追いつめられた金正恩政権の選択は?「降伏」か、「籠城」か、「暴発」か

金正恩最高司令官

北朝鮮は過去、一度も国連安保理制裁決議を受け入れたことも、認めた試しもない。その都度、不当性を主張し、排撃してきた。おとなしくなるどころか、一層強硬に出てきた。過去のケースを振り返ると;

2006年7月の長距離弾道ミサイル「テポドン」発射の際の安保理非難決議「1695号」に対しては「我々の自衛のための正常な軍事訓練の一環として行ったミサイル発射についての制裁決議を非難する」としたうえで「決議に拘束されない」と反発し、「あらゆる手段と方法を講じて自衛的戦争抑止力を一層強化する」として3か月後の10月9日に史上初の核実験に踏み切った。

核実験を問題にした国連制裁決議「1718号」に対しても採択から3日後には「国連安保理は米国を庇護している」と非難し、今後米国の動向を注視し、「それに伴い該当する措置を取る」と逆切れした。

そして、3年後の2009年4月に予告通り再度長距離弾道ミサイルを発射。安保理は制裁ではなく、議長声明を採択したが、北朝鮮は翌日、6か国協議のボイコットと2005年の6か国合意の破棄を宣言。「我々の自主的な宇宙利用権利を引き続き行使する」として長距離弾道ミサイルの更なる発射も示唆。加えて「自衛的核抑止力を強化する」として核燃料棒の再処理に着手した。

この年5月の2度目の核実験への国連制裁決議「1874号」に対しても「米国など6者会談参加国が国連安保理を盗用し、我々の衛星発射権利まで白昼に強奪する無謀なことをしなければ、今日のような事態にはならなかった」として濃縮ウランの開発着手と保有するプルトニウムの兵器化を公言。そのうえで「公海での貨物検査には軍事的に対応する」と国連安保理に真っ向挑戦した。

さらに2012年12月の4度目の長距離弾道ミサイルの発射に関する国連制裁決議「2087号」に対しても北朝鮮は採択されたその日のうちに「決議は我々の武装解除と制度転覆を追及する米国の敵視政策に盲従した結果の産物である」と非難したうえで「6か国協議と共同声明は死滅した」「朝鮮半島の非核化の対話には応じない」「核抑止力を含む自衛的軍事力を質量ともに拡大強化する」と開き直った。

そして一カ月もしない2013年2月に3度目の核実験を強行。国連安保理は核実験を最も強い表現で非難した制裁決議「2094号」を採択したが、北朝鮮はその日のうちに「安保理が公正性を少しでも持っているなら主権国家の自衛権行使と平和的科学技術活動を問題視するのではなく、国際平和と安全に脅威となっている米国の核先制打撃政策から問題視すべきである」と不満を表し、「休戦協定を白紙化し、核保有国の地位と衛星発射国の地位を永久化する」と応酬。さらに6日後には外務省スポークスマン談話で「後は、我が軍隊と人民の正義の行動、無慈悲な報復行動のみだ」と安保理を威嚇した。

北朝鮮の反発はいずれも「帝国主義者のいかなる強権にも、また大国主義者らの圧力にも屈しない」(2014年6月5日の労働新聞論説)との北朝鮮式論理に基づいている。

過去のパターンからすると、今回も北朝鮮は国連の制裁決議にミサイルの発射や核実験で応えることが想定されるが、2006年、2009年、2012年、2015年と3年のスパーンで繰り返してきたことからこれまでのように「テポドン」発射と核実験のセットでの対抗措置は取れないだろう。

確かに5度目の核実験については数か月内に可能ではある。しかし、「衛星」と称する「テポドン」は物理的に無理であろう。となると、2013年に1度配備して、発射しなかった中距離弾道ミサイル「ムスダン」か、軍事パレードに登場させておきながらこれまた一度も発射実験したことのない三段式長距離弾道ミサイル「KN-08」の発射が可能性として考えられる。

核実験にしろ、ミサイル発射にしろ、来月の31日に世界の首脳を集めてワシントンで開かれる核安全保障サミットに狙いを定めるかもしれない。ちなみに2012年4月13日のミサイル発射予告は3月23日、折しもソウルで世界53か国の首脳らが集まって「核安全サミット」が開かれる3日前であった。

問題は、今回の国連制裁決議が過去とは違い、金正恩体制を脅かしかねない史上最も強力な内容になっていること、また3月7日から兵力や装備において史上最大規模の米韓合同軍事演習、それも北朝鮮の核・ミサイル基地や中枢への先制攻撃及び金第一書記ら指導部の除去を想定した「5015作戦」が実施されることから北朝鮮の反発はミサイルの発射や核実験という単なる軍事示威に留まらず、朝鮮半島を戦争瀬戸際にまで追い込む大胆な戦術を駆使する可能性も考えられなくもない。

現実的には前代未聞の経済制裁と外交圧力、それに軍事的圧迫という三重苦に直面した金正恩政権にとっての選択肢は狭まれており、3択しかない。

一つは、ホールドアップ、即ち「白旗」を掲げることだ。

「制裁は6か国協議の場に引き戻して非核化させることが目的である」と、中国は北朝鮮に「脱出の道」を与えているが、「二度と出ない」としている6か国協議への出席は屈服、降伏に等しい。まして、1対5の場に引っ張り出されることは被告席に立たされることと同じだ。実際に北朝鮮は2010年1月8日の外務省談話で「自主権の侵害を受けながら、同権を侵害した国と同じテーブルに着き、自主権守護を目的に保有した抑制力について協議するのは話にならない、プライドが許さない」と主張していた。

昨年3月28日の労働新聞論評でも「何人かが共謀結託、こそこそ話をして我々の核を奪うと取引していることそのものを絶対に容認しない。米国にへつらい、体面も捨ててしまった者は我々の核放棄を夢見るな」と名指しこそ避けたものの米国と妥協した中国の対応を批判していた。中国の王毅外相は「制裁が北朝鮮の民生に悪影響を及ぼしてはならない」と全面制裁に反対し、制裁を限定的に留めたと言っているが、北朝鮮は「何もできないようにさせたうえで自分らが投げ与えるパンくずで延命させようとするのが下心である」(2009年7月27日の外務省代弁人談話)と中国への警戒と不信は半端ではない。

となると、次の選択は米国の外交圧力、経済制裁に半世紀以上耐え抜いたキューバが歩んだ道だ、即ち「籠城」である。

北朝鮮は5月に36年ぶりに開かれる第7回党大会を前に盛んに「自力更生」を訴えている。金正恩第一書記自らが全国民に「食料を蓄えるよう」指示している。食糧さえ確保すれば、どのような経済制裁にも耐え抜けるとの考えだ。今回の制裁はそれでも全面制裁ではなく、部分制裁であることから「籠城」も可能だ。

金正恩政権とすれば、持久戦、長期戦に持ち込み、その間に核とミサイルの量も質も高め、軍事大国となれば、国際社会はインドやパキスタンのように最後は核保有を認めざるを得なくなる、キューバのようにいつの日か米国も国交正常化せざるを得なくなると踏んでいるのかもしれない。それでもじり貧は免れないし、今後もミサイルと核実験を繰り返せば、海上封鎖も含め全面制裁に辿りつくことになる。国内的に持ちこたえられるとの保証もない。へたをすると、政権そのものが持たないかもしれない。

そうなると、最後の選択は、余力のある段階で乾坤一擲、打って出ることだ。

朝鮮半島で軍事衝突が発生し、仮に局地戦にエスカレートすれば、周辺国を含め世界中で反戦の声が起きる。中露などが仲裁し、和平交渉が始まれば、平和協定の締結など北朝鮮の要求を一揆に呑ますことも可能だ。正面突破、短期戦による決着である。

北朝鮮はこれまで再三に亘って「ワシントンも、ホワイトハウスもペンタゴンも我々の攻撃の照準にある」と恫喝してきた。金第一書記も昨年10月の労働党創建70周年の軍事パレードでの記念式典で「我々の革命武装力は米帝が望むいかなる形態の戦争にも相手になることができる」と豪語していた。

仮に「米国とその追従勢力らと、単独で対抗し全面対決戦を行う能力を持っているので(米国を含む)どの超大国であろうが、また地球上どこからでも戦争の火種が炸裂すれば、瞬間に核攻撃を敢行することが出来る」(2013年5月3日の労働新聞論説)戦争遂行能力があるならば、また今回の米韓合同軍事演習での米韓連合軍の対応如何によっては「第一次に青瓦台、第二次に太平洋上の米軍基地と米本土を先制攻撃する」(最高司令部重大声明)ことが可能ならば、「暴発」の可能性も排除はできない。

この国際包囲網を突破できれば、金第一書記にとって大きな業績となり、長期政権も視野に入る。持久戦で耐え抜くのか、それとも打って出るのか、今まさに、その決断が迫っている。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(近著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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