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「プロ以上にブレックス」 地元でBリーグデビューを飾った早大1年・星川堅信

大島和人スポーツライター
シュートを放つ星川堅信選手 写真=B.LEAGUE

十代の選手が地元でデビュー

2021年2月6日には、二人のティーンエージャーが地元でB1デビューを果たした。栃木では宇都宮ブレックスの星川堅信(19歳)、沖縄では琉球ゴールデンキングスのハーパージャンジュニア(17歳)がそれぞれデビューを飾っている。

星川は早稲田大1年、ハーパーは福岡第一高3年(東海大入学予定)で、特別指定選手としてチームに合流中だ。

星川は2分57秒の出場時間で、2得点1アシストを記録。第4クォーターで30点差以上がついた「ガベージタイム」の出番ながら、持ち味を出してみせた。天皇杯ではプレータイムを得ていたが、リーグ戦は初出場だった。チームも最終的に新潟アルビレックスBBを86-48と大差で下している。

彼は宇都宮市立鬼怒中出身で、京都の洛南高に進んだものの栃木育ちだ。なお弟・開聖も洛南高1年で、ブレックスU15時代は全国大会のMVPに輝いている有望株。コートへ入った瞬間には、ファンから試合を通して最大級の拍手が送られていた。地元選手として認知され、期待もされているのだろう。

星川はプロ初得点も記録

投入から30秒ほどで、19歳に見せ場がきた。ゴール正面でボールを持つと、ジョシュ・スコットのスクリーンから生まれたスペースを活かし、少し右に流れてミドルレンジからのジャンパーを決めた。残り15秒には洛南高の大先輩・竹内公輔の3ポイントシュートもアシストしている。

短時間の出場ながら彼にボールが集まり、結果を出した。星川は感謝を口にする。

「セットプレーでも僕にボールが回るようにガード陣が組んでくれたり、インサイド陣が(スクリーンに)何回も来てくれたりして、すごく感謝しています」

6日の新潟戦では、若者の門出を晴れやかなものにしようとする先輩たちの気遣いがあった。星川は「嬉しかった」「良かった」と率直な喜びを語った上で、さらにこう述べる。

「実際に試合に出させてもらって、点を決められて、前までの僕が想像していなかった感じです。先輩たちみたいに仲間を気遣うところまでは全然行かなくて、自分のことで精一杯でした」

試合後は1時間の個別練習

星川は190センチ・92キロのスモールフォワード。中学生時代から年代別の代表に呼ばれるこの年代屈指のエリートで、身体の強さとスキルを兼ね備える逸材だ。ただしブレックスはB1全体の首位に立っている強豪で、大学生にとって適応は容易でない。

「長い間ベンチに座って、コンディション的に微妙なところだった。終盤まで身体を動かさずベンチに座っているのは今まであまり経験していない」

高校、大学と1年目から主力として起用されていた彼も、ブレックスではまだお客さんだ。6日の新潟戦も比江島慎の負傷欠場、大差がついた展開を受けて、ベンチ入りと出場が叶った。

3分弱の出場時間は若いアスリートにとって負荷が低すぎて、コンディションも落ちかねない。6日は約1時間のワークアウト(個別練習)を終えてから記者の取材に応じてくれた。今の彼にとっては試合後の練習がむしろ本番かもしれない。

「一生懸命だけではついていけない」

しかしその可能性は大きく、強豪クラブで積んでいる経験は尊い。例えば星川は高校、大学と留学生のインサイドプレーヤーがいない環境でプレーしてきた。210センチ・114キロのジョシュ・スコットがスクリーンをかけてくれる環境はウイングプレイヤーにとって理想的だが、一方で彼にとっては不慣れなシチュエーションでもある。

「ピックを凄いちゃんと当ててくれて、その分時間とスペースが生まれる。そこをちゃんと活かしたいし、課題の一つです」

栃木は守備の強度、リバウンドにこだわるチームだ。しかしプロの世界は「気持ち」だけで済まない深さがある。星川はこう素朴な感想を口にしていた。

「この前はディフェンスを頑張ろうと思って練習をやっていたんですけれど、スカウティングの部分とか、一生懸命やるだけではついていけないと強く感じました。一生懸命やっているつもりでもポジションが悪くてスクリーンに当たってしまったりして、技術が大事だと感じました」

「プロ以上にブレックス」

ブレックスでプレーするチャンスを得た喜びについてはこう述べる。

「僕はプロになりたいと思っていますけれど、それ以上にブレックスでプレーしたかった。ブレックスに特指で行けると分かったときは嬉しかったです」

特別指定選手は高校、大学のバスケ部に所属する人材が、一時的にBリーグの試合に出場できる仕組みだ。プレータイムを得られるチームを選択する選手も多いが、「練習で高いレベルを経験する」判断も間違ってはいない。

星川、ハーパーの二人はいずれも「地元」「憧れのチーム」で経験を積んでいる。ブレックスが2008年、キングスは2007年からトップリーグに参戦し、プロとして活動を続けてきた。十代の若者なら人生の原体験にプロバスケの世界がある。

地元のプロ選手が少年の憧れとなり、お手本となり、チームメイトになる――。そんなストーリーを目の当たりにして、クラブが地域に根づく価値を改めて強く感じた。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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