Yahoo!ニュース

名古屋城に「金シャチ横丁」がオープン!新たな観光名所となるか?

大竹敏之名古屋ネタライター
グランドオープンに先駆けた顔見世(事前内覧会)には多くの市民らが押し寄せた

2つのゾーンに老舗・定番、新鋭の飲食・物販店を集める

3月29日、名古屋城に新たな観光拠点となる「金シャチ横丁」がオープンしました。初代藩主、徳川義直にちなんだ正門横の「義直ゾーン」、7代藩主・宗春をイメージした東門側の「宗春ゾーン」の2つのスペースからなり、飲食・物販合わせて19店舗で構成されます。

名古屋めしの代表格、「矢場とん」の味噌かつ
名古屋めしの代表格、「矢場とん」の味噌かつ

「義直ゾーン」は“伝統・正統のエリア”がコンセプトで、味噌煮込みうどんの「山本屋総本家」、味噌かつの「矢場とん」、江戸時代から続く老舗和菓子店・両口屋是清の「那古野茶屋」など、有名店や老舗が軒を連ねます。

一方、「宗春ゾーン」は“新風・革新のエリア”で、カフェやイタリアン、ラーメンなど新進外食企業によるどちらかといえば若者向けの店舗が顔を揃えます。

「あんかけ太郎」のあんかけスパゲティはとろみと辛みのあるソースがヤミツキになる
「あんかけ太郎」のあんかけスパゲティはとろみと辛みのあるソースがヤミツキになる

「義直ゾーン」は定番の名古屋めしが数多く、名古屋観光ビギナーにとっても安心感のある店舗構成、「宗春ゾーン」は地元の人や名古屋リピーターにとっても新鮮味のあるセレクトとなっていて、名古屋への来訪回数などに応じて使い分けするのがよさそうです。

食べ歩きは?夜間営業は?気になる課題を直撃!

オープン前の情報から、筆者には懸念材料が2点ありました。

ひとつが、食べ歩きの要素はあるのか?

もうひとつが夜間営業の弱点をどうカバーするのか?

飲食店は一店舗でしっかりおなかが膨れる業態やメニューが多く、お手本にしたといわれる伊勢神宮「おかげ横丁」のような食べ歩きする要素が薄いのではないか、と感じていました。また、正門横の「義直ゾーン」は名古屋城の閉門30分後まで(通常17時まで)と営業時間が短く、一方の「宗春ゾーン」は夜10時半までの営業ながらもともと飲食店がまったくないエリアのため夜間の集客が課題になりそう。

これに対して運営する日本プロパティマネジメント代表取締役の坂田稔さんはこう答えます。

各店舗にテイクアウトメニューの販売を働きかけています。串カツや手羽先など小ポーションのメニューを充実させて、食べ歩き、買い回りできる楽しさを提案していきたい。また、名古屋城の開城が延長するイベントが年間様々あるので、夜間営業できる日数も決して少なくはありません。『宗春ゾーン』は周辺の官庁街職員の多くが利用する地下鉄市役所駅の前なので、ある程度の夜間需要も見込めると考えています」

「宗春ゾーン」は地下鉄市役所駅からすぐ。夜10時半まで営業し、周辺の官庁街職員の需要も見込む
「宗春ゾーン」は地下鉄市役所駅からすぐ。夜10時半まで営業し、周辺の官庁街職員の需要も見込む

出店する店舗も「朝の開店時間を前倒ししてモーニングサービスでおもてなしするのもよいのでは、と考えています」(「那古野茶屋」)、「観光客の方はもちろんですが、周辺の官公庁の職員さんたちに日用使いしてもらいたい。特別なことをするのではなく、街中の店舗と同様に地に足をつけて営業していきたい」(「あんかけ太郎」)など、各々の業態や立地に合った営業戦略で消費者の獲得を目指しています。

実は“観光客向け飲食店街”ではない! 金シャチ横丁に秘められた狙い

スマホに「ココアル2」をダウンロードして楽しむAR歴史解説。15~30秒の英語ナレーション+日本語字幕の映像が30種類、施設内に設置されている
スマホに「ココアル2」をダウンロードして楽しむAR歴史解説。15~30秒の英語ナレーション+日本語字幕の映像が30種類、施設内に設置されている

そして、実は金シャチ横丁は「単なる観光客向けの飲食施設ではない」と坂田さんはいいます。

地元の人に名古屋城にもう1回来てもらいたい、というのが狙いのひとつです。そのために名古屋城と尾張徳川家の歴史に関心を持ってもらう仕組みを取り入れています」

金シャチ横丁を起点に両ゾーンや城周辺を巡れる名古屋人力車。10分のショートコースは2人乗りで3000円
金シャチ横丁を起点に両ゾーンや城周辺を巡れる名古屋人力車。10分のショートコースは2人乗りで3000円

そのひとつがAR歴史解説。両ゾーンには壁面に15個ずつの絵巻イラストがあり、スマホに対応アプリをダウンロードして写すと英語によるナレーションと日本語字幕で、名古屋城や尾張徳川家に関する豆知識を得ることができます。ナレーションを歴史愛好家として知られる名古屋の人気タレント、クリス・グレンさんが担当しているのも、地元っ子にとってはなかなかツボです。

また、名古屋城で人気を博している名古屋おもてなし武将隊にならって、義直、宗春と家臣の忍者が出迎えてくれる演出もなかなか粋(休日限定)。さらに人力車による周辺エリアの周遊も行います。

天守閣のない4年半をカバーする役割担う

「観光客の名古屋城の平均滞在時間はこれまで約1時間程度でした。これを食事を含めて2時間半に延ばし、名古屋城の満足度を高めたい」と坂田さん。

名古屋城は天守閣の木造再建にともなう調査により、今年5月7日から入城禁止となり、竣工予定の2022年12月までおよそ4年半、“主役不在”となる計画となっています。このハンディをカバーする役割を担うのが、今年6月全面公開となる本丸御殿、そして金シャチ横丁となるわけです

徳川宗春(中央)や忍ぶ衆たちが公式おもてなしキャストとして来場者を出迎える。全国の武将隊の先駆けとなった名古屋おもてなし武将隊を生んだ名古屋城ならではの演出だ
徳川宗春(中央)や忍ぶ衆たちが公式おもてなしキャストとして来場者を出迎える。全国の武将隊の先駆けとなった名古屋おもてなし武将隊を生んだ名古屋城ならではの演出だ

“主役不在”と書きましたが、実は天守閣はあくまで名古屋城全体の建造物のひとつです。城内には江戸時代から現存する隅櫓(すみやぐら)が3つもあり、これらは他の城であれば天守閣にも匹敵するスケールを誇ります。1・6~1・7km四方の広大な敷地面積も国内最大級。またこの度復元が完了する本丸御殿は、天守閣ともども城郭建築として国宝第1号に指定された御殿建築の最高峰で、10年もの歳月をかけての忠実な復元は非常に見ごたえがあるものです。すなわち、天守閣が見られなくなっても、名古屋城には見どころが十二分にあるのです

奇しくも天守閣の入場禁止に前後して、金シャチ横丁、そして本丸御殿全面公開となるのは、ピンチをチャンスに変えるのにこれ以上はないタイミングです。金シャチ横丁が名古屋城の魅力を底上げする情報発信地の役割を果たしてくれることを大いに期待したいと思います。

(写真撮影/筆者 ※人力車写真は日本プロパティマネジメント提供)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

大竹敏之の最近の記事