人工呼吸器は全自動でもお手軽でもない 緊急事態宣言下に知っておくと良い人工呼吸器の誤解と真実

人工呼吸器は設定がとても大切である(写真:ロイター/アフロ)

令和2年4月7日東京など7都府県を対象に緊急事態宣言が発令されました。

明日から土日になりますので、家でゆっくり過ごされるという方も多いでしょう。

大切なのは、重症者に対しての病床数を確保し続けること、これは皆さんもきっとご存じだと思います。

特に重篤な場合に、集中治療室で人工呼吸器を装着して生命を維持し、そこから回復された方々のこともすでに報じられています。

私たちが今大変な状況を受け入れている大切な理由として、重症者を対象とした病床数の限界を超過しないことの他に、「人工呼吸器を扱える医療者」の診療・ケアできる限界を超えさせないことがあります。

なぜ、そうなのか。それをわかりやすくお伝えしたいと思います。

延命のための人工呼吸器は話題になっても…

人工呼吸器といえば、少し前までは末期状態の時に「延命のために装着しないでください」などと、非装着や外すことで世間の話題になってきたと思います。

救命目的の人工呼吸器が一般社会でこれほどまでに話題になるのは、近年稀だったのではないでしょうか。

ただ皆さんも、医療関係者でなければ、人工呼吸器がどんなものなのかをご存じない方も多いでしょう。

もちろんのこと、人工呼吸器は肺がその機能を果たしえない時に使用されます。では新型コロナウイルスの場合はどのような状況で使用されるのでしょうか。

新型コロナウイルスの場合の人工呼吸器の出番

私たちの肺の中には、肺胞という小さな袋が約3億個存在するとされ、そこがガス交換の場になっています。

呼吸をして吸い込んだ空気の中の酸素を取り込み、二酸化炭素を排出します。

しかしこの肺胞などの機能が、肺炎等の様々な病気によって障害されるとガス交換がうまくいかなくなります。

新型コロナウイルスは重症化して、重い肺炎やARDS(急性呼吸窮迫症候群)を起こすとされています。

ARDSとは肺の血管透過性(血液中の成分が血管を通り抜けること)が亢進して、肺胞腔内に水分が漏れ出して肺水腫という病態を起こすものです。高度の炎症が血管透過性が増えることに関係していると言われています。

肺のサーファクタント(表面活性物質)も減り、肺胞が虚脱します。肺胞が潰れてしまうのですね。そうなるとガス交換がうまくいきません。

呼吸不全に至る場合には、人工呼吸器を用いて肺胞が潰れないように圧をかけてガス交換を促進します。

呼吸が障害される病気は多様であり、呼吸ができなくなったり、ガス交換ができなくなったりと人工呼吸器が必要となる様々な要因がありますが、新型コロナウイルスの場合は重症の肺炎やARDSなどでそれが必要となるのです。

人工呼吸器について

人工呼吸器について一般によくある誤解を解いていきたいと思います。

主だったものは次の3点です。

  1. 酸素マスクではない
  2. 全自動ではない
  3. 管理は簡単ではない

まず、酸素マスクと人工呼吸器が混同されている場合があります。

確かにマスク型の人工呼吸器も存在はします。非侵襲的人工呼吸器というものですね。

ただ普通の酸素マスクと、マスク型の非侵襲的人工呼吸器は違いがあります。

それは「陽圧をかける」ということです。実際に私も若手医師の頃に装着して同僚と体感してみたことがありますが、自然な呼吸は陰圧なのですが、非侵襲的人工呼吸器は陽圧なので、肺が押される感じがあって普通の呼吸とは全然違います。

このように圧をかけることによって、ガス交換を促進させます。しかしこのマスク型のものでも生命維持が難しい場合は多く存在します。

その際は「挿管(そうかん)」といって口または鼻から喉頭を経由して気管にチューブを入れ、それをそのままにしておいて(留置と言います)そのチューブと人工呼吸器をつないで管理する必要があります。

気管にチューブがずっと入っているわけですから、そのままでは苦しいです。またチューブから痰を吸引しなければならないのですが、これも苦痛を伴う処置です。

そのため、うとうとと眠れるようにする鎮静という処置を継続的に行う必要があります。

このようにマスクを付けたり外したりできるようなたやすいものではない、ということが1つ目のポイントです。

2つ目なのですが、「全自動ではない」というものがあります。人工呼吸器には設定というものがあり、その患者さんの病態によって適切な設定を行っていかねばなりません。

設定にはどのような換気法にするか、酸素吸入濃度、換気回数、PEEP(呼気終末陽圧。呼気の最後を陽圧に保つことで肺胞の虚脱を防ぐ)などがあり、一回換気量や気道内圧など様々なパラメータが存在します。

ARDSの場合もARDSに合った設定というものがあり、人工呼吸器のモニターに出てくる各種の数値をみながら調整を繰り返していきます。

しかもARDSは人工呼吸器関連肺損傷(VALI)という病態まで起こすことがあり、繊細な調節が欠かせません。

難しそう…と思われた皆さん、その通りです。この調節に必要な経験と知識を有する医師・医療者はある程度限定されます。

そしてすぐにそれらの医療者を養成できるわけではありません。だからこそ、彼らが診られる数に重症患者数を抑える意義があるのです。

最後に3つ目。管理は簡単ではない、ということです。

気管内のチューブと人工呼吸器の間にも管などで構成された回路があります。

人工呼吸器関連肺炎(VAP)という肺炎がありますが、日本の集中治療室入室患者の3~4%に起こるともされます。回路内が不衛生だと、あるいはその他の管理が不十分だと、VAPに関係する可能性もあります。

衛生管理の他にも、栄養管理、チューブ類の管理、体位の管理、口腔ケアなどやらねばならないことは多数あり、当然医師がそれを全てできるわけではなく、一人の患者さんに多職種のチームが関わってそれが為し得るのです。

中国武漢の入院患者の分析で、集中治療室に滞在した場合にその日数は、生存者7日・死亡者8日(いずれも中央値)とされており【Lancet. 2020 Mar 28;395(10229):1054-1062. PMID: 32171076】この1週間程度の期間(※もちろん個人差は大きくあるでしょう)に上記のような密な治療・ケアが必要になるということを意味します。

まとめと知っておくべきこと

「人工呼吸器を付ける」と一言で言いますが、そこにはこれだけの大変さが存在するのです。

幸いにして若年者を中心に、人工呼吸器装着後の回復例がたびたび報じられます。

回復力があれば、肺が障害されている時間を人工呼吸器等でしのぐことで、身体が回復してきます。ただその時間には人工呼吸器を管理できる病床が占有されるほか、上述したような管理を行う専門家たちのマンパワーが必要となります。

もしここで対応できない数になってしまったら…それは想像に難くありませんし、実際にイタリアなどで起きていることでありましょう。

心理的にも経済的にもそれぞれが大変な闘いを強いられているところですが、一定の確率で生じてしまう重症者を守るため、私たちは今頑張っているということになります。

生活の変化による問題も顕在化するようになって来ました。皆さんもどうかご自身の心身にお気をつけ頂き、このコロナ禍を皆で乗り切っていきたいものです。