「人生を切り拓く力」を伝えたい! 子供たちのための「プレゼン」出前授業

「日本財団ソーシャルイノベーションアワード2018」。写真提供:アルバ・エデュ

伝えたいのは小手先のプレゼン技術ではない

「でもね……」

盛り上がったプレゼン授業の最後、講師の竹内明日香さんは、笑みを浮かべながら子供たちに語りかける。

「いま、みなさんは、自分の将来をイメージして、みんなのまえで堂々と話すことができました。みんなから応援もしてもらえて、気分も高まっているでしょう。でもね、人生にはいろんな『ドリームキラー』が現れます」

ドリームキラーとは、自らの意志をくじくもの。自分のなかにある、「どうせ無理」というような思い込み。そして「まだ早いよ」などの他人からのアドバイス。

「私も4年前にこの事業を始めるとき、いろいろなひとに相談して、いろんなことを言われました。でも、いまこうして、みなさんの前にいるんです。自分の思いを言語化して、ひとに伝えることができれば、夢は叶うんです!」

「プレゼン」のテクニック自体は比較的短期間でも身に付けられる。でも、竹内さんが伝えたいのは小手先のテクニックではない。竹内さんが子供たちに伝えたいのは、結局のところ、自分の人生を切り拓いていく力である。

自分の情熱を言語化して他人に伝えることができれば、道は拓ける。そう信じて、小学校から大学まで、教室を奔走し、児童・生徒・学生たちの関心に合わせたテーマでプレゼンの授業を行っている。

学校教育が自己表現をさまたげる面も

竹内さんは、日本興業銀行(現みずほ銀行)を退職後、国内企業の海外事業支援や情報発信支援を行う会社を設立。日本と海外の橋渡し役を務めるなかで、海外の投資家に向かって行われる日本人のプレゼンテーションにもどかしさを感じていた。

「情熱が伝わっていない。なぜ、日本人はプレゼンが下手なのか」

教育に問題があるのではないかと思った。小学校に入ると、最初の1カ月でまず何より、授業をおとなしく聞くことをたたき込まれる。何かを思いついてひとに伝えたくなってうずうずしてしまう子供よりも、何も考えずただ黙ってじーっとしている子供のほうが「いい子」という価値観に染められる。このとき子供たちは、「ここでは自発性は邪魔なのだ」というメッセージを受け取る。

「そこから変えていかなければいけない」

それが、子供たち向けのプレゼン出前授業を始めた竹内さんの使命感だった。しかしドリームキラーが立ちはだかる。

自身、3人めの子供を出産したばかり。「学校は保守的だから、外からの講師なんて歓迎されないよ」「プレゼン力なんて小手先のスキルより、人間は中身が大事でしょ」などといろいろなひとから言われた。でも、竹内さんは自分の思いを言葉にして、ひとに伝え、ひとを巻き込んだ。2014年、一般社団法人「アルバ・エデュ」を設立。正式に事業化した。授業を受けた子供の数はすでにのべ1万3000人を超えている。

エレベータピッチやフューチャーデザインにも挑戦

私立東京農業大学の国際バイオビジネス学科3年生を対象にした授業と、東京都立小石川中等教育学校の4年生(高校1年生)を対象にした授業を見学した。

東京農業大学での授業は、「面接で必要な『アピール力』の鍛え方」というお題目で90分間一本勝負。

まず「モチベーションカーブ」と呼ばれる人生の振り返りを行った。人生の波瀾万丈を折れ線グラフに表してみるのだ。自己紹介を兼ねて、竹内さん自身のモチベーションカーブを黒板に描く。竹内さんの人生にもさまざまな葛藤があったことを知り、特に女子学生は真剣に聞き入っていた。

そしていよいよプレゼンを組み立てる手順へ。「考える」「伝える」「見せる」の3段階でポイントを具体的に押さえていく。途中、発声練習も行う。リラックスして話すための姿勢・準備運動から、声が小さいひとが声帯を鍛えるためのトレーニングまで、その場で行い、身体と気持ちを温める。

一通りの「作法」をインプットしてからは、2~3人のグループになり、「いまの延長で未来の自分を考える」「社会で気になることに挑戦する」というテーマで、学生同士お互いにプレゼンしてみる。

小石川中等教育学校では、2週間にわたって90分間の授業を2回。

プレゼンの組み立て方などは、基本は大学生向けと同じ。さらに「エレベータピッチ」や「フューチャーデザイン」という手法にも挑戦した。

エレベータピッチとは、エレベータの目的階につくまでの数十秒間のうちに、自分のことを相手に印象づけるショートトークのことである。「あのとき運が良かったなと思うこと」などと、「お題」が書かれたカードが配られ、即座にテーマに合ったショートトークをしなければならないゲームを行う。

フューチャーデザインとは、「いま」の時点から「将来」を考えるのではなく、「将来人」になりきって、「現代人」にメッセージを送るという立て付けによる発想法。「2100年の高校生になって、いま身の回りで何が起きているかを話し合ってください」と、グループディスカッションが始まる。

いまを生きる大人のひとりとして、できること

最初は、「少子高齢化」「温暖化」などと、教科書的な話が多かった。しかし次第に「人間は肉体を捨て、電脳社会に暮らすようになった」「宇宙人の宇宙船が爆発し、人類は地底に暮らすようになった」「精神をAIにインストールして、火星に送った」など、ぶっ飛んだ話ができるようになってくる。ある男子生徒のプレゼンには、飄々としたたくましさが感じられた。

「いま、人類にはいろいろな課題が山積みだけど、しょうがない。オレたちはなんとか生きているから、オレは、オマエらのことを責めない! オマエらバカだって知ってるから! あとはまかせとけ!」

最後に、自分の将来とそのために明日からできることを、グループ内でひとりひとり1分間で発表する。発表を聞いた側は、「あなたなら、できる!」のかけ声で応援する。全員のプレゼンが終わった。

そして、冒頭の「でもね……」である。

そのメッセージは、実は、過去の竹内さん自身へのメッセージにほかならない。肩を故障し部活をやめなければいけなかったあのころ、マミートラックにあえいだあのころ……くじけそうになった過去の自分への励ましのことばを、確信をもって子供たちに授ける。「プレゼン」という武器を添えて。

竹内さんほどちゃんとできなくていい。でも、毎日を必死に生きる大人のひとりとして、子供たちのためにできることは、誰にでもあるはずだ。

いまタイムスリップして「20歳の自分」「15歳の自分」「10歳の自分」「5歳の自分」に出会ったら、いちばん伝えたいことは何だろう。それと同じことを、目の前の子供たちに伝えることは、誰にでもできるはずだ。