Yahoo!ニュース

実は王道、A.B.C-Zはジャニーズの歴史を伝えるメッセンジャー

太田省一社会学者
(写真:アフロ)

 ジャニーズの5人組グループ「A.B.C-Z」のメンバー、河合郁人が「ジャニーズ物まね」でブレーク中だ。河合郁人に加えて『アウト×デラックス』で活躍する塚田僚一など、バラエティでも活躍するメンバーがおり、一見色物にも思えるA.B.C-Zだが、むしろ彼らはジャニーズの王道中の王道を行く存在である。そんな彼らの魅力をあらためてその軌跡とともに紐解く。

ジャニーズをまねるジャニーズ、河合郁人のブレーク

 ジャニーズグループのひとつ、A.B.C-Z。そのメンバー・河合郁人がいま、バラエティ番組でブレーク中だ。

 きっかけは、マニアックなジャニーズ物まね。「『仮面舞踏会』で立ち位置を移動するときの少年隊 錦織一清」「嵐 松本潤のクセ強めの踊り方」「『シンデレラガール』の時のKing & Prince 岸優太のフリーダンス」など、新旧各世代のジャニーズアイドルたちのダンスや仕草のちょっとした細かいクセをまねて評判に。『ものまねグランプリ』(日本テレビ系)にも出演し、プロの芸人に交じって準優勝という快挙を成し遂げた。

 これまでもジャニーズの物まねをするお笑い芸人はいたが、河合郁人の場合はやはり本人がジャニーズの現役というところがポイントだ。ダンスひとつとってもやはりキレが違うし、ジャニーズJr.時代からステージやプライベートで身近に接している相手なので目の付け所もユニーク。身内のことをそこまでネタにしていいの? というハラハラ感もある一方で、本人のジャニーズ愛の強さが伝わってきて安心感がある。

 A.B.C-Zのメンバーでは、一足早く塚ちゃんこと塚田僚一も『アウト×デラックス』(フジテレビ系)などバラエティ番組の常連として活躍中だ。彼の場合は明るい天然キャラクターの魅力もあったが、まずバク転がきっかけだった。小学校から体操をやっていたという抜群の身体能力を生かし、コンサートのステージ上で連続30回のバク転記録に成功するなどして話題になった。

実はジャニーズの王道を行くA.B.C-Z

 これだけ書くと、A.B.C-Zは飛び道具を駆使する“色物”と思われそうだが、実はそうではない。

 A.B.C-Zの結成は、2008年。ジャニーズJr.のユニットとしてA.B.C.というユニットがすでにあり、そのメンバーだった五関晃一、戸塚祥太、塚田僚一、河合郁人の4人に新たに橋本良亮が加わって“完結、そこからの再出発”の意味で「-Z」が付いた。「A.B.C」の部分は「Acrobat Boys Club」の頭文字で、塚田に限らず全員がバク転などアクロバットを得意としていたことに由来する。

 そもそも、バク転はジャニーズの伝統技のひとつだ。古くはフォーリーブスの北公次、さらにその後の少年隊などを経ていまも「ジャニーズらしさ」の象徴になっている。ジャニーズの発端が少年野球チームだったのは知る人ぞ知るところだが、ほかにもローラースケートなどスポーツ感覚はジャニーズエンタメの欠かせない要素だ。その点、A.B.C-Zはまさにジャニーズの歴史を正当に受け継いでいる。

 ダンスを含め、そうしたパフォーマンス力の高さを生かして、A.B.C.時代から彼らは『SHOCK』シリーズ、『PLAYZONE』、『滝沢歌舞伎』などジャニーズの代表的演目の数々に出演、そして2010年にはKis-My-Ft2とともに『少年たち 格子なき牢獄』で主演を務めるに至る。

 この『少年たち』は、作者でもあるジャニーズ事務所の創設者・ジャニー喜多川の思いが詰まったジャニーズを象徴するオリジナルミュージカルである。1969年にフォーリーブスによって初演。その後一時上演されなくなっていたが、2010年代にジャニーズJr.を主体に復活した。その大役を担ったグループのひとつがA.B.C-Zだったわけである。

 こうした経歴を見ても、A.B.C-Zは決して異端ではなくジャニーズの王道を守るグループである。2012年に「Za ABC~5stars~」でジャニーズとしては初のDVDデビューとなったのもそこだけ見れば異色だが、舞台中心に展開されてきたジャニーズの歴史を踏まえるなら、むしろA.B.C-Zというグループの王道的立ち位置を物語るものだろう。

ジャニーズの歴史のメッセンジャーとして

 さらに2012年から始まった座長公演『ABC座』では、「ジャニーズ伝説」というタイトルのもと、2013年を皮切りにジャニーズの歴史を演じるようになった。A.B.C-Zのメンバーが、実際のエピソードを交えながらジャニー喜多川や初代ジャニーズのメンバー役を演じ、さらに歴代のジャニーズナンバーを歌い踊る。

 同舞台では、A.B.C-Zのメンバーが自らの歴史をパフォーマンスにして表現するという趣向もある。たとえば、2014年の「ジャニーズ伝説」では、橋本良亮がまだデビューが決まらず葛藤していた時期の思いを表現した歌とダンス、戸塚祥太が尊敬する錦織一清へのオマージュを込めつつ自身のヒストリーを語る長ゼリフの披露、河合郁人が自らのジャニーズJr.時代を振り返りつつジャニーズグループの名などを織り込んだ自作詞曲の披露、五関晃一が定評のあるダンススキルを生かし、かつて憧れていたダンスパフォーマンスの披露、そして塚田僚一が自身の初舞台だった『SHOCK』の1シーンの再現といったように、それぞれのソロコーナーがあった。

 こうした実績を積み重ねるなかで、いまや彼らはジャニーズ史の語り部的ポジションを確立しつつある。彼らの冠番組『ABChanZOO(えびチャンズー)』(テレビ東京系)でも、しばしば親交のあるジャニーズタレントやジャニーズJr.がゲストに登場して彼らとA.B.C-Zにまつわる知られざるエピソードが披露される。

 メジャーデビューまでに時間がかかったことから苦労人であることが強調されたりもするが、その点を逆に強みにしているのが現在のA.B.C-Zだ。「ジャニーズ」という存在がここまで世間に浸透したいま、彼らはジャニーズの歴史や文化、空気感を私たちに伝えてくれる得難いメッセンジャーになっている。河合郁人の物まねにも、ただ面白いだけではないそういう一面があるだろう。彼らを見ればジャニーズがわかる。そんな唯一無二の存在感を発揮しているグループ、それがA.B.C-Zである。

社会学者

社会学者、文筆家。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本社会の関係が研究および著述のメインテーマ。それを踏まえ、現在はテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、歌番組、ドラマなどについて執筆活動を続けている。著書として、『水谷豊論』(青土社)、『すべてはタモリ、たけし、さんまから始まった』(ちくま新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『テレビ社会ニッポン』(せりか書房)、『SMAPと平成ニッポン』(光文社新書)、『中居正広という生き方』『木村拓哉という生き方』(いずれも青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩書房)などがある。

太田省一の最近の記事