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北朝鮮は核とミサイル開発資金をどうやって調達しているのか

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
リョンヤン鉱山でマグネサイトを採掘

韓国国防部の発表によると、北朝鮮は金正恩体制下でスカッド16発、ノドン6発、ムスダン6発、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)3発と、弾道ミサイルだけで31発発射している。 

スッカドとノドンは過去、中東への売却額が1基10億~20億ウォンと推定されているので、22発で220億~440億ウォンになる。

ムスダンは1発当たりの相場が30~60億ウォンと見積もられているので、6発で180~360億ウォン程度になる。

SLBMはスカッドやノドンの5倍程度の50億~100億ウォで、すでに3発発射しているので150億~300億ウォン費やされている。

結論として、金正恩政権は過去5年間で31発の弾道ミサイル発射に550億(5千5百万ドル~1、100億ウォン(1億1千万ドル)の資金を投じたことになる。これに発射システムや人件費を合わせるとそれを上回る費用が投入されたものと推計される。少なくとも1億1千万ドルの資金があれば、北朝鮮の全国民(約2、400万人)が1~2か月は食べられるだけのトウモロコシを購入できると韓国のメディアは伝えている。

韓国当局は2012年4月に打ち上げに失敗した「衛星」と称する長距離弾道ミサイル・テポドンの発射に8億5千万ドルの資金が投じられたと当時発表していた。この年12月に北朝鮮は再発射しているので、合計で17億ドルもテポドン発射に使われたことになる。今年2月にも一発発射しているので、テポドンだけで25億5千万ドルも費やしたことになる。

また、核実験も、金正恩政権下で2013年2月と今年1月と2度行っている。ちなみに2009年5月の核実験の際に「3億ドルかかった」と韓国当局は推定していた。事実ならば、2度の核実験で6億ドルも消費したことになる。これら核と弾道ミサイルの総費用を合計すると、金正恩政権下の5年間で最大で32億6千万ドルを浪費した計算となる。

そして、また昨日(8月3日)、「ノドン」が2発発射された。

国際社会の反対を押し切って2006年10月に史上初めて核実験を強行したことで国連安保理から制裁を受け始めてから10年、金正恩政権になって2013年1月、3月、今年3月と3度追加制裁を受けながら、それも3度目の今年3月3日の「制裁決議2270」は「過去20年来最強の制裁」と言われているのにアジア最貧国とみられている北朝鮮は一体どこからこれだけの巨額資金を捻出しているのだろうか?

貿易も大幅に規制され、隠れた資金源となっていた武器輸出も完全に規制され、さらに覚せい剤や偽札による資金調達も封じ込められているのは周知の事実である。そこで考えられるのは、金や希少価値のあるレアメタルが表裏のルートで輸出され、新たな資金源となっている可能性である。

北朝鮮は地下資源の宝庫である。国土の80%に地下資源が埋蔵されている。中でも、北朝鮮は昔から産金国として名高く、1千トンから最大で2千トン埋蔵されている。

米国の金融制裁措置によりマカオの銀行にある口座(総額で2千5百万ドル=当時のレートで30億円相当)が凍結され、「北朝鮮の外貨事情は逼迫した」と伝えらえていた2006年、北朝鮮は判明しただけでも1、300kgの金塊を密かにタイへ輸出し、約33億円(当時の相場)の外貨を手にしていた。2006年と言えば、7月にテポドン、10月に初の核実験が行われた年でもある。

米商務省は今年3月に北朝鮮と金の取引をしていた米上場企業25社を摘発し、制裁を科したことで北朝鮮のゴールドがアンダーグランドで取引されている実態が浮かび上がった。

それと、制裁の包囲網に抜け道があることも問題だ。

今年3月の史上最強の国連安保理制裁「2270」では▲船舶と航空機の規制▲原油供給の規制▲資源取引の規制▲金融取引の制限拡大など盛り込まれたが、中国の反対で▲北への原油の全面中断(原油供給の禁止は空軍とロケット使用に限定された)▲貿易の全面中断と海外人力(5万人=2~3億ドル)の送金停止▲大量破壊兵器の資金とならない地下資源の輸出▲7億4千万ドルに上る対中繊維などの輸出は禁止、規制の対象外となった。

韓国の北朝鮮資源研究所が7月29日に発表した統計によると、亜鉛など制裁対象に含まれない北朝鮮の地下資源の輸出額が急増していたことが判明した。

亜鉛やマグネサイトなど5品目の対中輸出額が今年上半期は昨年同期の5千205万ドルから7千821万ドルと急増していた。特に亜鉛は14万ドルから1千144万ドルと大幅に増えている。

北朝鮮には世界的なマグネサイト鉱山が幾つもある。埋蔵量は40億トン~100億トンで世界第1位とも言われている。仮に40億トンとして韓国の2,520年分の需要に相当する。

亜鉛の埋蔵量はアジア第3位である。咸鏡南道端川の検徳鉱山はアジア最大で、埋蔵量は3億トンあると推定されている。

北朝鮮の核とミサイル開発を阻止するには中国の協力を取り付け、貿易を全面的に遮断するほかないようだ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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