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「これはもう違う組織にしたほうが…」PTA役員を悩ます「P連」を解散したら起きたこと

大塚玲子ライター
新組織では、保護者も教職員も対等につながっている(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 PTAのネットワーク組織、「P連」。ある市ではこのP連を、保護者と教職員が話し合って、なんと解散。そして会費ゼロ&保護者も教職員も個人参加できる新組織をつくったといいます。今回はこの経緯についてお伝えしたいのですが、先に「P連」とはどんなものか、少々説明が必要でしょう。

 「P連」というのは、PTA連絡協議会、PTA協議会などの略称です(*1)。全国どこにでもある組織ですが、PTAの本部役員さんでもなければ知らない人がほとんどです。公立小中学校のP連は市区町村、都道府県ごとにつくられ、その多くは全国組織である公益社団法人日本PTA全国協議会(略称「日P」)までつながっています(下図参照)。(*2)

PTA、P連、日Pの組織図 ※P連やPTAの加入率は各P連によって異なる(画像制作:Yahoo!ニュース)
PTA、P連、日Pの組織図 ※P連やPTAの加入率は各P連によって異なる(画像制作:Yahoo!ニュース)

 各P連は、加入しているPTAやP連から「分担金」を徴収し(元はPTA会費)、活動費や人件費などにあてています。PTAと同様、研修会や広報などの委員会活動をしているところが多いですが、このほかに各PTAの要望を行政に伝えるP連もときどき見かけます。

 P連は教育委員会と密接な関係にあります。PTAやP連は行政から社会教育関係団体として扱われるので(*3)、多くの場合、P連の事務局は教育委員会のなかに置かれ、教委がP連の活動をサポート(お膳立て)しています。ただし教委の関与の度合いは、自治体(P連)によって随分異なるというのが、これまで20か所以上のP連を見てきた筆者の印象です。

 どこのP連も同じような問題を抱えていますが、最もよく聞くのは活動の負担についてです。P連に参加するのは大体各PTAの本部役員さんなので、「自分のPTAの仕事もして、その上P連でも活動や動員があって辛い」という声を大変よく聞きます(*4)。P連の活動や動員も、各PTAのそれと同様に強制が多いのです。

 また多くの場合、「P連にかかわれるのは、各PTAの本部役員さんだけ」という問題もあります。一般会員から集めたお金をP連に納めていても、P連で行われる研修会やイベントは一般会員には告知されず、分担金を払っていることや、その存在すら一般会員が知らないことも珍しくありません。

 そして、各PTAの会員はもちろん各PTAや各P連も、より広域のP連に対し、どこまで(どのP連に)所属するかを、自分たちで決めることができません。たとえば、A県内のB市P連に所属するC小学校PTAが、日Pにだけ所属したい(B市P連やA県P連を抜けたい)と思ってもそれはできませんし、逆にB市P連にだけ所属したい(A県P連や日Pを抜けたい)と思っても、B市P連やA県P連がピラミッドから外れない限り不可能です。

 もちろんP連にも良い点はあります。参加する役員さんから一番よく聞くのは、「他校のPTAの人たちと交流し、情報交換できるのが良い」という声です。この点は確かにありがたいのだけれど、それにしても負担が大きい……、といった悩みをもつ役員さんが多いのです。

 前説が長くなりましたが、本題です。このようなP連の問題を解消しつつ、交流や情報交換に重きを置いた新組織を作った人たちがいます。仮にQ市と呼びますが、Q市では保護者と先生がとことん話し合い、市P連を解散し、新組織を誕生させました。新しい組織は分担金(会費)がなく、保護者も教職員も個人単位で参加でき、強制はなく任意だといいます。

 良いこと尽くめの新組織のようですが、市P連を解散することで困ることはなかったのでしょうか? どうやって、そういった形の新組織を実現できたのか?

 今回は、Q市P連の解散から新組織の立ち上げまでを間近で見てきた保護者の一人、Aさんに、詳しく話を聞かせてもらいました。Aさんは市内の小・中学校のPTA役員として、約7年前からQ市P連にかかわってきたということです。

*なぜ解散を決めたのか

――Q市P連は解散する前、どんな状況だったんですか?

 もともと加入率はあまり高くありませんでした。市内には小・中学校と特別支援学校が全部で50数校あるんですが、20年前の時点で加入していたのは30数校だったそうです。市内にはPTAがつくられていない学校もありました。

 その後、2005年頃には30校を割って、2012年には20校を割り、2015年からは10数校になりました。私がQ市P連にかかわったのは2013年頃からで、毎年3校ずつ減っていく、みたいな状況を目の当たりにしていました。

――どうして市P連を抜ける単P(=PTA)が多かったんでしょう?

 一番の要因は、負担感が大きかったことだと思います。そもそも各学校でPTAの役員になったとき、P連というものがあることを知らない人が多いところ、PTA会長になれば、市P連などのいろんな会議に出なければいけなくなります。そういう会議に出るだけでも、大変なところが大きかったようです。

 さらに、P連には広報や研修会などの委員会があって、P連に入っているPTAの役員は、そのどれかに属さなければなりませんでした。委員長は持ち回りだったので、「初めてPTAで役員になった人が、いきなりP連で委員長になる」みたいなこともあって、意義に目を向けるよりも「やることが多すぎて大変」というイメージが強かったみたいです。

 あとは、私がかかわるよりだいぶ前のことですが、委員会活動をがんばっても、誰からもフォローがなかった、などの背景もあったようです。

 分担金のこともありました。Q市P連は1世帯50円の分担金(うち23円を県P、10円を日Pに納める)を各PTAから頂いていましたが、これが負担だという声も多く。「うちは会費を下げたので、もう払えないから抜けます」というPTAもあったそうです。

――全国のP連に共通する問題点ばかりですね。それで、すぐ解散することに?

 いえ、状況を改善して、もっと多くのPTAとつながれるよう、いろいろと努力はしていました。たとえば市から業務委託金が出ていた研修会は教育委員会にお返しして、やること自体を減らしたり。また、委員会という形で各校の代表さんに動いてもらうのではなく、イベントはP連の本部役員が段取りをして、当日の受付やファシリテーターなどを皆さんにお願いする形にしたり。

 未加入のPTAや学校も参加できるイベントも企画しました。私がP連の役員を始めた頃のメンバーで、「いま加入している以外のところの人たちとも交流したい。そういう学校でも、他校の情報が欲しい人はいるだろう」と考え、地道に声かけをして。参加してくれたPTA会長さんや役員さんには喜んでもらえたんですが、それでも加入にはなかなか至らなくて。そうやって3年くらい何校かにアプローチしていましたが、ずっと10数校のまま。

 未加入のPTAのなかには、過去にP連と揉めて退会した経験から、「市P連アレルギー」みたいになっているところもありました。「市P連から届くお便りは一切封を開けなくていい」って引き継ぎされていたりして。そうなるともう、市P連の看板自体が意味をなさないというか、マイナス効果になってしまっているんですね。それで、これはもう違う組織にしたほうがいいんじゃないか、ということで、解散の方向で検討を始めました。

――最初から「違う組織をつくる」という前提での解散だったんですね。ただ、周囲の市町村P連や県P連は、驚いたでしょうね。

 はい。まず県Pに「Q市P連はこういう理由で解散しようと思っているが、そうなると県Pとのかかわりはどうなるでしょう」と相談したら、「いや、とにかく解散はやめておきなよ」という感じで。理由を聞いたら、あまりはっきりは言わなかったんですが、おそらく県Pに分担金などが入ってこなくなるのが大きいのかな、という感じがしました。

 こちらとしては「県Pがやっている講演会や研修会などの活動には意義を感じているので、残れるなら残りたい」ということで話をしていたんですが、最終的にはやっぱり、県Pに加入する対象の組織ではなくなってしまうということで、抜ける形になりました。だから私たちとしては、他のP連に県P脱退を勧める気は全くないんです。ときどきお問い合わせいただくので、念のため。

 なおこのとき、市P連に入っていた10数校には、「単独(単P)でも、もし希望があれば県Pに加入できます」と案内しました。その場合、分担金はこれまでより安くなり(市P連の分がなくなるので50→33円になる)、県Pの研修会などにも参加できるよと。ただし、県Pの理事(役員)の“割り当て”はあるので、そこも踏まえて検討してくださいと伝えたところ、希望するPTAはなかったので、結局Q市は全PTAが抜けることになりました。

――よく都道府県や政令市のP連を抜けるというと、「保険に入れなくなる」と言われる話を聞きますが、それはなかったですか?

 それもすごく言われました、「保険もなくなっちゃうよ」って。でも、もともとQ市では「市民活動保険」というものがあって、PTA活動はそっちを使えるんです。任意で入るほうの保険(24時間総合保障)も、もしニーズがあればQ市独自でプランをつくることもできるよね、ということになって。そんな感じですが、県P退会は円満だったかなと思います。

――先生たちからの反対はなかったですか? PTAやP連の解散とか、新組織をつくるというと、校長先生とかが止めそうですが。

 心配する校長先生もいらっしゃいました。でもこの件は、教育委員会にいるPTA担当の先生たちが、いろいろ下地作りをしてくださっていて。実際に動くのは検討会メンバーの保護者でしたけれど、その先生たちが下調べをしたり、「これをこうするためには、この時期までに保護者が校長会に行って、話をしておいて」など段取りをつけたりしてくれたのもあって、最終的にはうまく話をまとめることができました。

念のため添えておくと、教育委員会が下地作りをしたというと、「学校側に都合のいい組織に変えられたんじゃないか」と思う人もいるかもしれませんが、そういうことではありません。保護者と先生が本当にたくさん意見を出し合って、「未来につなぐには、どういう形が一番いいか」を、さんざん話し合った結果です。

 そんなふうにして、2017年度の1年間、みんなでいろいろと検討して、2018年3月に解散したという流れです。

*保護者と先生はパートナー

――解散後は、すぐ新組織ができたんですか?

 新しい組織は2018年の6月に立ち上げました。「Q市の子どもたちのためにつながる会」という名前で、ちょっと長いんですが、目的が一番わかりやすいかな、ということで。これは市内50数校、すべての学校に通うすべての子どもたちの保護者と先生がゆるやかにつながることをめざした会で、略して「つながる会」と呼んでいます。

 この会の規約をつくるとき、「役員」という言葉はちょっと重いよね、ということで「サポートスタッフ」と呼ぶことにして、保護者5~7名くらいと、校長会・教頭会からも数名ずつ、かかわっていただいています。事務局は、教委がやってくれています。

 活動内容は、まずイベントとして、6月に総会&全校交流会、9月に役選情報交換会、11月に保護者と先生の語る会、1月に講演会をやっています。このうち11月の会は、人権男女共同参画課と教職員組合との共催です。ほかには年に一度、総会の報告のため広報紙を発行したり、ホームページの作成やメール配信をしたり、といったこともしています。

――活動内容は、市P連のときとそんなに変わらなさそうですね。

 ええ、でも仕組みが市P連のときとは全く違います。「つながる会」は、PTA対象ではなく、保護者も先生も個人で参加できる形です。保護者も先生も、「こういう情報がほしい」というニーズはいろいろあるんだけれど、PTAというフィルターを通すと、急に何かすごく「やらされる」感じになってしまったりするのがもったいないよね、ということで、本当に情報が欲しい人に必要な情報が届く形を考えた結果、こんなふうになりました。

 また分担金というか会費も徴収しないので、入会という概念もなく、誰でも「お子さんが学校に入学したら、こういうイベントに参加する資格がありますよ」という形です。もともとPTAがない学校もあって、分担金を集めようがなかったこともあり。

――分担金なし、賛成です。情報交換に活動を絞れば、そんなにお金はかからないですよね。2018年度にこの組織ができて、その後はどんな感じですか?

 3年目の今年(2020年度)は新型コロナでまだ活動していないですが、2018、2019年度の総会・全校交流会は、土曜参観が重なったところ以外、全ての学校・PTAから誰かが出てくれて、皆さんの賛同のもと活動できているかなと思います。

 役選情報交換会は、毎年100名くらい参加して、グループディスカッションをしたり、各PTAで配布しているプリントを見せ合ったりしています。講演会(1月)は、2回とも講師をお招きして、400名くらい参加がありました。

 保護者と先生の交流会は、先生と保護者合わせて80名ほどの参加でした。前半は講師を招いて人権に関する講話を聞いて、後半はグループディスカッションをするんですが、学校をミックスしてグループをつくるんです。先生の本音が聞けて面白いですよ。保護者からの悩み相談に、先生やほかの保護者が本気で答えて、涙の会になっちゃうこともあります。

――それこそP(保護者)とT(先生)の会ですね。本音トーク、うらやましいです。

 一番よかったと思うのは、以前は「市P連加入校/未加入校(PTA未組織校も含む)」みたいな壁があったのが、いまはなくなって、よりたくさんの保護者や先生とつながるベースができたことです。保護者と先生は「ともに子どもたちを育てるパートナーである」という共通認識をもって、互いにこたえあっている感じがします。

 あとは、PTAがない学校の保護者も個人として参加できるので、そういう方から「こういう会を開いてもらってうれしいです」と言ってもらえたりするのも、良かったなと思います。

――良いことばかりですね。逆に、今の形で何か困ったことはありますか?

 今のところ何もないですね。今後の課題としては、サポートスタッフ(役員)の決め方があります。立候補もいるんですが、なかなか集まりに参加できなかったりして、実質動けるメンバーが決まってしまうという問題があって。

 あとはお金のこともあります。これまでは市P連の残金もあったんですが、もう使い切るので、今後は助成金だけになる。そうなるとやっぱり、お金がかかる講演会などは難しくなるかなと。保険事業(24時間総合保障の取次)もやっているので、そちらで儲かりそうに見えますが、「つながる会」はここで一切収入(広告費のキックバック)が生じないように契約しているので。今後は活動規模を縮小するなり、イベントで参加費をいただくなり、対応を考えていければと思っています。

 それから、P連もPTAと同様にメンバーがどんどん入れ替わっていくので、立ち上げメンバーがめざした理念をどう継続させるか、というのも課題かなと思います。「保護者と先生がパートナーとして子どもたちのことを考える」という一番だいじなところが、ずれていかないようにしたいなと。でも「つながる会」はOBの保護者もかかわれるので、現役の方の想いを尊重しつつ、適度にサポートできたらと思っています。

――これまでの形にとらわれず、1から必要な形を考えたP(保護者)とT(先生)の組織、とても良いですね。参考になるお話を、ありがとうございました。

  • *1 ほかにも「PTA連合会」「PTA連絡会」など様々な名称のP連があり、略称も「P連」ではなく「P協」「連P」など別の呼び方をする地域も多くあります
  • *2 このほか、県立高校のP連や、私立校のP連等もあり、それぞれに全国組織があります
  • *3 PTAやP連が社会教育関係団体として扱われることが妥当か、という点については、改めて考える必要があると思います
  • *4 PTAによっては、P連の専任役員を立てている場合もあります
ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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