核実験は凍結しても、「人工衛星」は止めない!?
北朝鮮の対米実務責任者である金桂寛外務第一次官が出席したドイツでの米朝非公式協議(9月25-26日)と、6か国協議の首席代表である初代駐英大使を務めた李容浩次官が出席したロンドンでの米朝非公式協議(10月1-2日)の輪郭が見えてきた。
先週(11日)、この非公式協議に参加していた元米国務省北朝鮮担当官のジョエル・ウィット氏が口を開き、米国が6か国協議再開の前提条件としている核実験と長距離ミサイル発射の凍結について北朝鮮は「6か国協議が再開されれば、早期に応じる」と回答していたことを明らかにした。
さらに12日には出席者の一人である第一次オバマ政権下で北朝鮮担当特別代表を務めたボズワース氏が韓国の聯合ニュースとのインタビューで以下の発言を行っていた。
「北朝鮮と交渉すること自体は悪行に対する報酬とはならない」
「北朝鮮が何の制約も受けずに核開発を行っている現状は健全ではない」
「北朝鮮を対話のテーブルに呼び戻し、非核化に関連した一定の制約と義務を負うようにさせるのが有益な一歩である」
「対話は容易ではないが、対話してない時の北朝鮮のほうが危険だ。対話が再開されなければ、北朝鮮は再び核実験やミサイル実験に踏み切るだろう」
「オバマ政権は現実的なので、そう遠くない時期に北朝鮮との対話に向かうだろう」
北朝鮮はボズワース発言が伝わった12日、国防委員会の名で米国に対して「孤立圧殺封鎖措置を撤回する政策決断にこそ米朝関係改善の道がある」との声明を出し、国連制裁決議の撤回を求めた。そして、この声明の発表と前後して、一年近く抑留している韓国系米国人(ペ・ジュンホ)の母親との面会を許可した。
延期されているキング国務省人権担当特使の訪朝も再度噂されており、ペ氏が釈放されれば、ボズワース発言からして6か国協議の年内再開もあるかもしれない。
ボズワース氏は6か国協議が再開されれば、2005年9月の6か国協議共同声明を再確認したうえで「共同声明で合意した非核化と平和協定の締結、米朝国交正常化、さらに経済・エネルギーなどの重要な要素を扱わなくてはならない」と語っている。
しかし、核実験やムスダンなど長距離ミサイルの発射凍結に北朝鮮が応じるとしても、問題は、北朝鮮が「人工衛星」と主張するテポドン・ミサイルの扱いだ。今回の米朝非公式協議でも北朝鮮が「平和的宇宙開発」を続けると主張していて、この問題をめぐっては米朝の隔たりは依然大きいようだ。
金正恩第一書記は、昨年12月23日、成功打ち上げの祝賀宴で科学者らに「より強力なロケット」の開発を指示し、今年元旦の新年辞ではそのロケットの名を「銀河9号」と命名していた。2月11日に開かれた党政治局及び政治局員候補会議では「地球衛星と威力のあるロケットを引き続き発射する」ことを党決定としている。
エンジンの燃焼実験を平安北道東倉里の西海衛星発射場で7月、8月と2度行っていたことが、米ジョンズホプキンス大学国際関係大学院傘下の米韓研究所が運営する北朝鮮研究サイト「38ノース」によって確認されている。
そもそもオバマ政権下で6か国協議が一度も開催されず、対話→決裂→ミサイル発射→国連安保理非難決議→核実験→国連制裁決議→対話→決裂という悪循環を繰り返してきた直接的原因は北朝鮮が主張する「人工衛星論」に起因している。
昨年4月のミサイルも、米国との間で核実験と寧辺のウラン濃縮活動の臨時停止と同時に長距離ミサイルの発射の停止を盛り込んだ2月29日の米朝合意後に発射されている。北朝鮮はミサイルを発射したのではなく、「衛星」を発射したと主張し、これが今に至る情勢悪化の発端となっている。
ブッシュ政権下でスタートした6か国協議では当初、米国は北朝鮮に軽水炉建設を認めなかったが、最終的に「適当な時期に、朝鮮民主主義人民共和国への軽水炉提供問題について議論を行うことに合意した」と共同声明には明記された。
米国は昨年2月の米朝合意で「6か国協議が始まれば、制裁解除と軽水炉提供を優先的に論議する」ことを北朝鮮に約束したが、この「衛星」と称するミサイル問題を米朝間でどう扱うのか、興味津々だ。