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前代未聞の「トイレの最中」! 笑撃の和菓子に込められたのは地元愛だった!‽

大竹敏之名古屋ネタライター
愛知県常滑市の大蔵餅で9月に発売された「トイレの最中」。1箱324円

老舗和菓子店と大手メーカーの異例のコラボ商品

トイレの形の最中の皮、その中には黒々としたたっぷりのあんこ。あんこが〇んこに見えてしまう衝(笑)撃のビジュアルで話題となっているその名も「トイレの最中(さいちゅう)」。「リアルすぎる!」「でも食べてみたい!!」とたちまちネットを中心に話題となっています。

これは和菓子店「大蔵餅」と住宅設備機器メーカー「LIXIL」(リクシル)榎戸工場(ともに愛知県常滑市。名古屋から車で約45分)のコラボ商品。創業70年の老舗和菓子店と、業界を代表する大手がなぜこんな商品をつくることになったのでしょう?

最中(さいちゅう)と最中(もなか)をひっかけたネーミングがまず楽しい。パッケージには「ただ今使用中!」(笑)。箱の中にトイレ型の最中の皮、袋入りのあんこ、「正しいお召し上がり方」の説明書が入っている
最中(さいちゅう)と最中(もなか)をひっかけたネーミングがまず楽しい。パッケージには「ただ今使用中!」(笑)。箱の中にトイレ型の最中の皮、袋入りのあんこ、「正しいお召し上がり方」の説明書が入っている

最中の皮からはみ出るほどのもりもりの〇んこ…いや、あんこ。小さな子どものいる家庭に手土産でもっていけば喜ばれることウケアイ(?)
最中の皮からはみ出るほどのもりもりの〇んこ…いや、あんこ。小さな子どものいる家庭に手土産でもっていけば喜ばれることウケアイ(?)

『“あんこ”と“〇んこ”って似てるじゃないですか』、そんなひと言から生まれた商品なんです」。こう笑うのは大蔵餅の3代目・稲葉憲辰さん。この問題発言はさかのぼること15年ほど前、地元商工会の懇親会の席でのものでした。

常滑はトイレが主要産業の“衛生陶器の町”。当時の伊奈製陶(LIXILの前身のひとつ)が先進的なトイレをつくり、町の発展を支えてきました。そんな地域の伝統を伝える物語のある商品として、トイレの形の最中をつくりたいと、伊奈製陶創業家で当時INAX会長だった伊奈輝三さんに提案したんです。すると輝三さんは大笑いして『やりたまえ!』と言ってくれました」

昭和26年創業の「大蔵餅」3代目の稲葉憲辰さん。「みんなが笑顔になれるお菓子をつくりたいんです」
昭和26年創業の「大蔵餅」3代目の稲葉憲辰さん。「みんなが笑顔になれるお菓子をつくりたいんです」

技術者もノリノリ! 本物のトイレを元に型を作成

しかし、当時はまだイロモノとしか見られないだろう、と実現にはいたらず。アイデアを温め続けていたところ、店からほど近いLIXIL榎戸工場から「工場見学の参加者向けの記念品に、何か面白いお菓子はないか?」という問い合わせが入ったのは約1年前のことでした。「そこでトイレ型の最中の話となり、“面白い!”と乗り気になってくれたんです」(稲葉さん)

LIXIL榎戸工場の担当者もノリノリで、実際のトイレの設計者が、CADデータから3Dプリンターで原型をつくるほどの熱の入れよう。それを元に便座の幅や、便座と便器がずれないようにするストッパーの位置などの改良を重ねました。また、あんこは「粒あんの粒が少しつぶれて異物感があるもの」(稲葉さん)と〇んこっぽい見た目にもこだわりました。

こうして6月には「トイレの最中」が完成。同月からLIXIL榎戸工場の工場見学のノベルティとして配布されることになりました。これが非常に好評だったのですが、工場見学はLIXILの取引先など対象者が限られるため、一般の人が購入できるように、9月から大蔵餅での販売もスタートしたのです。

LIXILのトイレ「サティス」を元に原型を作成。ほぼ本物の通りの型(右)から、便座の幅を広くし、ずれないよう便器にはストッパーをつけ(真ん中)、最終的には便座側にストッパーをつけた(左)
LIXILのトイレ「サティス」を元に原型を作成。ほぼ本物の通りの型(右)から、便座の幅を広くし、ずれないよう便器にはストッパーをつけ(真ん中)、最終的には便座側にストッパーをつけた(左)

陶器の町ならではの常滑土産に!

現在、一般販売は大蔵餅とINAXライブミュージアム(常滑市)の2ヶ所のみ。特に大蔵餅では連日早い時間帯で売り切れてしまうほどの人気となっています。

「いろいろなところから引き合いはありますが、背景にある物語を伝えられる場で売っていきたい。できれば常滑に来て、この町の陶器産業について関心を持った上でお買い求めいただければと思っています」(稲葉さん)

「大蔵餅」は常滑の散策コース「やきもの散歩道」から車で5分ほど。ジャンボサイズのかき氷でも行列ができるほどの人気を誇る。店先の巨大な甕は、戦時中にロケット燃料の貯蔵用に常滑で作られていた産業遺産
「大蔵餅」は常滑の散策コース「やきもの散歩道」から車で5分ほど。ジャンボサイズのかき氷でも行列ができるほどの人気を誇る。店先の巨大な甕は、戦時中にロケット燃料の貯蔵用に常滑で作られていた産業遺産

トイレの中のもりもりの〇んこを連想して笑っちゃうしかないこのお菓子。実際に食べてみると、パリッとした皮と上品な甘みのあんこを組み合わせたオーソドックスな味わい。見て楽しめ、誰もがおいしく食べられるお土産商品に仕上がっています。

「コロナ禍で閉塞感があるこんな時代だからこそ遊び心が大切」ともいう稲葉さん。商品開発の裏に秘められた郷土愛や時代性にまで思いをはせると、さらにほおがゆるみ、かぐわしさも増すんじゃないでしょうか。

(写真撮影/すべて筆者)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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