本日提訴 「夫婦同姓を望む人」と「夫婦別姓を望む人」が争う理由は何もない
働き方改革などで知られるサイボウズ株式会社(東証一部上場)社長の青野慶久氏が、選択的夫婦別姓の実現を求めて提訴し、話題になっています。訴訟の詳細は多くのメディアが報じていますので、ここでは「選択的」という語が意味する部分をとりあげたいと思います。
ここでいう「選択的」とは「夫婦同姓も、夫婦別姓も、どちらも選べる」ということです。これまで法的に結婚する夫婦には「同一の姓になる」という選択肢しかありませんでしたが、これを「同姓にしたい夫婦は同姓を、別姓にしたい夫婦は別姓を選べるようにしよう」というのです。
「いや、やはり夫婦別姓はよくない」と考える方もいるでしょうが、そう思う方はこれまで通りの夫婦同姓を選べます。「選択的夫婦別姓」は「選択的夫婦同姓」と同義であり、同姓を望む夫婦も、別姓を望む夫婦も、どちらも我慢は不要です。
これはちょうど、筆者がテーマの一つとするPTAの問題とも似ています。PTAではよく「やりたくない人にやらせる」ために、さまざまな問題が起きます。そのため「PTAをなくせ(=やりたい人もやるな)」という声があがるのですが、すると今度はPTAをやりたい人たちが怒り、泥沼の議論に陥りがちです。
しかしこれも「やりたい人がやる(任意)」とすれば解決します。やりたい派・やらない派が互いを認め合い、「やりたい人がやる、やりたくない人はやらない」とすれば、無駄に争う必要はなくなるのです。
「いやいや、そんな“ワガママ”を認めたら、社会が成り立たなくなってしまう」と心配される方もいるかもしれませんが、それはじつは、思い込みではないでしょうか。
もちろん世の中には「やりたい人がやる」では済まないことだって、いろいろあります。たとえば税金を「払いたい人だけが払う」としたら大変なことになります。それはたしかに、社会が成り立たなくなるでしょう。
でも夫婦の姓はそういうものではありません。同姓の夫婦がいて、別姓の夫婦がいて、困ることは見当たりません。ばらばらにしても大丈夫なことも、じつは、たくさんあるのです。
それだけでなく、これまで夫婦の一方が改姓する際に生じてきた、多くの労力を省けます。改姓する本人の手間暇だけではありません。役所や免許センター、パスポートセンター、銀行、カード会社等々の内部におけるさまざまな作業も不要になります。
PTAも同様です。よく「やりたい人がやる形にしたら崩壊する」と心配する方がいますが、入会届を配っているPTAで、PTAがつぶれたという話は聞いたことがありません。おやじの会など会員が数人でも成り立っています。
「やりたい人がやる」という本来の形(=法律上の位置づけどおり)にすれば、強制的な会費徴収や、強制ボランティア、強制寄付(ボランティアとも寄付ともいえませんが…)などの違法行為もせずに済み、訴訟のリスクも回避できます。
*「どちらが正しいのか」は正しいのか
筆者は以前、「法律婚」と「事実婚」が取っ組み合いの大喧嘩をしている夢を見たことがあります。なんとばかばかしい。筆者も起きたとき、そう思いました。
当時、わたしはいろんな形の結婚・つがい方をしたふうふ(*)を取材しており、「法律婚(夫婦同姓)、事実婚(夫婦別姓)、どちらが正しいんだろう?」と日々考えていたところ、そんな夢を見てしまったのです。
- (夫婦・夫夫・婦婦すべて含む)
しかしそもそも、問いの立て方が間違っていました。法律婚も事実婚も、夫婦同姓も夫婦別姓も、どちらも正しいのです。それぞれのふうふがどちらを選ぶか、それだけのことでした。それをわたしが勝手に「どちらか一方が正しい」と思い込んでいたのです。
現在すでに法律婚と事実婚は選べますが、さらに法律婚において夫婦同姓・別姓を選べるようになるなら、それにこしたことはありません。相続などの税制においては、やはり事実婚より法律婚のほうが断然有利です。
あらゆる問題において、「AかBか」という二項対立を、一度見直してみてはどうでしょうか。じつはAもBもどちらも正しかった、ということが意外と多いように思います。