学校で起きる先生と保護者の対立 「知らせる努力と知る努力」で解決を

ICTを活用した働き方改革を進めてきた新保元康先生(写真提供「教職研修」編集部)

 学校と保護者の間に、本当に必要なものは何か? そんな問いのもと、筆者は昨年からいろんな先生たちにお話を聞かせてもらっています。

 今回登場するのは、札幌市の小学校で11年間校長を務めた新保元康(しんぼ もとやす)先生。ICTを活用した働き方改革を進めてきた新保先生は、先生同士でも、保護者との関係においても、コミュニケーションや情報共有をとても大切にしてきました。いま、保護者と学校に必要と新保先生が思うことは、何でしょうか?

  • 取材は2020年9月にZoomにて、『教職研修』編集長岡本氏の仲介で行いました

*保護者が欲しい情報がすぐに見つかる学校ガイド

――ご本(*1)にありましたが、新保先生が発案されたA3サイズの小学校ガイド、保護者はみんな欲しがると思います。持ち物のルールや主な行事の日程など、必要な情報が全部まとまっていて、すごく便利です。学校への問い合わせや、行き違いのトラブルも減るのでは。

新保先生発案の「よくわかる!◎◎小学校」
新保先生発案の「よくわかる!◎◎小学校」

 ここに載っている情報は、大塚さんのお宅にも届いていたはずです。ただし、それが30枚ぐらいのプリントになっていたかもしれません。1枚じゃなくて、分割で届けられていたことになります。

 おそらく、この1つのマスの情報が、A4×1枚のプリントになって届いていたはずです。どのプリントも「残暑の候、皆さまにおかれましては…」から始まって、とても丁寧なのですが、何が言いたいのかちょっとわかりにくい。ですから、学校からのお手紙はすぐに捨てちゃう人もいると聞いて驚いたたことがあります。学校のほうは「こんなに一生懸命書いているのに、親は何も見てくれない」とか思っているのです。どこかボタンが掛け違っている。これではいろいろなトラブルが起きるのは当たり前ですよね。それで全部まとめてこのガイドを作ったのです。

 普段なかなか言いづらいことも、ここに書くことにしました。たとえば右上に、プールのことが書いてありますね。おうちでは体温を測ったり、はんこを押したり、タオルや水泳帽を用意したり、いろいろ準備が大変ですね。それが1個でも欠落しているとプールに入れることは出来ません。水泳学習には、学校はとても慎重です。昔はタオルや水泳帽を忘れたら学校で貸していたけれど、今はシラミなど衛生面の問題で絶対貸せないのです。

「よくわかる!◎◎小学校」より
「よくわかる!◎◎小学校」より

 以前は、「親のはんこの押し忘れで子どもがプールに入れないのはかわいそうだ」と先生が気を回し、「はんこがないけど、どうしますか?」という電話を掛けて、「先生ごめん、うちの子、大丈夫ですからプールに入れてください」といったやり取りもありました。今はそんな余裕はありません。水泳指導は、油断すると命に関わることさえあります。先生たちは安全管理に集中します。だから電話する余裕はありません、ということもそこに書いてあるわけです。

――最初から「電話確認不可」と知らされていれば、保護者も覚悟できますね。あと右下の方にある「虐待は通告します」というのも大事です。

 これは書くべきかどうかとても悩みました。その頃、虐待の大きな事件があり、たくさん報道もされたので、今ならみなさん納得していただけると思って書いたのです。

――それまでは、言いづらかったんですか?

 とても言いづらいです。虐待なのかどうかは、いつも判断に悩みます。場合によっては、保護者との信頼関係を損なう可能性もあります。ここまで明確に書くべきかどうかは正直悩みました。しかし、子ども第一と考え思い切って書いたのです。幸い皆さんにとてもよく理解していただきました。

――登校時間帯や先生の勤務時間が書いてあるのもいいですね。昔は早く登校すれば褒められたので「実は、子どもたちの登校時間は先生の勤務開始時間より前に設定されていて、早過ぎる登校は迷惑になる」なんて、知らない保護者は多いですから。

「よくわかる!◎◎小学校」より
「よくわかる!◎◎小学校」より

 そうですね。昔は、元気よく早くから登校する子たちと遊ぶ余裕もありましたが、今はとても無理です。子どもだけで遊んで事故が起きると、また問題にもなります。それで勤務時間も載せているのです。電話対応が可能な時間も載せて、協力してもらいました。今は、17時頃までにしている学校が多いと思います。

――「お悩みは学校にご相談ください」と書いてあるのも親切です。さらに、経済的な相談から子育て、いじめの相談まで、いろんな電話番号が載っています。

 これもとても大事です。日本の学校は「子育てよろず相談所」的な頼られ方もしています。もちろん、精一杯対応しますが、学校が100%解決できるわけではありません。ですから「今の話だとこういう専門の窓口あるから、そちらの方と相談するといいですよ」と紹介します。ガイドに書いてあるので、最初から専門窓口にかけてくれる方もいて、とても助かりました。

 学校の先生も相談窓口を全部知っている訳ではありません。ここに書いていないとどうしていいのか分からず、電話で受けた相談を、自分で抱え込んでしまうこともあります。親御さんも先生も、このガイドでいろいろな相談窓口があることを理解することができます。そこから、「一緒に解決しましょう」という気持ちにもなれるのです。

――このガイドは具体的にどうやって制作したんですか?

 Wordで作り、データをPDFにして業者さんに印刷をお願いしました。このWordデータ今、全国のあちこちに出まわっているようです。ガイドを学校のプリンタで印刷した例もありますが、すこし残念な仕上がりに見えました。厚手のちょっといい紙を使って印刷してもらうことで「これは大事なものだな、ちょっと捨てられないな」という感じになります。これは、大事なポイントだと思っています。

*フランクなコミュニケーションで情報共有

――いまの学校ガイドが象徴的ですが、新保先生は保護者との情報共有を大切にされています。PTAはどうでしたか?

 どの学校でもPTAの役員さんとの情報共有は大事にしています。しかし、学校ではなかなかフランクには話しにくい…というお悩みを聞くこともありました。学校の敷居はとても高く見えるのかもしれませんね。

 PTAの役員さんとは、僕もよく話をしていました。自分からPTA室に出かけて、世間話をしていました。ある意味、どうでもいい話もたくさんしました。でもその中で、打ち解けてホンネを聞くことができたように思います。耳の痛い話もありましたが、とても貴重な時間でした。むしろ「言いにくいことを早めに教えてください」とお願いしていました。フランクなコミュニケーションが情報共有の始まりのように思います。

――新保先生はICTで有名ですが、アナログなコミュニケーションも大事にされてきたんですね。

 ICTも使いました。役員さんたちとはLINEやメールもしました。この辺はいろいろな考え方があると思います。公私の区別はとても大事です。結局はバランスの問題かなと思います。いずれにしても、管理職の本気を感じてもらうことが大切だと思います。

――学校と保護者の情報共有不足を感じてこられたんだと思いますが、何か具体的な例はありますか?

 たくさんありますね。学校の先生方の多忙さも、正しく伝わっていないと思います。社会の空気というのでしょうか、特に小学校は「子ども相手の仕事で、先生方、楽でいいよね」という感覚があるのではないかな思います。実際は逆に、相手が子どもだからこそ、すごく細かいところまで気を使っている。たしかに、昔は今ほど細かく気を遣ってはいなかったかもしれません。少子化に伴って、どんどん細かいところまで大事にするようになったのでしょうか。教師に求められる繊細さは本当に変わりました。

 昔だと、学校では「いろんなトラブルがあるのが当たり前、その中でたくましくなる」という暗黙の了解が社会にあった思います。今は「いろんなことがないのが当たり前」になっているのではないでしょうか。37年間の教員生活で、その変化の大きさを感じます。

 それから、逆の例もあります。親御さんの忙しさや大変さを、先生たちが理解していないことがあります。「あのお母さんは働いていないから、これぐらいはできるはずだ」という思い込みをしていることもありました。働いていらっしゃらないということは、なにかご事情があるのかもしれません。もしかしたら近くにおじいちゃんやおばあちゃんがいて、介護などあるのかもしれません。個性的で多様な生き方が出来る時代なのに、ステレオタイプな見方を学校側がしてしまってはいけないと気をつけていました。

 私の先輩が教えてくれた「知らせる努力、知る努力」という言葉があります。これがつまり情報共有ですね。親御さんと先生たちが、それぞれの喜びや奮闘、大変さを、互いに遠慮なく知らせる努力をし、知る努力をする。そうすることで、本当の連携が出来るように思います。親御さんも学校側も、我慢に我慢を重ねてしまうと、良いことはありません。限界を超えていざ話が始まると、止まらなくなってしまう。だからやっぱりお互い、小さいことのうちに伝え合う。やはり「知らせる努力、知る努力」だと思います。

 だから、ごくふつうの感じで、「いや先生ごめんね、ちょっとこれわからないんだけど」って聞ける学校でありたいし、僕も「お母さんお父さん、これ忘れているんじゃない?」って言える学校でありたい。そういうお互いの関係性を、情報共有っていうのかもしれませんね。

――なるほど、先生によく思われようとして、保護者が勝手に我慢するのもよくないですね。ただ、学校への電話はどうしてもしづらいです。電話って忙しいときに来るとすごく迷惑ですよね。一般社会ではメールが基本ですが、学校は電話しかないから申し訳なく。

 難しいですね。実際、親御さんが意を決して学校に電話したのに、先生の対応が今ひとつ期待に添わず、そこで問題がどんどん複雑になるということもあります。だからこそ本当に、問題が小さいうちに相談できる関係が大事です。

 かつては、保護者と先生の仲立ちを、PTAの役員さんがしてくれた時代もありました。お子さんがたくさんいて、子育て経験の多いお母さんに助けられたことが私もあります。今は難しいのかもしれませんね。

――保護者間で解決できる部分もあると私も思うのですが。ただ、PTAが学校との仲立ち、となるとなかなか…。

 PTAにそれを期待するのはむずかしいでしょうね。それが役員のするべき事だとしたら、誰も役員になってもらえないかもしれません。子育てのちょっとした悩みは、親同士で助け合うのはとても大事です。しかし、それがPTAの役割にはならないでしょう。

――PTAじゃなくても可能かなと思います。いま保護者はLINEなどでネットワーク状につながれるので、役員さんがいちいち間に入る必要もないですし。

 そうですね、実際に若い保護者の皆さんは既にSNSを活用してどんどん問題を解決していると思います。SNSの特性を知り、使い方に気をつけることで、よいネットワークに参加できるかもしれませんね。そして、どのような人間関係においても根っこには「寛容さ」というのが大切だといつも感じています。

(続く)

  • *1『学校現場で今すぐできる 「働き方改革」目からウロコのICT活用術』新保元康著 明治図書