東大もちゃぶ台返し!? 大混乱の大学入試改革は、結局何をもたらすのか? これまでの経緯を振り返る

イメージ(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

大学入試改革に関連し、東大は9月25日、英語民間試験の成績の提出を実質的に必須としないと発表した。他大学の方針にも大きな影響を与えそうだ。大学入試改革第1期に当たる学年は、すでに高校1年生になっているというのに、改革の落としどころがいまだに見えない。拙著『受験と進学の新常識』(新潮新書)でも触れているが、これは異常事態である。大学入試改革を巡る2013年からの議論を振り返り、いま何がどこまで決まっていて、決まっていないのかを整理する。

いちばん困るのは改革1期生の前の学年

 大学入試改革が2020年度以降に予定されていることは、すでに多くの人が知っているはずだ。ただしその全容はとらえづらく、教育関係者でもない限り、「センター試験がなくなるらしい」「英語は民間業者のテストを使うらしい」などという断片情報を聞いたことがあるだけだろう。

 しかし子をもつ親には切実だ。2002年4月以降生まれの学年から新制度入試を受けることになる。もっと微妙な立場に立たされるのが実はその1つ上の学年だ。現役で大学進学を決めなければ翌年から新制度入試。「ルールががらりと変わる」と言われれば、「現役で勝負を決めておかないと、どうなってしまうかわからない」という不安が湧いてくるのは当然だ。改革の具体的な落としどころが気になる。しかも、「落としどころ」は目指す大学のレベルによっても違ってきそうだ。

 どんな議論が、どこを目指し、どこまで進んでいるのかをおさらいしておこう。

 発端は、2013年10月31日に教育再生実行会議が発表した「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について(第四次提言)」である。高校教育、大学教育、大学入学者選抜のあり方の3つの改革を一体的に実施する提言がなされた。

 知識偏重の1点刻みの大学入試もダメ、事実上学力不問になっている一部の推薦・AO入試もダメ。「大学入学者選抜を、能力・意欲・適性を多面的・総合的に評価・判定するものに転換するとともに、高等学校教育と大学教育の連携を強力に進める」という方向性が打ち出されたのだ。

 個別の大学の入学者選抜においては、以下のような方針が示された。

・各大学のアドミッションポリシーに基づき、能力・意欲・適性や活動歴を多面的・総合的に評価・判定するものに転換する。

・各大学は学力水準の達成度を判定するほかに、 面接、論文、高校の推薦書、生徒が能動的・主体的に取り組んだ多様な活動(生徒会活動、部活動、インターンシップ、ボランティア、海外留学、文化・芸術活動やスポーツ活動等)、大学入学後の学修計画案を評価するなど、多様な方法で入学者を選抜し、これらの丁寧な選抜による入学者割合の大幅な増加を図る。

 さらに「提言」は、現行のセンター試験の弊害を指摘し、代わりに「達成度テスト(基礎レベル)(仮称)」と「同(発展レベル)(仮称)」の2段階の学力テストを行う方向性を示した。「基礎レベル」は高校で学ぶべきことが達成されているか、「発展レベル」は大学で学ぶための素養が達成されているかを測るもの。そして「達成度テストの「年間複数回実施」「1点刻みではなく段階別の結果」のほか、「外部検定試験の活用」「推薦入試やAO入試に達成度テスト(基礎レベル)を活用する」などのビジョンも示された。特に「年間複数回実施」は改革の目玉とされた。

 欧米先進国の大学入試をまねていることは明らかだった。高校3年生になってから問題集や志望大学の過去問を解きまくって身に付ける「付け焼き刃の学力」では太刀打ちできないようにしようということで、たしかに大改革である。そしてこの方向性自体には前向きな評価が多かった。

中高一貫校生にますます有利に!?

 これを引き継いだ中央教育審議会は、2014年12月22日に新しい答申を出し、教育再生実行会議の提言具体化に一歩踏み出した。

 「達成度テスト(基礎レベル)」と「同(発展レベル)」はそれぞれ、「高等学校基礎学力テスト(仮称)」と「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」と呼ばれるようになったが、この時点ではまだいずれのテストも年間複数回実施されるという話だった。センター試験のようなマークシート形式だけでなく、記述式の問題を含めることにも言及があった。

 個別の大学の選抜試験については、「学力評価テスト」の成績に加え、小論文、面接、集団討論、 プレゼンテーション、調査書、活動報告書、入学希望理由書や学修計画書、資格・検定試験などの成績、各種大会等での活動や顕彰の記録などの活用を示唆した。

 このために、高校3年間の学習履歴を記録し大学にインターネット経由で提出するための「e-ポートフォリオ」というシステムがすでに構築されている。各高校はこれを導入せざるを得ない流れだ。ただし、大学側にこれを十分に活用するノウハウや体制があるかどうかは甚だ疑問。システムを導入した高校の教員たちからも「これを一生懸命記入しても、本当に活用されるんでしょうか」との疑問の声が上がっている。

 面白いのは、「大学のレベルによって入試のやり方を最適化しなさい」という趣旨が盛り込まれたことだ。

 スーパーグローバル大学をはじめ、比較的「偏差値の高い大学」では、「主体性・多様性・協働性」や「思考力・判断力・表現力」を含む学力を、高い水準で評価するようにとのこと。

 「中程度の大学」では知識量のみを問う問題になっていることが多いので、「大学入学希望者学力評価テスト」をうまく活用し、その分、個別選抜で「思考力・判断力・表現力」までをも含む力を試すことに注力しなさいと提案している。

 入学志願者が少なくて「入学者選抜が機能しなくなっている大学」では、せめて「高等学校基礎学力テスト」で高校時代の学習成果を測るようにとしている。

 ここまで踏み込んだ答申を見て、「今回ばかりは本気の改革だ」と、教育関係者も評価した。

 このとき、開成や灘のような従来の進学校が凋落する、という噂が広まったが、大きな間違いである。少なくとも東大合格者トップ10に名を連ねるような進学校では、生徒たちの高い基礎学力を前提に、「主体性・多様性・協働性」や「思考力・判断力・表現力」を育む教育が伝統になっており、今回の改革はむしろ有利に働くと多くの専門家は予測した。有名進学校の教員たちも一様に、手ぐすね引いて改革を歓迎した。

 特に基礎学力の仕上がりが早い中高一貫校の生徒は、複数回行われる「基礎学力テスト」や「学力評価テスト」において早い段階で最高レベルの成績を収め、個別の大学の入試対策に専念することで、さらに有利になることが予見された。私立中高一貫校の入試広報担当者も「これはチャンス」とにらんだ。

結局、それほど変わらない

 ところが、さらに具体的な実施方法を検討する段階になると、改革は急にトーンダウンした。特に公立高校の教員から「複数回実施」への反対意見が相次いだ。現在のセンター試験より前倒しの日程で試験が実施されれば、学校での指導が間に合わなくなるというのだ。結果、2016年3月31日に発表された「最終報告」では次のように表明されている。

・「高等学校基礎学力テスト」は2019年度から試行実施するが、本格実施は次期学習指導要領への移行時期を鑑み、2023年度以降とする。

・「大学入学希望者学力評価テスト」の複数回実施はいったん見送り、引き続き検討する。

 2015年12月22日に文部科学省の専門家会議が「大学入学希望者学力評価テスト」の「記述式問題イメージ例【たたき台】」を公表すると、「どうやって採点するのか?」が論点になった。記述式問題は採点基準に幅ができやすいうえ、50万人を超える答案を短期間でどうやって採点するのかということだ。

 マークシート方式よりも先に記述式の試験を行う案が検討されたが、実施時期が前倒しされれば高校の指導カリキュラムに影響が出る。記述式は各大学が採点するという案も検討されたが、日本私立大学団体連合会は「入試準備などと並行して新テストの採点をするのは実質的に不可能」との意見書を出した。

 これらの議論を踏まえ、文部科学省は2017年7月13日に「高大接続改革の実施方針等の策定について」を発表した。

 要するに、「センター試験の代わりに『大学入学共通テスト』が実施される。 その国語と数学については、記述式問題を導入する。記述式問題の採点に関しては、大学入試センターが民間の業者に委託して行う。個別の大学入試では、小論文・面接・集団討論・プレゼンテーションなども実施される。英語においては外部検定試験も導入する」というあたりが、現在のところの既定路線だ。

 つまり、それほど変わらない。

 文部科学省の担当者が悪いわけではないだろう。もともと広げられた大風呂敷が、どだい無理筋だったのだ。「それでは教科書の履修範囲を終えられない」という声が現場から上がるのは、日本の大学入試が学習指導要領と検定教科書にがんじがらめにされている以上、しかたがないことだ。入試問題と学習指導要領と検定教科書が三つ巴になっている限り、高校の授業の進度と内容に入試が縛られるのは宿命である。

 アメリカの大学を受験するときに必要になる標準学力テストSATは、年複数回実施されている。学習指導要領も検定教科書もないので、高校の授業の進度はバラバラという大前提。SATで早くいいスコアを取りたければ、自分で勉強しなさいということだ。

 学習指導要領と検定教科書を入試から切り離す。そこまで腹をくくらなければ、年複数回実施などできるわけがない。そうでもしなければ、学習指導要領に定められた検定教科書の内容を「試験範囲」とする「教科書絶対主義」「知識偏重型教育」からいつまでたっても離れられない。そこまでやるつもりなのかと、2013年当初は期待したが、そうはならなかった。現実的には非常に難しいことはわかっていたが、それでも一縷の望みが消えたときにはがっかりした。

 念のため付け加えるが、学習指導要領や検定教科書の内容が悪いといっているわけではない。その影響が強すぎることが大学入試改革のネックになっているという指摘だ。

優秀な受験生には「ファストパス」が用意される

 個別の大学の入学者選抜についても触れておこう。

 具体的な議論はまだあまり聞こえてこない。ただし、文部科学省の方針を受けて国立大学協会は、将来的に入学定員の3割をAO・推薦入試等にあてるという目標を掲げている。また、文部科学省はAO入試においても「大学入学共通テスト」またはそれに準ずる学力評価の実施を必須にすると発表している。ちなみに、2020年度以降、「一般入試」は「一般選抜」に、「AO入試」は「総合型選抜」に、「推薦入試」は「学校推薦型選抜」に名称が変更される予定。

 2016年に東大と京大が戦後初となる推薦入試を実施したのには、他大学でも入試で小論文・面接・集団討論・プレゼンテーションなどを実施することへの先鞭をつける意味合いが多分にある。現在は各大学100人の枠だが、今後はこれを拡大する方針だ。

 東大の推薦入試で理学部に合格した都内男子校出身者に聞いた。東大推薦入試の枠は「各高校から男女1名ずつ」と決められ、男子校からは1名のみの枠だ。

 「高3の夏に化学グランプリ日本大会で銀賞に輝いたことが評価されました。1次選考は、志望理由、大学卒業後の将来像、そのほかのアピールという3種類の書類審査だったので、学校の国語の先生に何度も相談して作成しました。2次選考は普通の面接で、まず志望理由を説明し、約20分間の口頭試問が行われました。提出書類の記述に関して、理学的な視点からの疑問が投げかけられ、その場で回答しなければいけません。いくつか答えられない質問もありましたが、一生懸命答えようとする姿勢を見せて乗り切り、不安でしたが、合格しました」

 20分程度の口頭試問で東大入試が終わる。あっさりしている印象だが、高校の調査書や学校以外での実績、3種類の論文提出で、学力の高さは保証されている。本人も「一般入試で受けても合格したと思う」と自信をもっていた。優秀な受験生に、無駄な受験対策をさせなくてすんだわけだ。

 付け焼き刃ではない学力を高いレベルで身につけてきた高校生には、今後ますますこうした「ファストパス(入場優先券)」と多様な選択肢が用意されることになるだろう。

 私大にもようやく動きが見え始めた。2018年6月、早稲田大学は2021年の入試から、入試のあり方を改革することを明言した。特に看板学部の政治経済学部では、出題科目を全面的に見直す。これまで大学独自問題による3科目受験が可能だったが、2021年以降は全受験生に大学入学共通テストの英数国+選択科目の4科目を課し、さらに独自入試も行う。独自入試は、教科の枠を超えた合科型の形式をとるとのこと。英語の民間資格・検定試験も全員に課す。

 これまで私大と国公立大は、入試科目数で差別化がなされていたが、その垣根が今後あいまいになる可能性がある。

センター試験を変える意味はあるのか?

 2017年12月、大学入学共通テストの試行テストが公開された。特に記述式が出題された数学と国語に注目が集まった。

 地方の公立進学校の教員に評価を聞くと、「今回はかなり頑張ってつくった良問だと思う」「たとえば数学は、単なる計算力では太刀打ちできないようになっている」と、概ね好評だった。ただし「問題のレベルが、一部の上位層にはちょうどいいが、それ以外の高校生には難しすぎるのではないか」という声も聞いた。

 実際、国語の記述式問題では完全正答率が0.7%の問題があり、数学でも全3問の正答率が1割未満だった。2018年6~7月に朝日新聞と河合塾が共同で755大学を対象に行った「ひらく 日本の大学」という調査によると、名古屋大や法政大、近畿大など10%の大学が「難しい」と答え、「やや難しい」という大学も43%もあった。同10月4日の朝日新聞によると、日本女子体育大の入試担当者は「このままの難易度では(正答率が低すぎて)差が付かないのではないか」とコメントしている。

 関西の私立中高一貫校の校長も「うちの生徒にはいいが、一般論としたら難しすぎるのではないか」と懸念を示した。さらに国語の問題については「あれが国語の読解力なんですかね」とも。思想の練り込まれた長文を立体的に読む力というよりは、雑多な文字情報の中から必要な情報だけをパッとすくい取る能力を試すような問題が目立ったからだ。

 お茶の水女子大学は「国語の記述式問題では、どのような能力をどのような精度で測れるのか、課題が多いのではないか」と指摘した(2018年10月4日朝日新聞より)。

 試行テストと従来のセンター試験を比べたとき、見た目上のいちばんの違いは、問題文や課題文の体裁である。従来のテストであればほんの数行で終わっていたはずの問題文が、何行にもおよぶ会話文になっていたりする。日常生活や実社会を意識させるために、会話文や図表などを多用し、ストレートに問いを投げかけてはこないのである。その手法は、公立中高一貫校の適性検査にそっくりだ。

 まわりくどい問題文をわざわざ読ませることには課題発見能力も測るという意図があるのだとは思うが、問題文が長く婉曲的になればなるほど、文章を速く正確に読み取るのが得意な受験生に有利になる。要するに読解力あるいは速読力の勝負になり、教科そのものの能力が見えづらくなる。たとえば驚異的な数学センスをもっている受験生でも、読解でつまずいてしまうかもしれない。それは教科のテストとしてはいかがなものか。テストの体裁を変えることを目的化して、本来測るべき能力が正確に測れなくなるようなことのないように、今後の調整を行ってほしい。

 ある進学校の校長はこんなことも懸念していた。「記述式の採点は専門の業者が行うというが、いくら専門の業者でも、50万人分の答案を採点できるほど専門の職員がいるとは思えない。実際は大量のアルバイトに採点させることになるのではないか」。結局は素人に機械的に採点させるのなら、記述式問題を出す意味があるのかという、もっともな疑問だ。

 2018年10月4日の朝日新聞によれば、「採点基準を厳密にしても、採点者によって偏りがでる可能性は否定できないと思う」など懐疑的な意見が大学側からあり、全体の53%の大学が「採点の公平性に疑問」の声を上げている。試行テストでは、受験生の自己採点と入試センターの採点結果が一致しない例も多く、80%の大学がこれを問題視した。

 また「日本テスト学会」は試行テストに見られた「5つの選択肢の中から適当なものをすべて選べ」というような多肢選択問題について、実際は選択肢ごとにそれが適切か否かの二者択一をしているにすぎず、「より深い思考力」を求めていることにはならないと指摘する。さらに「テスト理論」の観点から、5問正答のみを正答とし4問以下の正答は0問正解と同じとみなしてしまうことについて、「貴重な個人差情報を捨てる」と批判的な声明を出している。

 以上を総合すると「だったら記述式問題も多肢選択問題もなしにして、現行のセンター試験のままでいいじゃないか」という結論になりかねない。

 報道によると、テスト理論の専門家がすでに再三にわたって問題点を指摘したにもかかわらず、軌道修正がされないまま今回の試行テストが実施されたとのこと。だとすると、今回の試行テストは「見せ球」の可能性が高い。このままではGOできないとわかっているが、一見していままでとは明らかに違う案を見せておく。そのうえで、公に批判を浴びる中で現実的な案に収斂していくのが文部科学省の作戦なのかもしれない。無理筋な改革を押しつけられたときに官僚がとるべきプロセスとしては間違ってはいない。ただしそれは、最終的な着地点が現行のセンター試験を「お色直し」した程度のものになることを見越しているからこその作戦だと言えなくもない。

東大が英語民間試験を実質不採用

 数学や国語から遅れることおよそ3カ月、大学入学共通テストの英語の試行テストが実施され、公開された。これまたいままでのセンター試験とはだいぶ装いが違う出題方式が目立った。しかしそれと前後して、ちゃぶ台返しのような衝撃が、大学入試改革関係者を直撃する。2018年3月10日、東大が、英語の民間検定試験を合否判定に利用しない可能性を表明したのだ。

 冷めた空気が流れる中、2018年3月26日には大学入学共通テストの英語で活用される4技能を測る民間試験として、英検(新型)、ケンブリッジ英語検定、GTEC、IELTS、TEAP、TEAP CBT、TOEFL iBT、TOEICの8種が合格したことが発表された。ちなみに従来型の英検が不合格とされたのは、1次試験・2次試験とわかれており、「1度の試験で4技能のすべてを評価する」という要件を満たしていないからだ。

 2018年4月3日の「東京大学新聞」では、東大の阿部公彦准教授が英語の民間検定試験導入だけでなく大学入試における4技能評価重視の風潮そのものを一般論として批判している。

 「共通テストのプレテストでも民間試験と同様、遊園地の混雑度をウェブサイトで調べる問題など、日常生活の具体的な状況が題材の問題が多く見られた。しかし『これでは英語力ではなく情報処理の問題だ』」というのだ。

 先述、関西の私立中高一貫校の校長が、国語のプレテストを「あれが国語の読解力なんですかね」と疑問を呈したのと同じ視点である。

 このタイミングで民間検定試験導入に対するネガティブな姿勢を東大が表明したことからは、「いまさら大学入試改革の既定路線をひっくり返すことは難しい。しかしこのままではまずい。自らがいち早く態度を表明することで、他大学の方針に少しでも影響が与えられれば」という思いが感じられる。

 2018年7月12日、東京大学のワーキンググループは「出願にあたって(英語の)認定試験の成績提出を求めない」を第一優先順位の選択肢とする答申を発表した。同8月10日に朝日新聞がまとめた調査では、英語の民間試験について、82の国立大学のうち37大学が「活用するか未定」と回答。具体的な方針を示しているのは13大学にとどまった。

 9月25日、東大はついに、英語民間試験の成績提出を実質的に必須としないとの結論を出した。英語民間試験活用に対して方針を保留していた多数の国立大学の今後の判断に大きな影響を与えることは間違いない。大学入試改革の風向きが、ここに来てさらに大きく変わった。

 前出「ひらく 日本の大学」によると、英語の民間試験の活用については46%の大学が「問題がある」と回答した。同じ調査では、共通テストについて「利用したい」が69%だった。前年の同調査の88%から19ポイントもの下落だ。試行テストの問題を見ての翻意だと考えられる。

 10月11日には朝日新聞に、東大副学長の石井洋二郎氏のコメントが掲載された。

 「今回の改革で一番問題なのは、途中から目的と手段が逆転してしまったことだと思います。これからの時代を生きるために英語のコミュニケーション能力が必要であることは明らかですし、WGの答申もその目的自体を否定してはいません。ただ、本来はまず高校教育で基礎力を養い、その成果を問うために大学入試があるはずなのに、入試を変えることで高校教育を変えようとする発想で議論が進んできた。これは逆立ちした考え方です。民間試験はあくまで手段のひとつでしかないのに、スピーキングが含まれているというだけで、これを活用することがいつのまにか目的化してしまった。これでは高校の授業が民間試験対策に走ってしまい、教育がゆがめられてしまう恐れがあります。本末転倒の議論が続いているうちに、何のための入試改革か、忘れられていたのではないでしょうか」

 英語だけではなく、今回の大学入試改革そのものの話の進め方を批判しているようにも読める。いや、そうとしか読めない。

先行き不透明な時代のための先行き不透明な入試改革

 改革によって得られるものと、生じる混乱のどちらが大きいか。

 難関国立大学の2次試験にはもともと数百字におよぶ記述式が多く、そのような大学を志望する受験生たちにとっては、大学入学者共通テストに80字程度の記述問題が導入されたとしてもそのための対策に余計な時間を取られる心配はほとんどない。要するに、学力上位層にはこの改革はほとんど影響がない。混乱に巻き込まれる可能性があるのは学力中間層以下の受験生たちである。

 新テストの実施までもう時間がない。早めに混乱を回避する十分な策がとられなければ、新テストを回避しようとする思惑が、受験生の志望校選びに影響を与えかねない。新テストを回避して、結局従来通りの入試を続ける大学に人気が集まるなどという最悪のシナリオもあり得る。

 混乱ばかりをまき散らし「結局のところ、50万人分の記述式解答を採点する業者と4技能型の英語の資格検定試験を実施する業者と『e-ポートフォリオ』を学校に提供する業者が儲かるだけの改革になってしまった」なんてことにならないようにしてほしい。実際、高校の現場からは、「結局某民間教育企業にすべてを牛耳られている。『それでいいのか?』という疑念はあるが、生徒に不利益があってはいけないので、いまは彼らの言いなりになるしかないのが悔しい」との声を多数聞く。

 いまだ先行き不透明な大学入試改革であるが、こうなったらもう、これも先行き不透明な時代を生きるための実戦訓練だと思うしかない。この状況をどう乗り切るか、その姿勢こそが問われているわけである。

 先行き不透明な世の中では、未来予測も損得勘定もあてにはできない。1つ確実なことは、変化の激しい時代を生き抜くためには、たとえ逆風の中でも、自分の目指す方向を指し示し続ける強さが求められるようになるということだ。自分の中にぶれない軸をもっておかないと、世の中の風向きが変わるたびに右往左往することになる。それでは人生、おぼつかない。

 自分がどんな人間で、何のために何を成したいのかを問い続け、そのために必要なことを誠実に学んでおけば、結果的に大学入試改革以降の大学受験でも困ることはないだろう。時代はそのような人間を求めており、そのために大学入試改革が議論されているのだから。