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「遠距離介護」を実現させるには? そのメリットとデメリット

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
(写真:アフロ)

 年末年始に、久しぶりに親と会ったり、電話で話したりして、「歳取ったなあ」とか、「衰えたな。そろそろ介護が必要?」と心配を胸に抱えている人も多いのではないでしょうか。なかには、「私(僕)が看てあげなければ」と使命感に駆られ、子が実家に戻る「Uターン」や、親に子の家に来てもらう「呼び寄せ」のシミュレーションを始めた人もいるかもしれません。

 でも、別居のままで実家の親の介護を行う「遠距離介護」という方法もあります。

親のほうが同居を望まない場合も?

 意外かもしれませんが、親のほうが子との同居を望まないこともあります。この現場を30年近く取材していると、「『こっちにおいでよ』と提案したが、親から断られた」というかなりの数の人と出会っています。住み慣れた土地を離れると、方言や食事の味も異なり、友人とも離れなければなりません。

 国の調査結果にもあらわれています。「もし仮に、あなたが、介護や支援が必要な状態になったらどこで生活したいか」と1人暮らし高齢者に問うているのですが……。軽度のときは自宅、重度になれば施設との希望が多く、子の家というのはどの段階でも1割未満です(「平成26年度 一人暮らし高齢者に関する意識調査結果」,内閣府)。

平成26年度 一人暮らし高齢者に関する意識調査結果,内閣府
平成26年度 一人暮らし高齢者に関する意識調査結果,内閣府

遠距離介護を選択した2人のケース

 実際に「遠距離介護」を選択した2人のケースを紹介します。

ケイコさんのケース:「広島を離れるつもりはない」と頑ななため、通いがスタート

 ケイコさん(40代、東京)の母親(70代、広島)は、父親が病気で亡くなって以来1人暮らしです。3年前、母親は骨折を機に、介護保険の認定を受け、「要介護1」に。ケイコさんは、東京に来るように言いましたが、母親は「お父さんとの思い出のあるこの家を離れるつもりはない」と頑なでした。

 そして、ケイコさんは仕方なく月に1回、週末を利用して帰省するようになりました。「食事の用意はヘルパーさんに手伝ってもらい、入浴はデイサービスの広いお風呂で入れてもらっているので、私が帰省してもたいしたことをするわけではありません。病院に付き添ったり、ケアマネさんと話したり。それに、衣替えを手伝ったり……」。

 でも、顔を見るとほっとし、母親も笑顔に。「年老いた親を放置しているような罪悪感がないわけではありません。でも、ご近所の方が気にかけて立ち寄ってくださるし。東京に来ても、母の知り合いはいなくて、私は仕事があるし。いまは、これで良かったと思っています」とケイコさん。

 1回の帰省にかかる交通費は約4万円。母親と相談して父親の残したお金でやりくりしているそうです。「そうじゃなければ、毎月は帰れません」。

カズヤさんのケース:折り合いの悪い父親が1人暮らし。「同居」は選択肢になかった

 カズヤさん(50代、千葉)の父親(80代、長崎)は実家で1人暮らしです。「父とは色々あって、うまくいっておらず、帰省するのは2年に1回くらいでした」。3年ほど前、その父親が病で倒れました。カズヤさんは1人っ子なので、病院からの呼び出しで、駆けつけました。「退院後も同居は考えませんでした。100%うまくいきません。でも、看取りまでは僕の役割かなと思っています」。

 退院が決まった段階で、地域包括支援センター(高齢者の総合相談窓口)に行ったそうです。そして、父親の生活を相談したところ、介護保険を申請し、介護サービスを入れることを提案されました。「ヘルパーが週に2回父のところに行ってくれるようになり、助かりました。父に何かあったら、必ず、僕のところに連絡が入りますから」。

 ケアマネジャー(介護の専門家)から、父親のサービスのことや医療のことで時々連絡が来るそうです。電話ではらちが明かない場合はできるだけ帰省するようにしているとか。「年に2回くらいかな。仕事だって、トラブルが生じた際、取引先が動いてくれないと困るでしょ。日々、お願いする代わりに、どうしてものときには動くようにしているんです」とカズヤさんは冷静に話します。

写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

遠距離介護のやり方は人それぞれ

 ケイコさんもカズヤさんも、遠距離介護を選んだというよりは、消去法での現状維持。結果として“遠距離介護”となったという具合です。実は、こうしたケースが少なくありません。現状維持の直線上にある介護方法なので、やり方は人それぞれ。新幹線や飛行機で頻繁に帰省する人もいれば、ほとんど帰らない人も。電話の頻度も、毎日のようにかける人がいる一方、カズヤさんは「父は耳も悪いし、めったにかけない」と言っていました。

 共通しているのは、親のことを気にかけて、行政につなぎ、サービスにより親の生活が滞らないよう整えていること。

遠距離介護のメリット・デメリット

 こうして遠距離介護が始まると、Uターンや呼び寄せと同じく、そこには「メリット・デメリット」が。具体的にあげてみましょう。

メリット

1.親子それぞれ住み慣れたところに暮らせる

2.仕事や日々の生活を維持できる

3.時々しか会えないので互いにやさしくできる(けんかになりにくい)

4.高齢者だけの世帯ということで、利用できるサービスの幅は同居より広い

5.特別養護老人ホームに、入居しやすい

 1と2に関しては、想像がつくと思います。

 3に関しては、頻繁には会えないせいか、「親(子)に対してやさしくなれる」という声を、親子双方からよく聞きます。一方で、カズヤさんのように、もともと折り合いの悪い親とでも、「最低限の交流」でやっていける面もあります。

 4はサービスの使いやすさです。各自治体では介護保険以外にも、さまざまなサービスを用意しています。メニューは自治体によって異なりますが、ケイコさんの母親は“緊急通報システム”を利用。心身の具合が急に悪くなった時に、ペンダント型のボタンを押すだけで通報できるというもの。自治体が提供する配食サービスも使っています。いずれも民間にもありますが、自治体経由だと割安です。これらの公的サービスは、子どもが同居していると使えない自治体が少なくありません。

 介護保険で利用するホームヘルプサービスも、同別居が影響します。“生活援助”と“身体介護”があるのですが、前者の調理、洗濯、掃除などの家事援助的なサービスは、子どもと同居していると利用不可となる自治体が大半です。カズヤさんの父親も、1人暮らしなので、ヘルパーに調理や洗濯をお願いできているようです。

 そして、あまり知られていませんが、5も大きなメリットといえるでしょう。

 公的な施設の代表格であり、費用が安く人気の特別養護老人ホーム(特養)への入居は、申込順ではなく、必要度合いの高い人が優先されます。遠距離介護では、すぐそばに介護を行える家族がいないため、入居の優先度合いは高くなる傾向があります。

 では、遠距離介護のデメリットはというと……。

デメリット

1.地図上の距離があるので、いざという時が心配

2.会うためには、時間、体力、お金(交通費)が必要

3.在宅で過ごせる限界がある

4.周囲から「冷たい子」と見られることがある

 1、2はメリットの裏返しと言えます。様子が見えないから「心配」が募っていきがち。それに、会うためには、時間・体力・お金が必要となります。親の状態が落ち着いている時はいいのですが、度々入院となれば、帰省頻度を上げざるをえなくなります。例えばその時、仕事の繁忙期や自分の子の受験期に当たると、時間のやりくりが相当苦しくなります(コロナ禍では、逆に帰省したいのに「帰省できない」となり、心配が募ります)。

 3は在宅の限界です。介護する家族がいないと、1人でトイレに行けないとか、火の始末が危ういとかになると、希望していなくても施設を選ばざるをえなくなることも(入居後は、施設へ顔を見に行く遠距離介護が継続)。

 さらに、日本では、「同居する方がやさしい」というイメージがあるのか、遠距離に住み続けると「冷たい子」と見られがちです。親戚などから「いつまで親を放置しているんだ」と怒鳴られた経験者は少なくありません(他人だけでなく、親本人が「子どもから見捨てられた」と近所の人に話して歩くようなケースも)。

 また、子自身が「自分は冷たい子だ」と自責の念を抱えることも。けれども、その結果、「会った時にやさしくなる」というメリットにつながるケースもあり、これについても表裏一体と言えるのかもしれません。

写真:Paylessimages/イメージマート

成功の秘訣は“情報収集力”と“コミュニケーション力”

 遠距離介護では、親のできないこと、困っていることはサービスで補うことになります。そのために必要なのは、“情報収集力”です。どこに、どんなサービスがあるのかを知る必要があります。

 介護保険のサービスや自治体が行うサービスの情報については、カズヤさんも訪れた「地域包括支援センター」で教えてくれます。高齢者の総合相談窓口的な存在で、中学校区に1か所程度設置されています。住んでいる地域ごとに管轄のセンターが決まっており、役所に問い合わせれば所在地を教えてくれます。

 あとは、地元の人の口コミや、ネット検索も効果的。

 ところが、ここでまさかのハードルが……。

 子どもが良さそうなサービスを見つけても、親が利用を嫌がることが少なくないのです。「必要ない」と却下……。人の世話にはなりたくないという親のプライドだったり、遠慮だったりするようです。

 そんな時に必要なのは“コミュニケーション力”。親へのアプローチ法を工夫します。「うちの親は、どう言えば耳を貸してくれるかな」と考えてみるのです。成功例で多いのは、かかりつけの医師から直接親に勧めてもらう方法。親世代は「先生」の言葉には従う傾向があるようです。

 とはいえ、医師は、顔も知らない遠方の子から突然電話で「先生から勧めてください」と言われても、請け負ってはくれないでしょう。「離れて暮らしているけれど、親のことを気にかけている子」だと存在を知っておいてもらうことが大切です。遠距離介護では医師にお世話になることも多いので、時々でも受診に付き添って顔を覚えてもらうと、後々味方になってもらえる確率は上がります。

 また、介護保険をうまく使って補えることもあります。例えば、住宅改修サービスを利用すれば、段差撤去や手すりを付ける工事ができます。1割負担の親なら、20万円の工事が2万円でできるわけです。「介護保険って、お得なサービスなんだ」と親が思えば、他のサービスも受け入れる可能性はアップします。住宅改修サービスについては、地域包括支援センター、ケアマネジャーに相談してみてください。

 その他、例えば実家のお隣さんと携帯電話の番号を教えあえるくらいの関係を築ければ、親に何かあったら知らせてもらうこともできるでしょう。

 介護の方法は、家族構成やそれぞれの性格、経済状況、要介護度、持病など、さまざまな要因が複雑にからむので、正解はありません。“遠距離介護”が向く親子もいれば、向かない親子も。百組の親子がいれば百通り。家族間でよく話し合って、自分たちにとってのより良い方法を選びたいものです。

【この記事はYahoo!ニュースとの共同連携企画です】

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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