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しわ寄せは子どもたちへ 保護者も考えたい「教員の長時間労働」という問題

大塚玲子ライター
応援の声も必要です(ペイレスイメージズ/アフロ)

 先生たちの長時間労働が問題となり、学校における働き方改革が進められています。「自分には関係ない話」と思っている保護者も多いでしょうが、しかし先生たちの多忙・負担が解消されないと、本来子どもたちにふり向けられるべき時間や資源がますます減ってしまいます。決して保護者にも無関係な話ではありません。

 筆者はこれまでPTAの取材のなかで、先生の本音を聞かせてもらう機会が何度かあったのですが、「これは保護者も知っておくべきだし、考えなければいけないのでは」と感じるエピソードがいくつかありました。今回は、それを紹介したいと思います。

*「本当の理由」を言えない

 関東近郊の、ある公立小学校の先生から聞いた話です。

 この学校では授業の時間内に、地域が主催するバザーイベントに子どもたちが小遣いを持参して参加する、という慣習がありました。

 でも先生たちとしては、これをやめにしたいのだそう。

 「授業のなかでお金を使うのはいかがなものか」という観点から、保護者の理解を得ようとしているが、なかなか納得してもらえず困っている、というお話でした。

 しかし、よくよく話を聞くと、本当の理由はどうも違うようなのです。

 子どもたちが家から持ってきたお金をなくしてしまったら、大ごとです。そのため、子どもたちが登校すると先生がすぐ全員からお財布を回収し、教室が空になるときは事務室の貴重品入れに預け、イベントに向かうときにお財布を全児童に返す、といった作業が発生しており、これが先生たちの大きな負担となっていたのです。

 確かにそれは大変でしょう。いまの先生たちはただでさえやることが多いのに、臨時とはいえお金の管理までしなければいけないのは負担です。

 私が「『先生が管理するのが大変だから、やめたい』って保護者に言っても、ダメなんですか?」と尋ねると、「そういう問題ではないんです。授業でお金を使うのはよくないですから」と、その先生は繰り返すばかり。

 このとき筆者は「どうして本当の理由を言わないんだろう?」と、不思議に思ったのを覚えています。

 次に、東京周辺のある公立小学校の校長先生からも、同じような話を聞きました。

 この学校では毎年運動会のとき、偶数学年の児童が鼓笛隊を組んで演奏を披露していたのですが、先生たちはこれを「運動会なのに、音楽をやるのはおかしい」という観点から、やめにしたがっていました。

 が、これも保護者たちが反対していました。「地域の伝統だから」とか「お兄ちゃんが鼓笛隊をやっていたので、下の子にもやらせたい」などの理由から、なかなか理解が得られず、先生たちが困っているとのこと。

 正直なところ、筆者は「それは保護者は納得しないだろう」と思いました。筆者も大昔、小学生だったときに運動会で鼓笛隊をやっており、それをいまさら「鼓笛隊は音楽だから運動会でやるのは変」と言われても、同意できないと思ったのです。

 しかしよく話を聞くと、これもやはり、本当の理由は違うところにありました。

 先生たちの負担が、とても大きかったのです。早朝から登校して指導したり、昼休みや放課後に指導したりと、時間外労働の大きな原因となっていたのです。先生たちは昔と違ってやることがとても増えているので、それはやめてしかるべきでしょう。

 そこで筆者が「どうして、正直に『教員の負担が大きいからやめたいんです』って保護者に言わないんですか? 鼓笛隊が音楽だからと言われても、私だって納得しませんよ」と尋ねると、この校長先生は大変率直に答えてくれました。

 「それを言った瞬間、つついてくる親がいっぱいいるんです。『子どものためでしょ?』って言われると、我々教員は負けてしまいます。だから教員の負担以外の、もっともらしい理由付けをしなければいけなくて、そこにまた労力がかかるんです」

 そういうことだったのか……と驚きましたが、でも保護者だってみんながみんな、無理解なわけではないのでは。「説明すれば、わかってくる保護者だって多いんじゃないですか?」と尋ねると、

 「そういう保護者もいますけれど、すべてではないですし、それよりもやはり文句を言ってくる親御さんのほうが目立ちます。『先生も大変だよね』ってわかってくれる親御さんは、黙っている親御さん。そういう方は、わざわざ何も言ってこないですから」とのこと。

 なるほど、だから本当の理由を言えなくなっている、ということのようです。なんと不毛な……。どうすればいいのか? 考え込んでしまいました。

*保護者も応援の声を

 やはりまず、保護者がもっと教員の負担を理解する必要はあるでしょう。すでに理解している保護者も少なからずいるでしょうが(仮に保護者A群と呼びます)、理解していない保護者(仮に保護者B群と呼びます)もまだ多いので、そちらに働きかけていくことが求められます。(実際にはA~B群はグラデーションです)

 ではどうやって保護者B群に働きかけるか? というと、やはり学校・先生たちが「本当のこと」を言うしかないと思うのです。

 「『教員の負担』を言うと、保護者に理解してもらえないから」と言って、別の理屈をひねりだしている限り、B群は教員の負担を理解しません。

 学校や先生、教育委員会は、たとえ保護者に文句を言われても、自分たちの労働時間を守る努力をすべきではないかと思います。それをせずに「保護者の理解がない」とばかり言われても、特にA群の保護者は、居心地の悪さを感じるばかりです。(書きながら筆者も、申し訳ない気持ちになるのですが)

 一方で、A群の保護者たちは、先生たちを助けねばと、自分たちの労働力やお金(PTA予算等)をせっせと学校に差し出しがちですが、むしろ薮蛇な面もあります。それをすると「学校はお金がなくてもなんとかなるんだね」と思われて、予算をますます減らされることにもなってしまいます。

 保護者はもっと、「先生たちが労働時間を守ることを応援します」と声に出し、先生たちや教育委員会、周囲の保護者などに、伝えていけるとよいのかもしれません。このままでは、結局のところ、しわ寄せは子どもたちに向かいます。

  • 実際に何人かの先生たちからうかがったお話をミックスして、再構成してあります。
ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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