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好きじゃない親が倒れ「娘なんだから同居して介護」と親戚から言われた40代女性の意外な行動

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
イメージ写真(写真:アフロ)

「育ててもらった恩があるでしょ。親の介護をするのは当たり前」という言葉を突き付けられることがあります。全否定するつもりはありませんが、親子の関係性は100組いれば100通り。何らかの事情で、親の介護に前向きになれないケースもあります。

叔父からの同居催促電話

 キミコさん(40代)の実家では父親が亡くなった後、母親(80代)が1人暮らしをしていました。

 その母に心身の衰えが……。実家の近所で暮らす母親の弟に当たる叔父から、「戻ってくるか、東京に引き取れ。同居して世話をするのは、子の役割だ」と幾度となく、電話がかかってきました。

 けれども、キミコさんは、行動に移す気持ちになれなかったのです。キミコさんはシングルなので、叔父から見ると、身軽に思えるのかもしれませんが、実家に戻るにしろ、呼び寄せるにしろ簡単ではありません。

母親とは距離を置いてきた

「実は、私は母とはうまくいっていないんです。相性が悪いのか、私が悪いのかわかりませんが。子どもの頃から、母は、私のすることにいちいちケチをつけ否定ばかりしていました。そのわりに、干渉してくる。叔父からの度々の電話も、母親がさせているのだと思います」。

 子どもの頃は、母娘関係に疑問を持つことはなかったと言います。しかし、学生の頃、仲良くしていた友人の家に度々遊びに行くようになり、そこで見た「母娘関係」は新鮮でした。「子のすることや夢を、否定しないで、応援してくれる母親もいるんですね」。

 実家を出てからは、両親とは距離を置くようになりました。帰省するのは、年に1回だけ。「父のことは好きだったので、最期、倒れて入院してからは頻繁に病院に行き世話をしました。父から亡くなる少し前に、『おかあさんのことを頼む』と言われたので、迷いがないわけではありません。でも、父の死後、税金や相続などの手続きを手伝っていたときも、相変わらず、母は私のことを邪険にするんですよ。うまく表現できませんけど。母が立派で、私はその逆っていうのか……。母と会うたび、心が傷つくんです」。

自分を大切にする決断

 キミコさんは、とても悩みました。「叔父から電話がくるたび、頭のなかがグルグルとまわっていました。母が生きるのは、せいぜいあと10年くらいでしょ。その間、私さえ我慢すれば、丸く収まるのかもとも思いました。頑張るしかないかなって。母に対して、育ててもらった恩がないわけではない」。

 けれども、そう考え、自分自身を奮い立てるのですが、結局は憂鬱な気持ちに逆戻り……。

 そんなとき、キミコさんは筆者の著作に出合ったと言います(筆者は、無理して同居しなくてもできることはある、という考えです)。「本を読み、『同居しなくてもいいんだ』と、気持ちがパッと明るくなりました」。

「親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと」(太田差惠子,翔泳社,P119)
「親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと」(太田差惠子,翔泳社,P119)

地域包括支援センターで相談

 そのあとのキミコさんの行動は迅速でした。実家の市の役所に電話して、「地域包括支援センター」(介護の相談窓口)の所在地を聞きました。

 そして、有給を取って出かけ、主に次の2点について相談しました。

・母親は独居で心身の衰えが始まっている。

・自分は一人娘だが、母親とはうまくいっておらず、向き合うことが難しい。親戚から同居しろと言われているが避けたい。

 キミコさんの相談に対し、職員からは3つの提案がありました。

・介護保険を申請して、サービスを入れる。

・ときどき、地域の民生委員に安否確認のために訪問してもらう。

・緊急時に備えて「ペンダント型の通報装置」を採り入れる。

 しかも、介護保険の申請については、センターの職員が実家を訪問し、母親と会ったうえでサポートしてくれるというのです。

叔父には「同居しません!」

 キミコさんは、「同居して介護はできない」というと、地域包括支援センターの職員から非難されるだろうと覚悟していたそうです。けれども、驚くことに「仕事を辞めて、戻ってきて介護することはお勧めしません」と職員。

 キミコさんは、地域包括支援センターでパワーをもらい、その足で、叔父の家に向かいました。常日頃のお礼を言ったうえで、「同居はしません。その代わり、介護保険のサービスを利用できるように、地域包括支援センターに相談に行ってきました」と伝えることができました。

「ちょっと声は震えましたが、しっかり言えました。叔父は私の勢いに、面食らっているようでした」とキミコさんは微笑みます。

揺らがない

 その後、地域包括支援センターの職員が実家を訪問してくれて、母親は、サービスを利用できるようになりました。最初は渋っていた母親も、センターの職員から促され、週に1回のホームヘルプサービスとデイサービスを利用しているそうです。

「先のことはわかりませんが、『同居しない』『サービスを利用する』『困ったときには専門家に頼る』ということを、自分なりに整理でき、とても気持ちがラクになりました」とキミコさん。「今後、母親に何かあったら、地域包括から連絡がくることになっています。私は前面に出ないで、影から母を支えます。それなら、私にもできそうです」。

 母親の状況次第ではキミコさんは、また、悩むこともあるでしょう。場合によっては、後方支援だけでは済まなくなることもあるかもしれません。けれども、自分軸が定まっているので、大きく揺さぶられることはないのではないでしょうか。叔父からの「同居催促電話」もかかってこなくなったそうです。

「冷たい娘(息子)」と言いたい人には言わせておこう

 親の介護で悩んだら、「自分にできることはどこまで?」と自問自答してみましょう。キャパオーバーになると、親の介護どころか、自分自身の生活や心身の健康にも影響が生じます。もしかすると、「冷たい娘(息子)」と非難してくる人もいるかもしれませんが、放っておけばいいと思います。

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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