北朝鮮のピラミッド型ホテル 30年目にしてオープンか?

左から右に豹変したピラミッド型105階建て「柳京ホテル」

北朝鮮の経済不振の象徴として半ば廃墟のまま30年間、平壌のど真ん中にそびえ立っていた柳京ホテル。突如「来年開業か?」との情報が流れている。着工から30年も経てば、通常は改修の対象となるところだが、この柳京ホテルは新築お披露目ということになる。

来年開業ならば、その時期が金正恩委員長の33歳の誕生日の1月8日か、あるいは2月16日の父親の金正日総書記の75歳の誕生日か、それとも祖父・金日成主席の生誕105歳の4月15日に合わせるのか、興味深い。

柳京ホテルは故金正日総書記の「世界で一番高いホテルを建設せよ」の号令の下で1987年に建設が始まったことで知られている。

北朝鮮には大きな建造物が幾つもある。金総書記が後継者(書記)の時代(1980年時代)に父親の金日成主席の偶像化の一環として、また後継者としてのスケールの大きさや胆力を内外に誇示するため建てられたものである。

一つは平壌凱旋門で、金主席が祖国解放後の1945年9月に北朝鮮入りしたのを記念して1982年4月14日、金主席70歳の誕生日に建造された。高さは60メートル、間口50メートルで「パリ凱旋門より10メートルも高い」と北朝鮮は誇っていた。

二つ目は主体(チュチェ)思想塔。主体思想はマルクス・レーニン主義を発展させた北朝鮮独自の思想で、「どうせ建てるなら、世界最高のものにすべきだ」との金書記の発案で平壌の心臓部に建てられた。塔身の高さは150メートル、その上に高さ20メートルの赤い聖火が装置されている。高さでは米国の「自由の女神」を凌駕する。

これ以外にも北朝鮮の観光コースに入っている大同江河口に位置する全長8キロメートルの北朝鮮最大の関門、西海関門や韓国の国会議事堂よりも規模の大きい錦壽山議事堂(主席宮殿)、ソウルの88五輪競技場(蚕室運動場)よりも5万人多い15万人の収容能力を持つ綾羅島競技場、人民大学堂、平壌産院などが次々と建てられた。

金正日氏が後継者としてデビューした1980年に建てられた平壌産院はベッド数1500台(成人用1000台、新生児用500台)と規模は当時、世界一と言われた。当時北朝鮮の出版物はいずれの建造物も並大抵の指導力では到底成しえないとしてこれをもって「世界の奇跡」と評していた。

柳京ホテルもそのうちの一つで、ゴールデンタワーと呼ばれていた韓国の「6.3ビル」(地上60階建、高さ249メートル)や米国の「エンパイア・ステートビル」(102階建)よりも「高いホテルをつくれ」との金書記の指示に基づき、建築面積36万平方メートル、地上からの高さは高麗ホテルより160メートル高い300メートルの客室3千7百を備えた105階建てのホテルが設計された。

ピラミッド型のホテルには2千席の会議室や2千人収容の宴会場、その他にレストラン、プールなどが設けられ、ホテルの最上階には三つの展望レストランが作られることになっていた。金正日氏は父親の80歳の誕生日の記念物とするため1992年4月までに完成を指示していたが、1990年に外観が80%出来上がったところで資金不足に陥り、工事が中断してしまい、金主席は1994年7月に他界してしまった。

柳京ホテルは実は、北朝鮮初の外国企業(フランス企業)との合弁によるものだった。合弁先のフランスの企業が大韓航空機爆破事件(1987年11月)などで北朝鮮の対外イメージが著しく悪化したことで採算が合わないと、嫌気をさして途中で手を引いたことが主たる原因だった。

(参考資料:北朝鮮―フランス―シリアの奇異な三角関係

北朝鮮は新たなパートナーを求め日本にも食指を伸ばし、1990年に訪朝した金丸信副総理を通じて日本のゼネコン代表団にも協力を要請したが、訪朝したゼネコン代表団の一人から「一から建設するなら簡単だが、再建は無理」とさじを投げられていた。その後、ジュネーブに本拠のあるケンペンスキー・グループが1999年に合弁先である朝鮮妙香山経済連合と契約を交わし、補修に乗り出していた。

(参考資料:30年前に金日成主席が関西財界人に吐露した日朝正常化の理由

補修工事では500台収容の駐車場、70台の高速エレベーター、立体高速道路、気象、地震観測などが含まれていた。2001年には韓国の経済人が柳京ホテルの工事現場で大型クレーンを目撃したことから再開が始まったことが確認されていた。

新たな計画では故金日成主席生誕90周年を祝して2002年4月に予定されていた「アリラン祭典」に間に合わず筈だった。しかし、ケンペンスキー・グループも資金不足から途中で撤退したため再び工事がストップしてしまった。

現在は、北朝鮮で携帯電話通信事業を始めたエジプトの財閥「オラスコム」傘下の携帯通信大手、オラスコム・テレコム社が投資し、ホテル建設に関与していると伝えられているが、オラスコムは2008年から第3世代プリペイド式携帯電話(3G)事業を開始し、昨年上半期だけで北朝鮮で1億6千万ドルの収益を上げていた。

同社のナギブ・サウィリス会長はチュニジア政変の影響でエジプトに反政府デモが散発的に始まっていた2011年1月21日に金正日総書記に招待され、夕食を共にしている。金総書記が外国企業人を接待したのは1998年以来、13年ぶりだった。

中朝国境でのセメント産業や金融事業にも意欲をみせていたサウィリス会長は欧米メディアに北朝鮮への投資理由について「北朝鮮の潜在的な成長の可能性」を挙げていたが、今年3月に採択された国連の制裁決議や北朝鮮への外圧が強まったことから北朝鮮からの事業の撤退を表明していた。

昨年10月にホテル上層階で電気が灯された様子がカメラに収められていたことやサウィリス会長が今月初めに平壌を訪問していたことから柳京ホテルの開業間近と報道されているが、北朝鮮はいつ正式発表するのだろか?

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮半島問題専門誌「コリア・レポート」創刊。1986年 テレビ、ラジオで評論活動を開始。1998年 ラジオ短波「アジアニュース」パーソナリティー。1999年 参議院朝鮮問題調査会の参考人。2003年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~2015年3月)を歴任。外国人特派員協会会員、日本ペンクラブ会員。著書に「世界が一目置く日本人、残念な日本人」(三笠書房)「大統領を殺す国 韓国」(角川)「金正恩の北朝鮮と日本」(小学館)「北朝鮮100の新常識」(マサダ)「韓国人と上手につきあう法」(ジャパンミックス)など20数冊

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