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それ、お父さんでも頼んだ? 布マスク作り、細かな家庭学習――PTAも学校も「母親前提」の見直しを

大塚玲子ライター
マスク作りは「お母さんがやること」という前提だから頼めた側面もあるのでは?(写真:アフロ)

 先日ある会社で、女性社員ばかりに「布マスク作り」の指示が出されていたことが明らかになりました。社内で「裁縫は女性がやるもの」という決めつけによる「性差別」ではないかと指摘があがり、幹部が釈明する事態になったということです。

 この春は学校でも、PTAに対しマスクの手作りを指示した校長や教育委員会がありました。そもそも、力ある側からの指示で行われるそれは「寄付」でも「ボランティア」でもないですが(*1)、この話を聞いたときにもう一つひっかかった大きな点は「それ、相手がお父さんでも頼んだ?」ということです。

 マスク作りは「お母さんがやること」という前提だから、学校はPTAに頼めた側面もあるのではないでしょうか。

 休校期間中、児童らに学校から出された細かな時間割学習に、多くの母親たちから悲鳴があがっていましたが、これもやや似た印象があります。「お母さんがみる」という前提だから、そういった課題を出せたところもある気がするのです。

 学校だけではありません。PTAのなかにも、「お父さんになら頼まないよね」と思われる「仕事」(お手伝い)がよくあります。

 学校を訪れる来賓への「お茶出し」、給食用エプロンの「修繕」(ときにアイロンかけ)、ベルマークの仕分けや集計……。こういったことは、もし父親たちに頼めば「母親がやらないなら、学校に予算をつけてやるべきだ」と断りそうです。

 「子どものことに関するお金にならない仕事は、母親が(進んで)やるもの」という考えは、この社会に浸透しきっています。そのため母親自身も、無意識に「それが当たり前」と思いこんでいることが多いのですが、それはほんとうに当たり前なのでしょうか。

 われわれ親世代の幼少期とは違い、いまは共稼ぎ世帯がほとんどです。母親が子育てをする慣習が根強いので、パートなど比較的時間の融通がきく仕事をしているお母さんも多いですが、父親と変わらない拘束時間で仕事をする母親も大勢います。

 ひとり親家庭(母子・父子家庭)も増えており、30~40年前によくいたような「時間と余力のある専業のお母さん」は、いまや希少です(*2)。つまり、父親と変わらない状況にある母親は、大勢いるのです。

 そういった現状を考えると、学校やPTAが父親になら頼まないことを、母親を前提として頼んでいるような状況は、やはり理不尽に思えます。

 これからは学校もPTAも、「父親に頼まない仕事(お手伝い)は、母親にも頼まない」ことを、常識にしていけないものでしょうか。

 そして母親自身にも、「父親が断る仕事(お手伝い)は、母親も断っていいんだ」と気付いてもらえたら。

 もちろん、母親だろうが父親だろうが、自分からやりたいと思ってやるのであれば、何も問題ありません。お茶出しでも、ベルマークでも、やりたければどんどんやったらいいでしょう。

 でも、「義務だ」と思っていやいや我慢してやる必要はないですし、ほかの母親に「義務だからやって」と圧力をかけたりすることでもありません。そこに気付いてもらえることを、願っています。

  • *1 もちろん、母親でも父親でも、自らの意思で布マスクを作って寄付するのは別の話で、何も問題ないと思います(喜ばれそうです)
  • *2 いまの専業主婦(主夫)は、親の介護をしている、子どもが大勢いる、闘病中など、事情があってそうしている人も多く、昭和の時代の「時間や余力のあるお母さん」とは少々状況が異なる面もあります
ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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