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北朝鮮の「水爆実験」をめぐる5つの謎

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

北朝鮮が「水爆実験」と称する4度目の核実験から二週間余が経過した。

北朝鮮への懲罰としての制裁論議がいよいよ来週から国連安保理で本格的に始まる。早ければ今月末までに新たな追加制裁決議が採択される見通しだ。

「広範囲かつ強力な制裁」を求める日米韓3か国は北朝鮮と取引する第三国の貿易業者や金融機関に対しても制裁を科せる「イラン型制裁」を検討しているほか、特に中国に対して北朝鮮への原油供給の停止や北朝鮮貨物船の寄港を規制するよう求めているが、中国は「事態を悪化させるべきではない」「緊張を招くべきではない」との理由から難色を示しているとされている。いずれにせよ、米外交の司令塔であるジョン・ケリー米国務長官27日に訪中するためここで決議の大筋が決まるかもしれない。それにしても、今回の北朝鮮の核実験には幾つか解けない謎がある。

その一、いつもは人工衛星と称するテポドン発射が先なのに、なぜ、今回は核実験を先行させたのか?

北朝鮮は過去に3回核実験を行っている。いずれもテポドン(衛星)発射の後だった。1回目の2006年(10月9日)の時は3か月前に、2回目の2009年(5月25日)の時は50日前に、そして3回目の2013年(2月12日)の時も2か月前にテポドンを発射している。どれも「主権」と称する「衛星」発射に米国主導の国連安保理が非難、制裁決議を科したことへの反発、「対抗措置」として行ったものだ。北朝鮮からすればそれなりの口実、「大義名分」があった。しかし、今回は、核実験を強行せざるを得ないほどの差し迫った国連安保理の圧力もなければ、米国の脅威もなかった。換言すれば、過去の核実験とは異なる「根拠なき核実験」だった。

その二、この5月に開催される36年ぶりの党大会に向けての国威発揚、成果とするならば、4月もしくは、直前の5月に入ってからでも遅くはない。むしろ直前のほうが士気高揚に繋がる。それが、年明け早々の1月とはあまりにも早すぎる。なぜ、事を急いだのか?

過去のケースをみれば、1回目(2006年10月9日)は労働党創建日の前日に行われている。2回目の2009年5月25日の核実験も国防委員会が設置された日(5月24日)に照準を合わせていた。また3回目の2013年2月12日の核実験も3日後に金正日総書記の誕生日を控えていた。

失敗したものの2012年4月13日の衛星と称するテポドンミサイルも金日成主席生誕100周年に合わせており、またこの年の12月12日の再発射は5日後の金正日総書記の一周忌に合わせていた。なぜ、今回は節目の日にぶつけなかったのか?

その三、今回の実験が北朝鮮発表とおり本当に「水爆実験」だったのか、それとも違うのか?「水爆実験」だとしたら、失敗したのか、成功したのか?「水爆実験」でなかったら、何の実験だったのか?

当事国である北朝鮮以外の米韓など国々は「水爆実験ではない」との公式見解を出している。日本政府も断定はしていないものの「水爆実験の可能性は低い」とみている。中国とロシアは今もって公式見解を控えている。

「水爆実験でない」根拠として「水爆にしては爆発規模(6キロトン)が小さい」ことが挙げられている。同時に、爆発規模が前回(3回目)並みだったことから「起爆装置の原爆だけが爆破し、水爆に至らなかった」との見方と水爆の前段階である「ブースト型分裂弾(強化原爆)の実験ではないか」との二つの見方に分かれている。

「水爆実験ではない」「あるいは失敗した」と国際社会から疑惑の目を向けられているのに金正恩第一書記は核科学者や技術者ら関係者を叱責、懲罰せず、逆に朝鮮労働党中央委員会庁舎に呼び、表彰していたが、これは国内向けのパフォーマンスということか?金第一書記自身が今回の実験をどう受け止めているのだろうか?

その四、国連安保理の制裁決議が出れば、これまでは「主権の侵害」とか「自衛権への挑戦」として対抗措置を取ってきたが、核実験のカードを切ってしまった今回は対抗措置が取れるのだろか?

北朝鮮は2009年の安保理決議「1874号」には対抗措置として「濃縮ウランの開発に着手する」とウラン開発に手を付けた。2012年4月のテポドン発射での安保理議長声明にはオバマ政権下で交わしていた米朝合意(2012年2月29日)の破棄を宣言した。2013年の安保理決議「2087号」には「6か国協議のボイコット」と「6か国協議共同声明」の無効化を宣言した。そし2013年3月の安保理決議「2094号」には休戦協定の白紙化を宣言すると同時に「第二、第三の対応措置を取る」と公言した。

今度は、国連からの脱退でも宣言するのだろうか? やりたくてもそれはできないだろう。人道支援を含む国連機関の様々な支援や協力がストップしてしまうからだ。となると、前回よりも大型のテポドンの発射か、それとも、更なる核実験か?仮にそれがテポドンなら、その発射時期は?

北朝鮮は4月11日が金正恩第一書記就任日、13日が金正恩国防第一副委員長就任日、15日が金日成主席生誕日、25日が人民軍創建日と記念日が続く。4月は節目の日は何にもある。まさか、来月16日の金正日総書記の誕生日はないだろう。

その五、労働党大会を「5月に開催する」と昨年10月30日に発表したのになぜ、今もって正確な日にちが決まらないのか?2月末から始まる米韓合同軍事演習やテポドン発射と何らかの因果関係でもあるのだろうか?

北朝鮮は最高人民会議を含め国家行事の開催を予告する場合、かならず日時を明らかにしてきた。例えば、金正恩第一書記がデビューした2010年9月28日の労働党第3回代表者会は一週間前の9月21日に「9月28日に開催する」と労働党代表者会準備委員会の名で発表している。2014年4月11日に開催された第4回党代表者会も9日前の4月2日には発表されている。

金正恩第一書記は体制発足から3度目となる、それも最悪の朝鮮半島クライシスを無事乗り切り、何事もなく党大会を予定通り5月に開催できるのだろうか?

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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