「死に体」の朴大統領 弾劾か?下野か?居座りか?

国民に謝罪する朴槿恵大統領

韓国では朴槿恵大統領が崔順実(チェ・スンシル、60歳)なる民間人女性に演説文など大統領関連文書を事前に流し、アドバイスを受けていた疑惑が発覚し、大騒ぎになっている。韓国メディアはこの朴大統領による機密漏えい事件をこぞって米国の「ウォーターゲート事件」(盗聴事件でニクソン大統領が辞任に追い込まれた)に倣って「チェスンシルゲート事件」と名付け、特筆大書している。

「韓国版ウォーターゲート事件」と呼ばれるほどの一大疑獄事件に発展したのは、この女性と朴大統領(青瓦台)との関係が尋常でないことが浮き彫りになったことによる。これまで指摘された疑惑は次のようなものだ。

▲崔順実は国家機密にあたる大統領の演説を事前にチェックし、手を加えていた。

▲演説文を含め大統領関連書類をソウルの事務所で毎日見ていた。その中には対北関係や安保関連の重要文書も含まれていた。青瓦台のチョン・ホソン秘書官が文書を伝達していた。その件数は44件に上る。

▲青瓦台のアン・ジョンボム経済担当首席秘書官やキム・ジョン文化体育部第2次官を通じて影響力を行使していた。

▲朴政権を支えるため「諮問委員会」の性格を持つ秘密会合を定期的に開き、国政全般に関与していた。青瓦台第2付属室のユン・ジョンチュ行政官の請託など青瓦台人事にも介入していた。

▲青瓦台が大企業に圧力をかけて資金(500億ウォン)を出させて文化支援財団「ミル財団」とスポーツ支援財団「Kスポーツ財団」を設立させた。財団で「会長」と呼ばれていた崔順実はその金を個人流用していた。

▲青瓦台のコネを使って娘(チョンユ)を梨花女子大に不正入学させた等々である。

一連の疑惑について当事者である朴大統領が25日の会見で「大統領就任直後の一定期間、彼女の意見を聞いたことがある」と機密漏えいを認め、謝罪したことから韓国のメディアは「朴大統領は崔順実の案山子」とか、「朴槿恵政権でなく崔順実政権」とか、「崔順実は朴大統領の日常生活から国政全般に関与した陰の実力者」との見出しを付け、スクープ合戦を繰り広げている

こうしたマスコミ報道を受け、市民団体は「大統領記録物管理に関する法律違反と機密漏えいの容疑」で崔氏や青瓦台関係者らを大検察庁(最高検)に告発し、これを受け検察は崔氏の自宅や財団に献金した全国経済人連合会(全経連)の事務所などを一斉に家宅捜索に入った。但し、漏えい側の朴大統領(青瓦台)は現在のところ、捜査の対象から外れている。大統領は憲法84条によって在任中は刑事訴追されないためだ。

そのため国会は「朴大統領の謝罪で済む問題ではない」として与野党ともに疑惑解明のため特別検察官制度の導入を求めることで一致している。高位層の非理や捜査機関が連座した事件など検察による捜査が難しい場合に導入される制度である。

今後、注目されるのは朴大統領の去就である。

与党「セヌリ党」の李貞鉉党代表は「今回の事態に対し責任ある人物は例外なく交代しなければならない」述べ、大統領府と閣僚の大幅刷新を求めている。党内には朴大統領の党籍離脱を求める声もある。一方、野党の一部には弾劾、あるいは下野を求める動きがある。

しかし、現実問題として大統領の弾劾は国会議員(300議席)の3分の2の賛成がなければ可決されない。過去に一度だけ少数与党の政権だった盧武鉉大統領が弾劾されたことがあったが、現在の与党「セヌリ党」は3分の1を超える129議席を有している。少なくとも29人が造反しない限り、朴大統領の弾劾は不可能だ。

では、下野はどうか?

これまた、歴代大統領の例を見るまでもなく、健康上に問題がない限り、失政による辞任は過去に一度もない。「強情」とも言われるぐらい強気な性格で知られる朴大統領が自ら進んで退く可能性は高くはない。

最大野党の「共に民主党」(121議席)は下野よりもむしろ、内閣を総退陣し、救国中立内閣を発足させ、総理に全権を委ね、朴大統領はお飾り的な存在のままにする案が浮上しているが、朴大統領がこれを受け入れるかどうかも微妙だ。要は世論の動向次第だ。

韓国CBCの最新調査では「弾劾、下野すべき」が42.3%もあった。また、朴大統領の支持率は27日現在、17.5%と過去最低の支持率である。大統領就任時(2013年2月)の42%に比べて著しい落ち込みだ。ここ数日間だけで24日の28.7%、25日の22.7%、26日の17.5%と急落の一途を辿っている。

(下降線をたどる朴槿恵大統領の支持率 依然浮上せず!

国民の信を完全に失い、「死に体」に陥っていることは紛れもない事実である。不支持の理由は「国政」や「経済」失政などに加え、「独善的で、独断的な統治スタイル」も問題にされている。

韓国の労働組合「民主労組」は来月12日に20万人を集め民衆総決起大会を開き、朴政権の退陣を求める方針だ。また、過去に軍事独裁政権打倒の起爆剤となった学生運動も久しぶりに活気づき、不正入学騒動の渦中にある梨花大学総学生会をはじめ高麗大、漢陽大、東国大など多くの大学で「大統領を含む関連者も聖域なき捜査を求める」時局宣言が発表されている。

今回の事件がなくても、朴政権に対しては在野や市民団体からは弾劾や下野を求める動きがあった。先の国会国政監査委員会の監査結果、反政府的な文化人や芸術家、言論人らのリストを秘かに作成し、彼らの文化・芸術活動を支援しないよう圧力を掛けていた事実が浮かび上がったからだ。

支持者らがブッラクリストに挙げられたことに激怒した朴元淳ソウル市長は「もうこれ以上我慢できない。このような野蛮な不法行為や権力乱用を行っている現政府と大統領は弾劾対象にすべきではないか。このような事件が西欧で起きたならば、いかなる大統領も、いかなる内閣も辞任することになるのでは」と朴大統領の下野を呼び掛けていたが、今後大統領への追及が強まれば、「死に体」のまま残り1年4カ月、大統領の職を全うするのは容易ではない。

(参考資料「朴大統領を弾劾すべし!」文化人ブラックリスト作成疑惑で大統領VSソウル市長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動開始。98年 ラジオ「アジアニュース」パーソナリティー 。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。著書に「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人、残念な日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など25冊

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