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抗がん剤治療の脱毛対策に新たな方法が登場も保険非適用 化学療法の最大の苦痛「脱毛」緩和の良い方法は?

大津秀一緩和ケア医師

抗がん剤の脱毛対策の新兵器がいよいよ登場、しかし残念ながら保険非適用

すでに報じられているように、2019年より非血液のがん(固形がん)の抗がん剤治療による脱毛に対して、医療機器が国内で初めて承認されました。9月以降、医療機関に順次納入されるそうです。

抗がん剤治療に伴う“脱毛”を抑える医療機器が初承認

しかし数日前、残念ながら同医療機器の専用キャップ(定価9万円)に公的医療保険の適用は認められないと決定したことが報じられました。同器具は自費で購入する必要があるとのことです。

名前はPaxman Scalp Cooling システム Orbis及びPaxman Scalp Cooling キャップと言います。

参考;医薬品医療機器総合機構 審議結果報告書

一言で言えば、頭皮を冷やすことによって、毛髪を産生する場所へ作用する抗がん剤の量を低下させて、脱毛を軽減するというもので、冷却時間は抗がん剤投与開始 30 分前から投与終了後 90 分以上までとなっています。

効果は、機器を使用しないと脱毛率が100%だったのが、73.3%になった(医師2名で判定が一致した場合のみのパーセンテージ)ということで、4人に1人くらいは脱毛を免れられるということになりますね。

問題点としては、医療機器としては承認されたけれども、医療保険の適用となったわけではないということです。

保険適用とならないうちは、爆発的に普及するのは難しいかもしれません。実際、私の外来にいらっしゃっている方も様々な病院にかかっておられますが、おしなべて「医師に尋ねたけれども導入予定はない」とのことでした。普及はこれからというのが実情なのでしょう。

抗がん剤副作用の苦痛。トップは脱毛。

抗がん剤を使うことによる最大の苦痛は何でしょうか?

もちろんそれは人それぞれです。

2009年の国立がん研究センター中央病院の調査によると、抗がん剤治療による副作用の苦痛度で、女性374人のトップが頭髪の脱毛だったのです。

その他にも、苦痛度トップ20の半数以上が、副作用による外見の変化に関するものでした。現在は、施設ごとに充実度には差異がありますが、治療等による変化に対する外見ケア(アピアランスケア)が為されるようにもなって来ています。

乳がんの方を対象にした先ほどとは別の調査でも、脱毛が抗がん剤治療中の苦痛の1位で、苦痛だったと答えた人は90%を超えています。

実は全部が全部の抗がん剤で脱毛が起こるわけではありません。

抗がん剤によって脱毛の頻度は大きく異なりますし、また同じ抗がん剤でも脱毛の程度には個人差があります。それが予測できれば良いのですが、実際には難しいというのが実情です。

よりにもよって、女性に代表されるがんである乳がん、卵巣がん、子宮がん等は、軒並み脱毛を起こす抗がん剤治療が行われるがんです。

具体的には、タキソールやタキソテールというタキサン系や、ドキソルビシンやエピルビシンというアンスラサイクリン系の抗がん剤がよく使用されます。

これらの抗がん剤を用いると2~3週間後から脱毛が始まります。治療が終わると、平均3ヶ月ほどで髪が生え始めますが、髪質が変化することも多いです。ショートの長さへの回復は半年から1年程度かかり、ウイッグの平均使用期間は12.5ヶ月です。なお、眉やまつげが80%以上脱毛した人も6割に及びました。

再発毛に関しては、抗がん剤が終わると2年で6割の人が80%以上回復しますが、約5%の患者さんにおいては、5年が経過しても30%以下の回復だったとのこと。これはつらいことですね。

髪質に関しても調査しているものがあり、乳がんの患者さん85人への調査では、「くせ毛になった」のは56人(66%)で、その56人のなかで「今もくせ毛である」のも29人(51%)でした。毛髪量が減ったのが53%、毛髪が細くなったのが74%とそれぞれ結果が出ています。

この調査ではどんな人がウィッグを外せないようになりやすいかも調べられていますが、その要素がよくわからないとのことでした。

そう考えると、予防するのに越したことがないですが、先述したようにまだ予防用の医療機器の導入は部分的であり、費用と効果の兼ね合いの問題もあるでしょう。

髪を守るために

将来的に脱毛の副作用のないがん治療がより発達してくれば良いですが、現状は効く治療が残念ながら脱毛を余儀なくさせる……という場合もあるものです。

ただがん治療の副作用対策は、「仕方ない」から「できることはやっていきましょう」に変化して来ています。

先述したように、病院ごとに差異はありますが、外見のケアに取り組んでいる医療者も少しずつ増えて来ています。

この種の問題は特に、伝えないと始まりません。

仕方ないと我慢せずに、外見ケア(アピアランスケア)や治療の副作用対策に詳しい医師や看護師、薬剤師等に積極的に相談することです。特に、医師だけに頼らず、様々なスタッフに相談して対処法を教えてもらうのは現実的な方法です。

なお、緩和ケアは抗がん剤の副作用対策も含みます。

早期から積極的に緩和ケアの医療者が関わろうとしている施設も増えているので、治療の副作用に関しても、まずは担当医に相談するのはもちろんのこととして、それでもなかなか十分な対応が及ばない際には緩和ケアの医療者にも相談してみるのが良いでしょう。

脱毛のケアで問題になるのは、それが特定の時期になると急に訪れることであり、事前の準備が肝要となる点です。本来は、事前に外見のケアに詳しい医療者とよくコンタクトを取れれば好適と言えます。

オーダー品のウィッグは作成に時間がかかりますので、間に合うようにするためにも前もっての動きが大切です。

髪は大切なものです。よく医療者と相談し、納得のいく選択やケアを行って頂ければと思います。

補足;なお、著者は医療機器メーカーから一切の報酬を受け取っておらず、役員等でもないことを付記します。

緩和ケア医師

岐阜大学医学部卒業。緩和医療専門医。日本初の早期緩和ケア外来専業クリニック院長。早期からの緩和ケア全国相談『どこでも緩和』運営。2003年緩和ケアを開始し、2005年日本最年少の緩和ケア医となる。緩和ケアの普及を目指し2006年から執筆活動開始、著書累計65万部(『死ぬときに後悔すること25』他)。同年笹川医学医療研究財団ホスピス緩和ケアドクター養成コース修了。ホスピス医、在宅医を経て2010年から東邦大学大森病院緩和ケアセンターに所属し緩和ケアセンター長を務め、2018年より現職。内科専門医、老年病専門医、消化器病専門医。YouTubeでも情報発信を行い、正しい医療情報の普及に努めている。

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