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東海大バスケ部は8名が在学中にプロを経験 選手たちが語る「B1即戦力」の理由

大島和人スポーツライター
指示を受ける津屋一球選手(三遠) 写真=B.LEAGUE

冬場にBリーグへ合流する大学生

Bリーグは秋春制で、冬がリーグ戦の佳境だ。高校や大学は遅くとも12月中に公式戦が終わるため、シーズン半ばに新人が合流する。

さらにBリーグには特別指定選手制度がある。この仕組みにより最終学年を終えていない選手も、インターンシップ的にプロのコートに立てる。3月下旬までプロの練習や試合に参加し、大学へ戻っていく例が多い。Jリーグも同様の制度はあるが、Bリーグは「途中加入」「活用の多さ」が特徴だ。

プロ契約、アマチュア契約を問わず、3月31日時点で満22歳以下ならば特別指定の扱いを受けられる。13名以内と定められる登録人数とは別枠で最大2名をエントリーできる便利な仕組みで、既に退部した選手もこの枠で登録されるケースがある。

2020-21シーズンならば小酒部泰暉(神奈川大/アルバルク東京)、赤穂雷太(青山学院大/千葉ジェッツ)が、大学の卒業は目指しつつ、半年早くプロに合流している。

河村は2季目のB1

ただし中途退部組は少数派で、12月末から現役学生の合流が一気に増える。そして今季は例年以上に主力級のプレータイムを得ている選手が多く、特に東海大勢の存在感が際立っている。

「目玉」はやはり河村勇輝だろう。福岡第一高3年だった2019-20シーズンも三遠ネオフェニックスに加わり、11試合に出場。1試合平均で22.2分のプレータイムを得て、12.6得点を記録している。170センチ・68キロと小兵のポイントガードが、チケットの売り切れを続出させるほどのインパクトをリーグに残した。

東海大1年で迎えた2020-21シーズンは、横浜ビー・コルセアーズの特別指定を受け、やはり平均20分以上のプレータイムを得ている。一方で横浜では3ポイントシュートの成功率が23.3%と低迷し、持ち味の得点力、攻撃力を見せられていない。新型コロナウイルスの影響で、大学への合流が8月になった影響もあるのだろう。

攻撃は不調も守備で奮闘

1月30日の広島ドラゴンフライズ戦は、3ポイントシュートを11本放って1本しか決められず、チームも17連敗中の相手に敗れた。試合後の河村はこう述べていた。

「3ポイントの精度がこのレベルだと、プロレベルではないなと思っている。そういった部分に関しては練習不足です。練習中からゲームライクを意識して、もっとシューティングをしないといけない。出られていない先輩は必然的にいるわけで、(今の)パフォーマンスで先輩方が納得するのか。自分が逆の立場だったら納得できないと思います」

河村は既に出場で満足する段階を終えており、コメントも自身のプレーについて反省のニュアンスが強かった。とはいえ30日の広島戦は、東海大の「らしさ」を見せている。彼は28分36秒の出場で5つのスティールを記録するなど、守備でチームの先頭に立った。

「自分が何をして貢献しようかと考えたとき、波のないDFをとにかく頑張って、そこから流れを作ろうという気持ちでやりました。昨年と違って大学でフィジカル面、コンタクトの部分をより一層練習してきた。そういった部分は適応できているのかなと思います」(河村)

河村勇輝選手(左) 写真=B.LEAGUE
河村勇輝選手(左) 写真=B.LEAGUE

津屋は1試合20点の活躍

東海大4年でキャプテンも務めていた津屋一球は、三遠ネオフェニックスと契約している。

三遠はサーディ・ラベナ、ネナド・ミリェノヴィッチがケガで試合から遠ざかっており、さらに1月30日の琉球ゴールデンキングス戦では試合中に西川貴之、川嶋勇人の二人が負傷。そんなチーム事情もあり、この新人シューティングガードは土日の連戦でいずれも30分前後のプレータイムを得た。30日は20得点を記録する大活躍だった。

翌31日は今季初の先発出場も果たしている。シュートを警戒し、相手の守備がタイトになった中で、津屋はドライブの仕掛けを増やしていた。守備の遂行力、終盤の決定力などの課題を口にしていたものの、可能性を感じさせる内容だった。

複数の選手が即戦力の働き

昨季も東海大のキャプテンだった寺嶋良(現京都ハンナリーズ)が新人王級の働きを見せた。今季も引き続いて東海大勢が、B1で即戦力級の働きを見せている。

東海大4年の西田優大は、通常のプロ契約で新潟アルビレックスBBに加わり、ここまで9試合中8試合に先発している。西田は日本代表の合宿にも参加した経験もある左利きのシューターで、2019-20シーズンも名古屋ダイヤモンドドルフィンズで登録されていた。

他に佐土原遼(広島ドラゴンフライズ)、八村阿蓮(サンロッカーズ渋谷)、坂本聖芽(名古屋)が今季のコートに立っている。伊藤領(新潟)、大倉颯太(千葉ジェッツ)も特別指定でプロの活動に参加している。(※3日15時30分修正)

もちろん河村や大倉は入学前から知られていたスタープレイヤーで、東海大「だけ」が育てた人材ではない。しかし彼らが東海大を選んだ理由は、自分の夢へ近づけると判断した結果。津屋と西田はこの春で卒業だが、河村、佐土原、八村など6名のプロ経験者が来季も残る。

違いは身体作りと細かさ

なぜ東海大の選手たちがB1で輝くのか?津屋はこう述べる。

「東海大はウエイトとかランとか、体重が増えても走れる身体作りをトレーナーさんも含めて考えてやっている。あとは陸さん(陸川章ヘッドコーチ)と学生コーチが細かなところを徹底しています。Bリーグはスペーシングが細かいですけれど、スペーシングとかピックの使い方は、他の大学より細かいところまで気にしてやっている。だから自分たちはすんなり溶け込めているのかなと思います」

西田は189センチ・90キロ、津屋は190センチ・90キロと逞しい体躯を持ち、なおかつ動けるタイプだ。河村も大学合流後の3ヶ月、4ヶ月で早くもフィジカル面の変化を見せている。

河村はこう述べていた。

「東海大で練習中からフィジカルのある学生とともに練習することが実になっている。特別指定選手がすごく多い中で、プロレベルでやれている」

一方で彼は自分の現状を冷静に分析していた。

「コロナ禍の中で、短期間で身体を作った。完全にこの身体に適応できているかと言われると、そうでない部分がある。これは時間をかけて、やるべきところだと思います」

プロの入口に立たせる重要性

成長には、環境だけでなく時間も必要だ。河村も津屋も西田も、プロの世界ではまだ覚えるべき要素が多い。また彼らはチームへの合流が遅く、プレシーズンの練習にも参加できてない。となれば連携、コミュニケーションのミスはどうしても出る。出番を得ているのはB1の下位チームで、そこも留意する必要がある。

しかし大学生のうちから「プロの壁に当たる」経験ができることが素晴らしい。2020-21シーズンの特別指定は東海大、筑波大の2チームに集中している。つまりこの2校は少なくとも選手をプロの入口まで連れて行けている。それは大切なポイントだ。

特に東海大の選手たちはフィジカル、攻守のファンダメンタルといったプロの素地を大学で身につけている。戦術や技術を発揮する前提となる、プレー強度への適応ができている。そしてオフェンスが不発でも、悪いなりに守備面でチームを助けられるタイプが多い。そういう人材は総じて指揮官に重宝される。

試合に出られるチーム

プロキャリアを「試合に出られる」チームからスタートする判断も、間違いなく正しい。もちろん1年目から有力チームのレギュラーになるのが理想で、さらにいえば八村塁のように大学を中退してNBAへ進むキャリアがベストに違いない。ただともかく自分より少し上のチームメイトと競い合える、自分たちより強い相手と戦える環境は若者を伸ばす。

東海大についていえば「プロレベルでやるのが当たり前」という競争環境と学生らしい連帯感も、選手たちを後押ししているのだろう。津屋に「仲間たちの活躍は気になるか?」と問うと、こんな答えが返ってきた。

「すごく気にしています。特に西田はよく出ているので、勝手にスタッツを見て自分のモチベーションを上げています。前はチームメイトだったんですけれど、今は良きライバルです」

強豪校に見る日本バスケの可能性

東海大は2020年のオータムカップ(関東大学バスケットボール連盟による秋季リーグ戦の代替大会)、インカレ(第72回全日本大学バスケットボール大会)も制している。そしてB1のプロ契約を1名、特別指定は7名(※3日15時30分修正)を送り出している。大学チームながら8名のB1レベルを擁していたのだから、その結果は当然だ。

筑波大もB1に4名、B2に2名の特別指定選手を送り出しており、特に山口颯斗(レバンガ北海道)と野本大智(滋賀レイクスターズ)は鮮烈なB1デビューを見せた。

一方でBリーグに人材を送り出すような有力校にも、指導者不在で練習をしているような例がまだある。他大学が東海大や筑波大に負けまいと環境を整えられれば、この国は一気に強くなる。東海大勢のBリーグにおける活躍に、日本バスケの大きな伸びしろを感じた。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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