弾道ミサイルの撃破を行うことができる。「飛翔体」の落下は厳密に言えば領土、領海、領空侵犯に該当するので、迎撃は国際法的に許される。

破壊措置命令はこれまでも北朝鮮のミサイル発射の兆候の際には発令されてきたが、ミサイルの追跡は行われたものの実際に破壊したことは一度もない。その理由の一つは、2009年4月の「衛星」と称して発射された「テポドン2号」を最後に北朝鮮のミサイルが日本列島を飛び越えてないことによる。

北朝鮮はその後も「テポドン」を2012年4月と12月、さらには2016年2月と3度発射しているが、いずれも日本海に面した基地からではなく、黄海(西海)に面した東倉里基地から発射されており、そのコースは南西諸島からフィリピン沖に向けられていた。エンジントラブルなど器機に故障が生じ、コースが外れない限り、日本の領土、領海に落下する可能性は低かった。

北朝鮮が今回、長距離弾道ミサイルを日本海に向けて発射すれば、日本列島を通過し、太平洋上に落下する公算が高い。このため米国は看過できないとして「撃墜も辞さない」(カーター前国防長官)との立場だ。それというのも、今回の長距離弾道ミサイルは北朝鮮が主張する平和目的のための人工衛星の打ち上げではなく、北朝鮮自ら公認しているように米本土攻撃可能な大陸間弾道ミサイルの初の発射実験であるからである。

現在、日米韓はぞれぞれの海域に迎撃システムを備えたイージス艦を配備するなど監視体制を強めている。

(参考資料:北朝鮮のICBMを迎撃するのは米国、韓国、それとも日本のイージス艦?

日米のイージス艦には150~500キロメートルの高度で迎撃するSM-3対空ミサイルが搭載されており、理論的には大気圏進入前あるいは再突入の際に落下する北朝鮮のICBMの迎撃が可能だ。

安倍総理は2014年2月10日、衆院予算委員会で集団的自衛権を行使するケースの一つとして米国に向かって発射されたミサイルの迎撃を例示していた。「将来、技術的に可能となった場合、グアム、ハワイに向かっていくミサイルを撃ち落とす能力があるのに、撃ち落とすことができないのか」と答弁していた。北朝鮮のミサイルを念頭に入れた発言で首相は「(行使)できないということの中で日米同盟が危うくなる」とも強調していた。

この発言から3年経った今、実際に日本列島を飛び越えて来る北朝鮮のICBMにどう対応するのだろうか?

(参考資料:北のICBMを迎撃する?しない?できない?

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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