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PTA任意加入周知で加入者激減からのV字回復 「役員強制ナシ・会費8割下げ」ができたワケ

大塚玲子ライター
仕組みを変えず、任意加入の周知だけを徹底すると、会員が激減することがあります(写真:アフロ)

 これまでPTAは自動強制加入が多かったですが、最近は「任意加入の団体であり、入るか入らないかを選べる」ということを、入学時などに保護者に知らせ、加入意思を確認するところが増えています。

 これまでの全員加入のイメージが強いこともあり、強制をやめても7~9割の保護者が加入しているところが多いようですが(*1)、たまに「任意加入の周知を徹底したら、会員が激減した」という話も耳にします。

 聞くと原因は大体、「これまでの運営方法を一切変えないまま、任意加入の周知だけを行ったこと」にあるようです。

 「強制」を前提とするPTAは、「役員をクジで決める」「やることが多い」など、嫌われる要素を多々備えています。そこを変えずに強制加入だけをやめれば、「入らないでおこう」と考える保護者が増えるのは、ある意味当然です。

 もし、強制をやめても会員数をある程度キープしたいと思うなら、一般の団体と同様、“人集めの努力”は必須です。「参加したい」と思ってもらえるような活動に絞り込み、且つそれを周知していれば、それなりに人は集まるでしょう。

 あるいは、逆の順序でもいいと思います。会員が激減したあとに、これまでのやり方を見直して、加入者を増やした例もあります。

 今回紹介するのは、任意加入の周知を徹底したら、一度は会員が1~2割になったものの、その後8割近くまで回復した、という兵庫県明石市立山手小学校PTAの事例です。本部役員(元役員も含む)さんや元校長先生に、お話を聞かせてもらいました。

活動は2つに厳選、会費は年2400円→500円に

 山手小PTAが任意加入を周知したのは、いまから3、4年前、2018年度の末頃でした。2017年春から改正個人情報保護法が施行されたこともあり、これまでの自動強制加入をやめようと、保護者に加入意思の確認を行ったのです。すると8~9割の人が退会を選択し、会員が1~2割まで減少することに。

 そこで2019年度は、活動を厳選&縮小し、役員の強制をやめ、さらに会費も大幅に値下げしました。会員数が減り、それまでの委員会活動が成り立たなくなっていたため、PTA活動を知ってもらうための広報紙の作成と、通学路危険マップを作成する執行部を除く、全ての委員会活動をやめ、ベルマークや運動会のお手伝い等はボランティアを募ることに。すると活動費も大幅に減るので、2400円だった年会費は、500円に下げました。

 さらに役員の強制もしなくて済むよう、「役員をやってもいい」という“正会員”と、「お手伝いのみ(役員をしない)」という“準会員”の枠をつくり(どちらも会費は同じ500円)、各会員にあらかじめ選んでもらうことに。

 結果、翌2020年度の加入率は、8割強まで回復。当時のA校長先生(2019~2021年度)は、こんなふうに振り返ります。

 「加入率があがったのは、あのときPTAに残った、1、2割の人たちの努力の結果でしょう。何度も保護者に説明会を開いて『会員になってほしい』と伝えていました。おそらく『役員まではパスだけど、PTAには身を置きたい』という保護者が多かったのでしょう」

 なお、A校長先生は「学校にとって保護者の主権団体があることは重要だ」といいます。

 「学校が保護者と意見交換する際、何かしらの保護者の団体がないと、『誰と話したらいいのか?』ということになってしまいます。だから学校としては、PTAという名前でなくてもいいけれど、何かしらの保護者のコミュニティはあってほしい。そのことを、僕も保護者説明会のときに、繰り返し皆さんに伝えていました」

 その後、現在に至るまで、山手小PTAは8割前後の加入率を保っているとのこと。「ただし、この加入率がこれからも続くかどうかはわからない」と、A校長先生は釘を刺します。

 「今後もドライブをかけ続けていかなければ、再び減衰する可能性はあるでしょう。『今年は誰もいなくなったよ』ということだって、あるかもしれない。そのときは、PTAは休んだらいいと思います。それでまた『やっぱりPTAは必要だな』ということになれば、スモールな団体として立ち上げればいい」

 筆者も、A校長先生にほぼ同感です。強制をやめれば当然、会員が減る可能性はありますし、いなくなる可能性だってゼロではありません。もしそうならないようにしたければ、一般の団体と同様に“人集めの努力”を続けていくしかないでしょう。

会員激減で、否応なく「強制」を手放せた

 山手小PTAはこうして加入者を再び増やしたわけですが、改めて振り返ると、加入者が一度激減したことは、意外と悪くなかったように思えます。

 PTAで「強制」のやり方をやめようとしても、校長先生が反対したり、役員さんのなかで意見が割れたりして、なかなかうまくいかないケースをよく聞きますが、山手小PTAは加入率が大きく下がったことで否応なく、これまでのやり方を手放すことができました。

 もしここまで加入率が下がらなかったら、活動を厳選したり、役員の強制をなくしたり、年会費を8割も減らしたりするなど、できなかったのでは。できたとしても、もっともっと時間がかかったことでしょう。会員激減により「頭の切り替え」が進んだ効果が大きかったように思います。

 今後、万一PTAがなくなったときは、A校長先生が言うように、必要性を感じた人が何かしらのネットワークを立ち上げるのでは。大変かもしれませんが、ゼロから会を立ち上げるのは、きっと楽しいことでもあるだろうと思います。

 あるいは、加入率が下がってもV字回復は目指さず、低加入率のまま継続するのもありだと思います。保護者みんなの声を拾う必要があるときは、非会員を含め全保護者を対象に、Web等でアンケートを行えば簡単です。(*2)

 今年度は各地で、教育委員会が「PTAが任意加入であることを周知するように」と通知を出したため、「とりあえず任意加入を周知した」というPTAが多いようです。加入率が下がって悩んだら、今回の話を参考にしてもらえたらと思います。

団体のロゴ。2022年度より、団体名を「AFCやまて」に変更したそうです(AFCは、All For Childrenの略)
団体のロゴ。2022年度より、団体名を「AFCやまて」に変更したそうです(AFCは、All For Childrenの略)

  • *1 「PTAは任意加入です」と言った後に、「でも全員入ってもらっています」と添えるなど、実質的には任意加入を周知できていないケースも、割合よくあります
  • *2 加入率が高いPTAでも、学校には一部の保護者(役員さん)の意見しか届かないこともよくあるので、同様のアンケートを行うことはお勧めです
ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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