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【PTA改革】史上初?「校長も任意加入」はどう実現したのか

大塚玲子ライター
これまで、校長は必ず入るもののように思われがちでした(写真:アフロ)

 「PTAは任意加入」という原則はだいぶ世間に浸透してきましたが、唯一、取り残されてきた存在があります。それは「校長」です。校長先生は、多くのPTAの規約において「副会長」や「参与」などの役割を担うものとされ、加入を絶対視されてきました。

 筆者も「本当は校長先生だって任意加入のはずなのに、おかしいよね」とは思いつつ、解決策を思いつかなかったのですが。しかし先日、こんな話を聞きました。

 「昨年から保護者だけでなく教職員にも入会意思を確認することにして、校長すら入会しなくてもいい規約に改正した」

 えぇっ、よくぞ。どうやったんですか!?

 改革したのは、PTA問題に深い関心を寄せ、以前筆者が都内で開催したPTA問題を考えるイベントにも交通費自腹で参加してくれた、東北の高校の先生でした。さっそく詳しく聞かせてもらいました。

*校長が「参与」になる部分は残しつつ、言葉を加えた

 東北の公立高校の教員、遠藤先生(仮名・50代)は2016年、いまの勤務校に着任しました。

 遠藤先生はもともと、PTAの強制加入に強い疑問を抱いていました。この高校のPTAは当時から保護者への加入意思確認を行っており、「いいことだな」と思ったそうですが、ただし教職員については「当然入るもの」という雰囲気だったといいます。

 PTAの活動は停滞気味でした。小規模校だったこともあり、保護者はPTAに非常に関心が薄かったようです。PTAの担当になった数人の教員たちが「なんとか継続しなければ」と踏ん張り、ようやくもちこたえている状態でした。

 翌年度、遠藤先生は「PTAの事務局長(*1)」になるよう打診されます。悩んだ末、引き受けることに。「どうせやるなら、PTAを適正化したい」と考えました。

 最初に行ったのは、PTAを担当する教職員のなかで「PTAは本来ボランタリーな団体であり、活動は任意」という認識を共有することでした。このとき「同調圧力があってはならないこと」や「生徒は会員・非会員家庭の区別なく扱うこと」なども確認したそう。

 さらに校長や教頭先生、役員の保護者の人たちにも、折に触れて「PTAは任意」という話をして、共通理解を広げていったといいます。

 満を持して会則を改定したのは、2020年春のPTA総会でした。前年度の役員会で原案を出し、内容をかためていたものを、この総会で決議したのです。

 「まず、役員の数を減らしました。以前は役員の人数が多く、保護者側の引き受け手が見つからなくて苦労していたからです。また、会則で校長は『参与』という役員としてPTAにかかわることになっていましたが、それでは校長は必ず入らなければいけないことになってしまう。でもPTAは任意加入だということを考えると、校長も任意で入るのでないとおかしいでしょう。

 そこで、会則にあった『本会に参与を置く。参与には校長が就任し、会の運営全般について意見を述べることができる』という条文の最後に、『(非会員でも可)』と付け加えました。『校長は参与としてはかかわるが、会員でなくてもいい』ことにしたんです」

 そんな手があったとは! 確かにこれなら問題はなさそうです。校長はPTAに入っても入らなくてもPTAにかかわるので、PTAへの影響は、特に考えられません。

 筆者は基本的に「教職員はPTAの会員になる必要はないのでは」と考えています。教職員はもともと子どもたちのために働いています。わざわざ会員にならなくても、学校と保護者の連携は可能でしょう。

 「『参与には校長が就任し…』という一文を残したのは、PTAが学校を活動の場とする以上、校長の考えが反映されない仕組みはおかしいと思ったからです。校長は必ずPTAにかかわるようにするため、敢えて残しました」

 これも納得です。PTAに学校での活動を許可するのは校長ですから、校長の関与は当然あってしかるべきです。

 会則を改定してからは、教職員にも口頭で加入意思確認を行っているとのこと。なお、校長先生も現状、PTAに加入しているそうです。

*PTAに入るのは当然と先生たちが思うワケ

 それにしても、珍しい事例です。保護者でも校長先生でもなく、一般の先生が主導したPTA改革自体、筆者は初めて聞きました。「ほかの先生にも、PTA改革って可能ですか?」と遠藤先生に尋ねると、こんな答えが返ってきました。

 「まずPTAの問題に関心をもたないと、なかなか難しいんじゃないかと思います。私が教員になった頃の初任者研修のテキストにも『(教員は)PTAに積極的にかかわっていくべき』と書かれていますし、地域や外部連携のことが書かれたいろんな公文書にも、大体『PTAと連携しましょう』といった文言が入っている。

 それに学校は公費でもらえる予算が非常に少ないので、足りない分をどうしてもPTAの予算から補填せざるを得ない面もあります。そうすると当然のように『全員から集める』という発想になってしまう。

 私は『PTAは強制ではない』ということを勉強していましたが、多くの教員は『PTAに入るのもかかわるのも当然』という意識でいると思います」

 なるほど、一般の先生によるPTA改革は、だいぶ難しいことなのでしょう。遠藤先生がPTA改革をできたのは、PTA問題について調べ、考え尽くしていたことのほか、「(東北の)高校のPTA」という特性も関係していたかもしれません(*2)。

 いま、同校を管轄する教育委員会でも「本来公費で出すべきものは公費で出そう」という動きがあるといいます。全国の学校や教育委員会で、同様のPTAや私費負担の見直しが進んでいくことを願います。

  • *1 この高校のPTAは、担当教職員で構成される事務局があり、全体を事務局長(教員)が取りまとめる形です
  • *2 高校のPTAは全国的に、小中学校のPTAと比べ、活動よりも金銭的な面で学校をサポートする傾向があり、また運営の負担は保護者よりも教職員にかかる傾向が見られます。後者の特徴は特に、東北地方で顕著に見られる印象です(小中学校も同様)

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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