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パリ近郊でアジア系人をターゲットにした襲撃が増加。半グレ集団の通過儀礼か?

プラド夏樹パリ在住ライター
春節で賑わうパリの中華街(筆者撮影)

アジア系人をターゲットにした襲撃が増加

近年、アジア系人をターゲットにした襲撃がパリ近郊で増えている。私自身、チャイナタウンに住んでおり、彼らが引ったくり被害にあう瞬間や、警察による犯人逮捕劇は頻繁に見かける。

しかし、こうした事件がメディアで取り上げられ、「人種差別」として考えられるようになったのは、2016年8月に、パリ近郊オーヴェルヴィリエ市で、紳士服店主で2人の子どもの父親だった中国人男性の張さんが路上で殺された事件をきっかけにしてだった。

(注)オーヴェルヴィリエ市:住民数8万人中、1万人がアジア系。欧州最大のテキスタイル輸出入プラットフォームがある。彼らをターゲットにした襲撃事件が頻発している。

友人と連れ立ってレストランに向かっていた張さんは、15歳から19歳の3人の若者とすれ違いざまに足蹴りにされ、頭を壁にぶつけ、5日後に亡くなった。友人も顔面を殴られポーチを盗まれた。

犯人の弁護士は、「人種差別が動機の犯行ではなかった」と弁護したが、裁判の結果、主犯だった当時19歳は10年、当時17歳は4年の禁固刑を言い渡された。盗んだポーチの中には携帯電話の充電器と飴しかなかったという。

犯行動機は「アジア系人は大金を持ち歩いていると聞いたから」だったそうだ。この事件後、フランスで初めて、アジア系人差別に反対するデモが起きた。つまり、被害者が死亡して初めて、社会は「これってもしかしたら人種差別じゃない?」と意識するようになったのだ。

不良仲間の通過儀礼とも

2019年7月には、同じくパリ近郊ヴィトリー・シュール・セーヌ市で、27歳のアジア系人女性がアパルトマンの入り口ホールで襲撃される事件があった。建物内の監視ビデオに写っていた、殴られて倒れるがポーチを渡すまいと必死に抵抗するシーンは数分続くもので見るに耐えないが、SNSで多く共有された。犯人は17歳。被害者は全治7日の負傷を受け、精神的なトラウマがひどく家から出られない状態になったという。

この事件を報道したル・パリジャン紙では、アジア系人襲撃は窃盗目的だけではなく、若い男性にとって半グレ集団に一人前として認められるための儀式となっているとしている。グループに入るためのイニシエーション、通過儀礼といっても良いだろうか。

フランスでは人種別の統計は差別につながるとして禁止されているので他の人種差別との比較はできない。しかし、AFPによれば2018年5月から2019年5月にかけて114件のパリ警視庁への通報があったそうだ。しかし、アジア系人の中にはフランス語が不得意なことから通報をしない、あるいは自分自身が正規の滞在許可証をまだ取得していない状態なので警察へ行きたがらない人もいるのではっきりとした数は今のところわかっていない。ヴァル・ド・マルヌ県の「アジア系人の自衛 みんなの治安」会の会長スン・ライ・トラン氏は、イル・ド・フランス県でアジア系人に対する襲撃は2日に一回]起きていると言っている。

アジア系人に対する人種差別は存在しない?

ところで、これまでフランスではアジア系人に対する人種差別は存在しないと考えられることが多かった。息子は3歳から22歳まで公立学校に通ったが、「子どもの頃は、中国人顔だからってばかにされるなんて日常だった。でも、彼らはそれを人種差別とは考えてないよ。そんな大げさなこと言うな、ちょっとからかっただけって返されるだけ」と言う。偏見はあるが、それは人種差別ではないというニュアンスである。実際、私の友人の子どもは白人系フランス人だが、学校では移民の子どもたちが多いため、「ガリア人のくせに!」(紀元前4世紀頃にイタリア半島北部に定住していた部族で現在のフランス人の祖先の一つ)と罵られて毎日泣いていたというから、よくあることなのだ。

中世時代から欧州で迫害を受け第二次世界大戦中に大量虐殺されたユダヤ人や、フランスに植民地化され搾取され続けたマグレブ諸国人やアフリカ人、特に凄惨を極めた独立戦争を経験したアルジェリア人たちは、国家的レベルでの組織的な差別を受けた。法的には禁止されているものの、今も彼らに対する差別は厳然として残っている。

私たちは彼らのように「アジア系人だから」という理由で外出禁止令を受けたり、収容所に送られたこともない。アジア系人は雇用しないとも、アパートは貸せないと言われたということも聞かない。もちろん、19世紀末から20世紀中頃まで仏領だったインドシナでも仏軍による拷問や暴挙はあったが、今、メディアはその実態についてあまり取り上げない。だからアジア人に対する人種差別は意識されにくいのだ。

良い例がある。2011年に、当時ディオールのデザイナーだったジョン・ガリアーノがパリのキャフェに酩酊状態で現れ、隣のテーブルの人々に「Dirty Jewish face, you should be dead」と反ユダヤ人発言をしスキャンダルになり、ディオールを解雇される事件があった。

実際には、彼は、アジア人のことも「Fucking Asian bastard, I will kill you」と言ったのであるが、メディアでは「アルコール、反ユダヤ人発言、ガリアーノ事件を振り返る」(HuffPost)、「反ユダヤ発言、ガリアーノ謝罪する」(Le Figaro紙)、「ガリアーノ謝罪するが反ユダヤ主義は否定」(L’Expresse誌)などと、主に反ユダヤ主義発言が報道され、アジア人に対する発言の方はあまり問題視されなかった。

アジア系人に対する偏見に満ちた歌

しかし、アジア系人に対する偏見は現に存在する。

2017年12月、同市の幼年学校で「チャン、中国人の男の子は座ってコメを食べる。小さな目をしたチャンは私を見て微笑んで『ライチ食べる?』と言う」という歌を教えており、「SOS人種差別」というアソシエーションが、「ステレオタイプに満ちている」として、この歌を教えないよう教育省に要請した。ところが、この歌はなんとここ10年、問題なく学校内で歌われてきたという。

「フランスの若い中国人会」というアソシエーション会長のダニエル・トラン氏がラジオ局フランスアンフォのインタビュー]に答えて、「中国系女性のステレオタイプといえば、女性は優しくて、従順、いつも『ハイハイ』と言っている。男性も同じく優しい、筋骨隆々ではなくて、コンピュータエンジニア、クンフーが得意。こうしたステレオタイプを幼年学校時代から教えるのには反対です」と言っている。

(注)gentilという意味のフランス語だが、「優しい」という意味と同時に軽蔑的に「はっきり意思表示しない、ちょっとおバカ」という意味にも使うので解釈には要注意。

アジア系人襲撃の目的は窃盗、動機は不良仲間の通過儀礼かもしれないが、「大金を持ち歩く。優しく従順、だから襲っても抵抗しないだろう」といったステレオタイプも襲撃が増加する理由の一つ。殺される被害者が出てきている今、「でもそれは人種差別じゃなくて……」などと屁理屈をこねまわして言い訳をしないでもらいたい。

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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