靖国神社爆発音事件容疑者の再入国の謎に迫る

先月起きた靖国神社内の公衆トイレでの爆破音に関与した疑いのある韓国人容疑者(全昶漢=27歳)が9日に再来日し、警視庁に身柄を確保された。

それにしても、爆破容疑が掛けられ、日本に戻れば逮捕されることは百も承知なはずなのになぜ、来日したのだろう? 掛けられた容疑を否認するためなのか、あるいは確信犯としてスポットライトを浴びるためなのか、それともそれ以外の理由でもあるのだろうか?全容疑者は「日本に行って確かめたかった」と来日の目的を述べているようだが、何をどう確かめたいのか、不可解極まりない。

全容疑者は11月21日に来日し、靖国神社近くのビジネスホテルに宿泊し、犯行直後の23日に帰国している。僅か二泊三日の滞日だ。それも前日の22日に靖国神社を視察していた。明らかに計画的犯行と言える。ならば、確信犯ということになる。

そもそも、再来日は本人の意思、自発によるものか?それとも、誰かに勧められたからなのか?

全容疑者は今年9月まで韓国中西部にある群山市のワンルームマンションで暮らしていたが、マンションオーナーは「3か月間の家賃を滞納していた」と証言していた。事実ならば、相当生活に困っていたはずだ。とても11月、12月と立て続けに来日できる余裕はなかったはずだ。旅費をどう工面したのだろうか? 

もしかして、韓国政府は再来日に関与していないのだろうか?というのも、全容疑者が自ら進んで日本に「出頭」したことで韓国政府は日本からの身柄引き渡しのプレッシャーを受けないで済むからだ。少なくとも、日本側の要請を受け、韓国国内で逮捕し、日本に引き渡すと言う最悪のシナリオを回避できたことでホッとしているはずだ。

日韓は犯罪人引き渡し条約を結んでいるため日本から要求されれば、当然引き渡さなくてはならない。しかし、今回の事件は靖国神社が絡んでいるだけに韓国政府にとってもやっかいな事柄だった。仮に世論が過去を反省しない日本への義憤に駆られてやった行為と受け止めるようなことになれば自国民をそう簡単に引き渡すわけにもいかなくなる。そうなれば、11月の日韓首脳会談を機に修復に向かいつつあった日韓関係に新たな外交摩擦を引き起こしかねない。何よりも、日本に弱みを握られる恐れがあった。

実際に、朴槿恵政権は過去(2013年)に同様の事件で中国人(朝鮮系中国人)容疑者を日本に引き渡さなかったことがあった。日中間で綱引きをしていた靖国神社放火事件の放火魔をソウル高裁の判決を盾に「政治犯」とみなして中国に引き渡してしまったのだ。

日本と韓国は国交を結んで今年で50年。それに比べて中国と韓国との修好は半分にも満たない23年。中国は共産党一党独裁社会主義体制下にあるが、同じ資本主義の韓国と日本は3権分立の民主主義体制下にある。まして日本と韓国との間には犯罪人の引き渡し協定があるが、韓国と中国との間にはない。常識からして、日本に引き渡すのが筋であった。

まして、この中国人容疑者は韓国でもよりによって日本の大使館に火を放そうとした言わば「放火魔」であった。初犯ならまだ情状酌量の余地もあるが、一度ならず二度となると日本としては黙って見過ごす訳にはいかなかった。日本政府が犯罪人引渡し法に則って引き渡しを求めるのは当然であった。しかし、靖国神社絡みだけに事はそう単純ではなかった。

韓国は日本国総理の靖国神社参拝に常に反対している。この神社が韓国に多大な犠牲と不幸をもたらした日本軍国主義の象徴と映っているからに他ならない。戦争犯罪人である東条英機らA級戦犯らが合祀されている靖国神社への日本国総理の参拝は戦争被害国、被害者への冒涜として韓国では受け止められている。

日本の植民地統治下にあった朝鮮半島では解放される1945年まで日本政府の「国民精神総動員運動」の名の下に朝鮮各地に神宮や神社が建てられ、参拝を強要された。神社参拝を拒否し、不敬罪で投獄された人も多数おり、その中には獄死した者もいるとされる。さらに終戦2年前の1943年からは「内戦一体」の名の下に「報国隊」や「徴用」「学徒兵」として戦場に強制動員された。兵士として戦場に駆り出された人は公表されただけでも23万人に達し、その他軍要員として各地の戦線に動員された人も約15万人に上ったとされる。

多大な犠牲と不幸をもたらした日本軍国主義の象徴である靖国神社を放火したからといって日本の求めに応じ、引き渡すことは韓国政府にとって苦悩であった。

日本は南北(韓国と北朝鮮)の綱引きでは常に韓国に味方してきた。日本に漂着した北朝鮮の脱北者の引き渡しをめぐる南北の綱引きでも日本政府は国際法的な見地から、また人道的な見地から一貫して韓国に送還してきた。政治問題でも2010年の韓国哨戒艦沈没事件や延坪島砲撃事件を例に取るまでもなく一貫して韓国側に与してきた。

また、バーレンで身柄を拘束された大韓航空機爆事件(1987年)の実行犯、金賢姫が「蜂谷真由美」という名の偽造パスポートを所持し、日本人を装っていたことからバーレン当局に日本への引き渡しを求め、韓国と綱引きを演じた際にも、韓国側の立場に配慮し、韓国への引き渡しを優先させた。

しかし、韓国は日中、あるいは日朝の狭間に立たされた時、必ずしも日本一辺倒ではない。これまた、紛れもなく、韓国外交の現実、限界でもある。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動開始。98年 ラジオ「アジアニュース」パーソナリティー 。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。著書に「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人、残念な日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など25冊

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