家賃払えなくても ‟夜逃げ” だけはNG  「絶対にしないで」と司法書士が訴えるワケ

ひとりで考えずに誰かに相談しよう(写真:Paylessimages/イメージマート)

コロナ禍でダメージを受け続けて1年。倒産、派遣切り、早期退職等々のニュースが飛び交う中、収入が減ってしまうと、賃貸物件の家賃を払えないという状況が生まれてしまうかもしれません。そんな時、絶対にとってはいけない行動があります。

それは、‟夜逃げ” です。

普通賃貸借契約は、解約等をしない限り継続する契約です。つまり勝手に出て行ったとしても、契約は継続したままなのです。当然に家賃は、出て行った後も延々と発生します。自分は退去したので、もう家賃を払わなくてもいいと思っていても、ある日突然、忘れた頃に滞納賃料等を債権として、財産を差し押さえられる可能性があるのです。

行方不明になっても裁判手続きは進みます

一方の夜逃げされた家主側はどうでしょうか。

賃借人が家賃を払わなくなり物件に行ってみると、どうやら住んでいる気配がない、そう思ったとしても、家主側は勝手に室内に立ち入ることも、ましてや室内の荷物を撤去することも、さらには次の賃借人に入居してもらうこともできません。それは賃貸借契約が、継続したままだからです。当然にこの間も払ってもらえていない家賃は、毎月毎月加算されていきます。

いつまで経っても賃借人の行方が分からなければ、家主は訴訟を提起するしかありません。住民票を異動していたら、転居先はすぐに見つけられてしまいます。訴訟手続きを受任した訴訟代理人(弁護士、認定司法書士)は、職務上請求で相手方の住民票や戸籍等を取得することができてしまうのです。

ではもし貴方が夜逃げをしたとして、住民票を異動せずそのままにしていたらどうでしょう? 

この場合、訴訟では公示送達という手続きが準備されています。これは相手方がどこにいるか分からない場合に、裁判所に訴えられたことを公示することによって手続きを進めましょうというものです。訴えられた側は、残念ながら裁判所の公示板を見ることなどないでしょうから、自分が訴えられたことすら分からないでしょう。そうして自分の知らない間に、訴訟手続きの中で賃貸借契約が解除され、「滞納賃料支払え」という貴方の債務が確定するのです。

時効は10年。この間に債権者(家主等)は、どうやって貴方から加算されきった賃料等を回収しようか策を練ります。貴方もどこかで住民票を異動するかもしれません。弁護士は銀行に預金口座があるかどうかの照会もできます。そして満を持して、貴方が忘れた頃に給与を差し押さえられたり、銀行口座を差し押さえられたり、はたまた執行官が部屋の中に入って来て、動産を差し押さえられたりしてしまうのです。

退去すればいいと思っていた

沖縄から大学進学のために出てきたタケルさん(21歳)は、通っていた大学のすぐ近くの学生アパートに住んでいました。ところがある時期から家賃は滞納。家主が学校に問い合わせてみると、すでに退学していました。アパートは電気・ガス・水道が止まり、住んでいる様子はありません。どうやら勝手に退去してしまったようです。困った家主から依頼を受けて、私は訴訟手続きを始めました。

タケルさんの電話は、すでに不通。今現在どこにいるのかも分かりません。住民票を確認してみると、住所はもともと沖縄のご実家のまま異動していませんでした。そのため沖縄の住所で、訴訟を提起しました。息子宛の訴状を受け取ったお母さんはびっくりして、私のところに連絡をしてきました。

「息子は名古屋で今働いています。とにかくすぐに電話させます!」

そこから2,3日経って、タケルさん自身から連絡がありました。やはり退去手続きをせずに、引っ越ししてしまったようです。鍵は持ったまま。訴訟を提起したことを伝えると、「部屋を出ればいいと思っていました」と言うのです。

軽く考えていたら大変なことになるよ、と伝え、解約の手続きを取り、鍵を返してもらいました。もともと部屋は空っぽにして退去していたので、訴訟は取り下げ、タケルさんは「いい勉強になりました」と毎月分割で溜まった滞納分を払ってきています。ほんの少しの手続きを怠っただけで、結局支払わねばならないお金は、家賃の10ケ月分ほどになっていました。もしきちんと解約手続きをして退去していれば、支払わなくて良かった金員です。

タケルさんは幸運にも連絡がついて話し合いで解決できましたが、若気の至りで独身時に夜逃げしてしまい、その後結婚、子どもも生まれて平穏に生活していると思っていたら、ある日突然に過去の滞納賃料で差し押さえられて、生活が一変することも十分にあり得ることなのです。

だからこそ夜逃げは絶対にしてはいけない

もし家賃が払えなくなって友達の家に転がり込もう、出て行こうと思うなら、絶対に勝手に退去することなく、賃貸借契約書についている「退去届」を出しましょう。もしついていなければ、〇月〇日をもって〇〇アパート〇号室を退去します、と署名すれば大丈夫です。

そしてここがポイント! 退去の際には、必ず鍵の返却をすること。鍵を返却しないと「占有を明け渡した」とならずに、契約は継続してしまいます。退去立ち会いしてもらうのがベストですが、どうしても難しいと思うなら、鍵は必ず家主か管理会社に返却しましょう。

室内の荷物も撤去して空っぽで明け渡すのが基本ですが、どうしても荷物を置いていく場合には、残置物の放棄書も添えましょう。これは置いていった物であっても貴方の所有物なので、家主側は勝手に処分できないからです。退去届や鍵の返却時に「残置物の所有権を放棄します」の一文を忘れずに。そうすれば受け取った家主は、貴方の荷物を訴訟手続きを取らずに処分することができます。ただし荷物の撤去には費用がかかるので、後から請求される可能性があることは覚えておいてくださいね。

せっかく貴方に部屋を貸してくれた家主に対して、迷惑をかけてはいけません。さらには忘れた頃に自分の生活が覆されてしまうような法的手続きが取られてしまうとなれば、気軽に退去することはできないはずです。人に迷惑かけたまま、人生は好転しません。自分の大切な将来のためにも「夜逃げは絶対にしてはいけない」を覚えておきましょう。