保護者との情報共有やコミュニケーションを大切にしつつ、学校の働き方改革を進めてきた新保元康(しんぼ もとやす)先生。札幌市の小学校で11年間校長を務めてきた新保先生は、PTAや地域との関係づくりにおいても、積極的に新しいやり方を採り入れてきたといいます。ICT活用を進めるうえでは、無駄な業務の削減が重要だと話す新保先生。お話を詳しく聞かせてもらいました。

*なぜPTAの支出に校長の判が要るのか

――PTAで、やり方を変えた方がいいと思ったことはありますか?

 学校によって様々と思いますが、私の経験では、PTA活動で必要な物品を買うときに、保護者が「支出伺い書」を作っていたことがあります。

――ええと、誰が誰に対して、ですか?

 それはグッドな質問です。PTAですから、ふつうに考えたらPTA会長に対してですね。ところが、はんこを押すところに校長の欄もあるのです。「校長はPTA会長じゃないから、このはんこを押す権限は、僕にはないですよ」と話しました。ちょっとした文房具程度のものを買うのにも書類を作り、PTA会長はもちろん、他の役員や数名の教師の判子を押していたのです。忙しい保護者のみなさんが、もう必死になって書類を作っていました。

 また、物品の発注先は学校に出入りする業者さんでなければならない、と思い込んでいるケースもありました。そこで、PTA役員のみなさんに相談してもらい、支出伺い書は止め、発注先もAmazonやアスクル等に頼めるようにしたことがあります。これは忙しい役員さんにとても喜ばれました。届け先は学校のPTA室。ちゃんと領収書も出ますし、極めて簡単で早い。PTA担当の先生たちの負担も減りました。

 4つの学校で校長をさせていただきましたが、それぞれの学校で役員さんと相談し、PTAの仕事を減らすお手伝いをしました。広報紙をやめたり、委員会を減らしたりして、各クラスから出る委員さんを半分の人数にしたこともあります。

――広報紙は予算がかかるのでやめるかホームページに切り替えがいいと思うのですが、新年度の先生紹介号だけは欲しい気もします。ホームページに先生のお顔写真を出すのは、難しいですよね。

 GIGAスクール構想がいよいよ実現しますので、学校の情報化はどんどん進みそうです。PTA関係のweb利用はこれからどんどん活発になりそうですね。保護者のみなさんもスマホで情報を得るのが当たり前の時代ですから。

 先生の紹介は大事です。名前と顔が一致していないと、挨拶もしにくいですよね。それは学校がするべきことだと思います。ただweb上に出すのは難しい。私の学校では職員室の前に写真を出してました。各学年ごとにいろいろ楽しいポーズで写真を撮ってもらい職員室前に掲示したのです。親御さんも子どもたちも、とてもよく見てくれました。紹介の方法はいろいろあると思います。

*学校が地域やPTAのつなぎを

――地域や自治会との関係は、いかがでしたか? 何か変えたことなどは。

 北海道らしい話ですが、寒くなると通学路が凍って滑るという問題を経験したことがありました。通学路がすごく狭かったので、子どもが滑って止まっていた車の下に入ってしまうという事件もありました。本当に危なかったのです。

 そこで、ボランティアで通学路に砂をまくことにしました。「保護者も、地域の人も、各自がやれるときに、自分の家の前や近くに砂を撒きましょう」と呼びかけたのです。学校の玄関前に、袋に入った砂をたくさん置いて、いつでも持っていけるようにしました。盗まれたら困るので最初は玄関の中に砂を置いていましたが、なかなか砂を利用する人が増えない。そこで思い切って全部外に出してみたら、本当に皆さんやってくれたのです。朝でも夜でも、自分の都合のいいときに砂を持っていって、まいてくれました。

――それはみんな有難いですね。自分も、お年寄りも、みんな歩きやすくなるので。

 そのとおりなんです。子どもだけでなく、地域の方みんなが安心して冬道を歩けるようになったのです。春になって雪がとけたら、今度は道路が砂だらけになります。たくさんまいたのでもう半端な量じゃない。この砂も、みんなで掃除しましょうとなりました。これも簡単に行いました。家の近くの砂を集めたらスーパーなどの袋に入れて、道路の横に置いて置くだけです。それを市役所の方が来て、全部回収してくれるんです。これはもう極めて簡単で、いっぺんにきれいになりました。

 これを学校だけでやるとなると、先生をいくら増やしても難しかったと思います。問題を共有して、誰でも参加しやすい方法を考え、地域と親御さんとが一緒になって、みんなで取り組んだのが成功の理由です。これで教育の質が上がり、安全が高まったということですね。

――これは児童だけでなく、地域みんなのためのことでもあるので、学校だけでやるの おかしいですね。こういうアイデアを考えるのも、楽しそうですね。

 学校経営はとても楽しかったです。もちろん、つらい時もたくさんありましたけど、基本は楽しかったです。みなさんに本当に支えていただきました。

 もうひとつ思い出しました。不審者パトロールを工夫したことがあります。不審者パトロールに若い親たちが参加しない、地域のお年寄りに頼りっぱなしではないかとしかられたことがあります。地域のお年寄りと、若い保護者をつなぐのが、学校の役目ではと考えました。まず、若い親たちのがんばりをお年寄りに伝えました。「昔と違います。若い親たちはみんな働いているから、不審者パトロールに参加しにくい人が多いのかもしれませんよ」と代弁したのです。

 それからパトロールの仕組みを変えました。校区内にある三つの大きな公園に「何月何日16時に、〇〇公園に来られる人は来てください」とアナウンスします。地域の人にも保護者にも一緒に呼びかけます。みんなが公園に集まったら、担当の教員が司会して「今日はお疲れさまです。最近この辺で、何か心配なことありませんか?」と情報共有をします。立ったままするのです。

 そこでみんなが最近の様子をしゃべります。最初はぎこちないです。でも10分、15分くらい経つといろいろな意見が出てきます。「そうですか、この辺ではこんなこと起きてたんですね。学校も気を付けます、じゃあ今日はこれで終わりますから、では皆さん、ここから自分の家までパトロールして帰りましょう」と言って終わります。これを年に3回ぐらい実施しました。

 この方法はとても評判が良かったです。簡単なので、地域のお年寄りも若い親御さんも集まりやすかったのです。そして立ったまま外で話し合うので時間も短く終わります。何回かするうちに参加人数も増えました。それに本当に現場で集まりますので、その現場毎の切実な課題が出てくる。大事なことが分かるので、みんな参加してくれたのだと思います。

 アイデアは本当に大事ですね。人間は弱いもので、問題はついつい誰かのせいにしがちですが、何かアイデアを考えたほうが生産的ですし、精神衛生上もいいですよね。学校経営の大事なポイントだと思います。

――よくPTAは学校と地域をつなぐ役割を期待されます。そういうことができる保護者もたまにいますが、多くの保護者にとって地域はむしろ学校の向こう側の存在なので、校長先生がそんなふうに地域とつないでくれたら、ありがたいと思う保護者も多そうです。

 それは、学校の役目だと思います。おそらく地域もPTAも、連携の中心になることは難しいでしょう。学校がしたほうが早いです。「いや、それは地域の話ですから」とか「それはPTAの皆さんで考えて」とかタテマエを言っても問題は解決しません。

 理想論的過ぎるかもしれませんが、日本の学校が何でもやってきた、ということをうまく使って、学校が中心になってつなぎ役をする覚悟を決めることも大事だと思います。特に小学校の校区は基本的に子どもが歩いて行ける距離の範囲です。だから小学校を、一つの小さな社会のまとまりの核にしてはどうでしょう。ただし、学校に全部任せるんじゃなくて、そこにみんなが協力する形を作ったほうがいい。つなぎ役や、集まる場所は学校と考えるとわかりやすいかもしれません。

――学校がそこまでやるのも大変じゃないかとちょっと心配にもなりますが、学校はいろんなことをできる可能性があるのですね。

*無駄なものをやめて、残ったものをITで効率よく

――先生たちの多忙さを考えると、先生の人数などもっと増やしてほしいと感じますが。

 ぜひ増やしたいですね。国は一学級の定員を小学校は35人にして先生を増やすことを決めました。でも5年もかかります。その他にも専科の先生を増やすという話もでていてとてもありがたいなと思います。しかし、思い通りに順調に先生を増やすことが出来るかどうかは、なかなか難しいかもしれません。

 というのは、我が国には人口減少という大問題があるからです。人口減少は2008年から始まって、もう13年になります。15歳以上65歳未満の生産年齢人口は1995年から減り出して、もう26年なんです。だから世の中、至るところが働き手不足が起きていて、これがさらに加速するそうです。今は、コロナで仕事を失った方もいるなど大変な状況です。しかし、予防接種が進むとコロナは収束するでしょう。しかし人口減少は収束しないのです。さらに今「先生の仕事はブラックだ」という風評が広がり、教職を目指す人が減っているのではとも言われています。これも大きな問題です。

――実際に労働環境が厳しいので、改善することが必要ですね。

 ここで大事なのがICTです。学校もICT化を進めることで、効率的に指導し業務を進められるようになりたいものです。ICTを活用して先生たちの負担を減らしながら、子どもたちにはより分かりやすい授業を行うのが理想です。それが今話題のGIGAスクール構想です。

 ただ、デジタル化が進めば問題が解決するかというと、そう簡単ではありません。パソコンがたくさんあっても、校務支援システムが導入されても、日常的に使わなければ何も学校は変わりません。自動車を買っても、乗らないで車庫に入れたままでは、効率的な仕事はできないのと同じです。最初は戸惑いもありますし、慣れるまでは大変でしょうが、まず日常的に使うことが大事だと思います。その中で問題を解決しながら、よりよい使い方を見いだしていきたいものです。日本の先生は熱心ですからきっと困難を超えてくれると信じています。

 それからICT化を進めるときは、今までの仕事の仕方を修正することも必要です。その際、業務の棚卸しをして無理・無駄を削減するのは一番重要です。「削減する」というのは、小さいことを丁寧に減らすのが大事だと思います。大きな削減はもちろん望ましいのですが、なかなか実行が難しいかもしれません。小さな削減だと合意形成しやすいですよね。小さなことをどんどん減らしていくうちに、勢いが付いてきます。気がつくと、スリムな学校ができあがるのではないでしょうか。学校もPTAも業務を見直しスリム化する、そして教育の質を一緒に高める。これが理想です。学校のICT化が進むことでこの理想に近づけると大いに期待しています。

 「目的と手段」ということがよく話題になります。大きな目的は子どもの教育の質を上げることです。ここを見失ってはいけません。そのためには、今の学校のマンパワーだけでは足りない。だからこそ無理無駄を削減し、ICTを活用しながら、PTAや地域のみなさんの力もお借りしてみんなで子どもを育てるのだと思います。チーム学校とはそういうことではないでしょうか。その意味でマネージメントが重要になります。校長はPTA会長や地域のリーダーと一緒に、本当に考えなければいけない。校長のリーダーシップがますます重要な時代です。

――参考になるお話を、どうもありがとうございました。