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国連安保理が追加制裁すれば、初のICBM発射か、6度目の核実験か

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
一度も発射テストされてない長距離弾道ミサイル「KN-08]

国連安保理は北朝鮮が5度目の核実験を強行した9月9日に15か国の理事国傘下のもと緊急会議を開き、言論向け声明を発表した。今年だけで10回目となる声明は過去9回とは異なり「適切な措置を取る作業に迅速に着手する」と表明している。これに伴い安保理は北朝鮮に対して新たな制裁を追加し、発動することになる。

通常、制裁決議採択までには3週間程度かかる。早ければ今月中の採決も可能だが、早いか遅いかは中国とロシアの対応次第だ。今年1月の4度目の核実験の時には56日目に採択されている。

「過去20年で最強の制裁決議」と称される「2270号」には▲すべての輸出入の貨物検査の義務化▲北朝鮮の金、レアアースなど鉱物資源の輸出禁止▲小型兵器を含む全ての武器輸出の禁止▲航空油とロケット燃料の供給禁止などが盛り込まれたが、中国の反対にあって除外された項目もあった

中国の抵抗で盛り込まれなかったのは▲対北原油供給の中断(空軍とロケット使用に限定)▲貿易の全面中断と海外人力(5万人=2~3億ドル)の送金停止▲北朝鮮の地下資源の輸出(大量破壊兵器の資金とならないものは除外された)▲セカンダリーボイコット(北朝鮮と取引する第三国への制裁)の4項目である。「北朝鮮の国民が受ける深刻な困難に深く憂慮する」と明示されたため除外された。中露が同意すれば、今回の追加制裁でこれらの制裁が新たに追加されることになる。

問題は北朝鮮の対応だ。過去の例では、核実験やミサイル発射を自制するどころか、反発して、むしろ拍車を掛けてきている。

▲2006年

北朝鮮のミサイル発射(7月5日)への非難決議「1695号」」が7月15日に採択されると北朝鮮は「決議に拘束されない。あらゆる手段と方法を講じて自衛的戦争抑止力を一層強化する」と宣言し、3か月後の10月9日に初の核実験に踏み切っている。安保理は5日後の10月14日に制裁決議「1718号」を採択した。

▲2009年

北朝鮮が4月5日に「人工衛星」と称して「テポドン」を発射すると、安保理は「制裁決議『1718』に違反する」として制裁委員会が北朝鮮企業3社を指定し、国連加盟国に資産凍結を義務付けた。北朝鮮外務省は「対抗措置」として「核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験を含む自衛的措置を講じる」と発表し、5月25日に予告もせず、2度目の核実験を強行している。

▲2012年

北朝鮮が12月12日、4月に続いて再び「テポドン」を発射すると、安保理は翌年の1月23日、制裁決議「2087」を採択。北朝鮮は2日後の1月25日、「自主権守護のため全面対決に出る」(国防委員会の声明)と宣言し、労働新聞もまた「核実験は民心である。他に選択はない」との正論を掲げ、翌2月12日に3度目の核実験を行った。安保理は即座に非難声明を出し、翌3月7日には制裁決議「2094」を採択している。

▲2016年

北朝鮮はテポドン発射と核実験の順番を入れ替え、「水素爆弾」と称する核実験を1月6日に行った。これに対して安保理は翌日、報道声明を全会一致で採択し、北朝鮮を強く非難。すると北朝鮮は翌月7日に「テポドン」を発射している。

こうした前例からして、これからも同じ繰り返しが予想される。

今回の5度目の核実験は水爆の核融合反応を一部利用した原爆と水爆の間の「ブースト型爆弾」の爆発実験を行ったとの見方もあるが、今後も多様な核爆弾の弾頭化(小型化・軽量化)の実験が行われる公算が強い。北朝鮮は長崎に投下されたプルトニウム型爆弾、広島に使われたウラン型爆弾、そして今年1月には水素爆弾の試験的な実験を行っている。

水爆はまだ完成に至ってない。完成させるにはもう一回か、二回の実験が必要となる。ちなみにインドは1998年5月11日に一日に3回実験をし、二日後の5月13日にも2回実験(計5回)をしている。また、パキスタンも同じ年の5月28日に一日に5回実験をし、これまた二日後の30日に1回と計6回も核実験を行っている。

韓国統一部の洪容杓長官は9日に開催された国会外交統一委員会で6度目の核実験の可能性について問われ「そういう可能性を排除することはできない」と答えている。

また、ミサイルについても今から7年前「国連安保理が制裁決議すれば、自衛的措置として、大陸間弾道ミサイルを発射する」と威嚇し、ICBMとみられる三段式の「KN-08」を2012年4月の軍事パレードでお披露目したもののこれまで一度も発射テストをしたことがない。

今回5度目の核実験は9月9日が「Xデー」となったが、日本の排他的経済水域に落下した5日のミサイル3発への安保理非難を想定し、早い段階から9日の核実験を計画していたようだ。そのことは今年1月6日の核実験が三週間前の昨年12月15日の時点で金委員長が「(来年)1月6日に実施せよ」と指示書にサインしていたことからも明らかだ。

安保理の追加制裁決議が仮に今月中の採択となれば、それを口実に労働党創建日に当たる来月10日前後に実施する可能性が高い。折しも、党創建日前日の9日は北朝鮮初の核実験成功10周年にあたる日でもある。

北朝鮮の「対抗措置」が太平洋に向けての初のICBMの発射になるのか、それとも6度目の核実験になるのか、それが問題だ。

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ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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