朴槿恵大統領はなぜ、かくも強気なのか

朴槿恵大統領(写真:ロイター/アフロ)

朴槿恵大統領が辞めそうで辞めそうにもない。支持率が歴代大統領最低の5%であっても、退陣を求める100万人規模のデモにあっても、大統領の座を手放す考えはないようだ。来月日本で開かれる日中韓首脳会談への出席表明は絶対に退陣しないとの明確な意思表示にみえる。

検察は朴大統領が「崔順実ゲート事件」と称される一連のスキャンダルの「中心にある」として本日(18日)をタイムリミットに事情聴取に応じるよう求めているが、検事出身の朴大統領の弁護士は「来週には応じるよう協力する」と検察の要請を完全に無視している。朴大統領側はなぜ、かくも強気なのか?

その理由の一つは、辞めれば逮捕される恐れがあることだ。

大統領は違法行為を働いたとしても在任中は逮捕も刑事訴追もされない。憲法で守られている。しかし、辞任して、青瓦台(大統領府)を去れば、その瞬間、司直の手に墜ちる。朴大統領にとって悪夢以外の何物でもない。従って、辞任という「二文字」は朴大統領の頭の中には最初からなかったようだ。

第二の理由は、健康に問題がない限り、辞める必要がないことだ。

大統領は任期満了(2018年2月)まで職務を全うする責務を負っている。また、憲法でその権利も保障されている。従って、辞めることは憲法違反になると主張している。

朴大統領は二度目の謝罪会見(11月4日)で「国民から委ねられた責任に空白を生じないようにするため」としたうえで「(事件の)真相究明と責任追及を検察に任せ、政府は本来の機能を一日も早く回復しなければならない」と述べていた。「国政の混乱と政治空白を防ぐ」ことを盾にしていることからもわかるように混乱を招いたことについて謝罪はしても、辞める気は全くなかった。

第三の理由は、野党が弾劾を求めても通らないと確信していることだ。

憲法第65条1項に基づけば、国会は大統領が職務執行の過程で憲法や法律を違反した場合に限って弾劾の訴追を議決できる。即ち、朴大統領が法律に違反したことを検察が立証しない限り、現実には弾劾の訴追はできない。また、検察の事情聴取の結果、大統領が「黒」だったとしても、弾劾を可決するには国会議員(300人)の3分の2、即ち与党・セヌリ党(129人)から29人が造反しない限り、不可能だ。与党内には非主流派(非大統領派)が23人いるが、現在までのところ、弾劾に賛成を表明している議員は4人のみだ。

仮に弾劾が国会で可決されたとしても、最終的にその裁定を決める憲法裁判所の9人の裁判官のうち6人(3分の2)が国会決議に賛成しない限り弾劾できない。現在9人いる裁判官のうち3人は大統領が自ら指名した裁判官であり、裁判長も朴大統領が任命した人物である。弾劾を回避できると自信を持っている所以である。

第四の理由は、検察に捜査されても、辞任しなければならないほどの違法行為を行ったとの結論には達しないと確信していることだ。

朴大統領は4日の謝罪会見では「国家の経済と国民の生活のためになればと推進した仕事なのにその過程で特定個人(崔順実容疑者)が利権をあさり違法行為を行った」として、友人である崔容疑者への監督不行き届きを詫びだけである。

現在、大統領には機密文書漏えいと財界に圧力を掛け、崔容疑者が背後で設立した文化・スポーツ財団に献金させた共謀容疑が掛けられているが、朴大統領側は無関係を主張し、容疑を一切認めてない。

検察の事情聴取が来週に引き延ばされたが、朴大統領側は20日に立件される崔容疑者らの起訴状を精査し、対応すれば検察の追及を交わせると踏んでいるようだ。崔容疑者らがどのような供述をしたとしても朴大統領が「関与」を否認する限り、大統領を「主犯」あるいは「共犯」としての容疑の立証は困難とみている。

五番目の理由は、大統領府も政府も、そして与党の執行部(主流派)も一致団結して朴大統領を支えていることにある。

朴大統領の辞任は即、朴政権の崩壊に繋がる。政権が崩壊すれば、大統領スタッフは総入れ替えとなり、政府役人の多くは失職する。与党執行部も総退陣を迫られ、非主流派に取って代わられる。自らの既得権を守るためにも朴大統領には辞めてもらっては困る。

六番目の理由は、軍部が朴大統領を見放していないことだ。

先進国以外の国々では政権が崩壊したイラクやリビア、エジプトなど中東を例に取るまでもなく、軍が支えなければ政権は維持できない。

38度線を挟んで北朝鮮と対峙している軍の関心は国内のスキャンダルよりも、北朝鮮の脅威である。仮に、朴大統領が辞任し、大統領選挙となれば、現状では野党が政権を握る可能性が高い。その野党は軍が推進している高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の配備にも、日本との機密情報共有協定にも反対している。強硬な現政権とは異なり北朝鮮にも融和的だ。

女性大統領は軍にとって非常に扱いやすい。軍歴もなく、知識も乏しいからだ。加えて、最高司令官である朴大統領は軍に全幅の信頼を寄せている。軍が支えている限り、権力の維持は可能だ。

最後の理由は、ここで踏ん張れば、そのうち国民の抗議デモも支持率も底を突き、節目が変わると確信していることだ。

朴大統領に抗議し、退陣を求めるデモは、主催者発表で1回目(10月29日)が2万人、2回目(11月5日)が20万人、そして3回目が100万人を突破した。朴大統領はおそらく、これがピークで、これ以上拡散することはないと読んでいるようだ。仮に4回目となる今週土曜(19日)のデモが前回よりも下回るようだと、朴大統領は完全に息を吹き返すかもしれない。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動開始。98年 ラジオ「アジアニュース」パーソナリティー 。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。著書に「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人、残念な日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など25冊

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