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バスケ新全国大会で輝いた街クラブ 期待以上の実力と想像を絶するやりくり

大島和人スポーツライター
準決勝を飾ったNLG INFINITY 写真提供=日本バスケットボール協会

中体連、B、街クラブが競う初の全国大会

「U15バスケ新時代」を象徴する、歴史的な第1回大会だった。1月上旬に東京都調布市で開催されたJr.ウインターカップ(第1回全国U15バスケットボール選手権大会)は、中学生年代の日本一を決める全国大会。男子は秋田市立城南中、女子は四日市メリノール学院中が初代チャンピオンに輝いている。

中体連(部活)、クラブチームが同じ“土俵”で競い合うバスケ界初の画期的な大会だった。中体連には既に全国中学生大会(全中)という夏の大舞台がある。近年はBリーグのユースチームも全国大会をスタートさせ、晴れ舞台が用意されていた。

一方でBリーグの発足前から全国では様々なクラブチームが活動し、人材を高校バスケに輩出していた。一口に街クラブと言っても活動形態は千差万別。ファンはもちろんだが、関係者にも実情が伝わっていたとは言い難い。今大会はそんな街クラブの立ち位置を我々が知るいい機会だった。

街クラブの存在感

男子のベスト8を振り返ると、5チームが街クラブだった。

・レバンガ北海道 U15(北海道/Bユース)

・秋田市立城南中学校(秋田/中体連)

・青龍U15バスケットボールクラブ(山形/街クラブ)

・Eternity(栃木/街クラブ)

・NLG INFINITY(群馬/街クラブ)

・Eagle Nest Stage(埼玉/街クラブ)

・奥田バスケットボールクラブ(富山/中体連)

・RIZINGS徳島(徳島/街クラブ)

レバンガ北海道U15はその名の通り、プロチームの育成組織だ。また奥田バスケットボールクラブは奥田中バスケ部のメンバーによって構成されていたため中体連として扱う。その上でカウントすると「8分の5」が街クラブになる。

大会前からシンプルな疑問を持っていた。それは街クラブが施設、指導者、お金をどうやりくりしているかだ。

準決勝を飾ったNLGインフィニティ

NLG INFINITY(インフィニティ)は大会NO1プレイヤーの川島悠翔を擁し、準優勝を飾った群馬県のクラブチームだ。「無限NO LIMIT」の名で伊勢崎、足利、小山と両毛地区(群馬・栃木の県境付近)で活動しており、栃木のEternity(エターニティ)は登録を分けたもののルーツは同じ。今大会は両県の代表権を得て、どちらもベスト8入りを果たしている。

NLGインフィニティは初戦で優勝候補の筆頭に挙げられていた西福岡REBIRTH(西福岡中)を倒すと、更に快進撃。ZEPHYRS、RIZINGS徳島、奥田クラブとの接戦を制して決勝まで勝ち上がった。

そんな強豪クラブだが、サッカーや野球のクラブチームほど恵まれた環境にはない。舘野拓也ヘッドコーチは言う。

「ウチはバスケットボールを大好きなコーチが揃っていて、他に仕事をしながらやっています。僕も有給休暇を使って(大会に参加をしている)。活動は日月水金でやっています」

仕事と指導の掛け持ちについてはこう説明する。

「僕は会社員で、電気屋です。練習は18時半のときもありますが、19時くらいからですかね。終わらなかったら戻って仕事をやっています。社長が代表と同級生で、僕も(社長の)息子を中学生から知っている」

つまりNLGインフィニティは中学校など地域の体育館を借りて、昼間の仕事を終えたコーチが選手を指導する体制だ。

地域、学校との関係構築がポイント

堀田享代表は舘野コーチが勤務する企業の社長と、中学時代に全国2位に入ったチームメイト。社長の息子が舘野コーチとやはりチームメイト。そんなローカルな縁があるおかげで、コーチはバスケの活動に理解がある企業で働けている。

クラブの活動に参加している選手は群馬、栃木でそれぞれ約100名ずつ。Jr.ウインターカップに参加しているのは「アスリートコース(選抜コース)」のメンバーだ。週2回の練習に参加する「アカデミークラス」もある。

学校目線で見れば塾に相当する立ち位置で、選手の多くは部活にも参加しているという。クラブの指導者には現職の教員もおり、クラブ側は地元中学校との関係にも気を配っている。

堀田代表は言う。

「今は(21年4月まで)掛け持ちできるので、3年生は基本的にクラブ登録です。1、2年生は希望する子だけクラブ登録で、基本的には中学校を優先して下さいと話しています。仲良くやりながら、迷惑をかけないようにしている。中学校に『利用してもらう』立場でずっとやっている」

指導はボランティア

彼らにとってクラブの指導は、バスケが好きだからこそ続くボランティア活動だ。チームの月謝は週4日の選手が7000円で、週2日なら5000円。選手が100人いたとしても、経費はそれに応じて当然かかる。

野球やサッカーならば、中学生年代の街クラブでも専業指導者の例がある。しかしバスケはそもそも5人制の少人数競技で、指導者がその対価で生活費を賄うのは難しい。月3万、4万の負担を親に強いるとなればそれも厳しい話だ。

堀田代表は今大会の準々決勝を1月6日の19時過ぎに終えると、すぐ自宅に車で帰った。翌7日は午前4時から8時半まで家業の「和菓子菊花堂」で仕事に励み、11時半開始の準決勝に戻ってきた。全国2位のクラブチームでも、そのような仕事と競技の二刀流で回している実態がある。トップエリートの育成は「バスケが好き」という愛と献身に支えられている。

徳島はクラブ単独の活動

RIZINGS(ライジングス)徳島も、大きなインパクトを残した街クラブだ。3回戦では十川虎之介が34点を決め、優勝候補と見られていた四日市メリノール中を下している。準々決勝はNLGインフィニティに敗れたものの56-58と善戦。「最後のシュートが入っていれば逆転勝利」というスリリングな展開だった。

ここは発足3年目で、NLGインフィニティ以上に謎のあったクラブ。気になって声をかけた筆者に、代表も務める十川佳司ヘッドコーチは説明してくれた。

「ウチは中学校でやっていた子が来るチームでなく“クラブだけ”です。練習は週4、5日はやっていて、土日が入れば週6のときもあります」

中学生年代の受け皿を親が用意

十川代表は十川虎之介選手の父で、阿波ミニバス(小学生年代)の指導者として四国大会優勝などの結果を残していた。しかし小学生年代が強かったとしても、中学校のバスケ部が盛んとは限らない。徳島には越境入学の仕組みもなく、彼らの受け皿探しが大きな課題だった。

「外部コーチを認めてくれませんか?という動きもした」

そんな十川代表だが、調整は不調に終わる。そこで彼はクラブチームを立ち上げた。ライジングス徳島は県中部の阿波市と吉野川市をメインに活動し、公共の体育館を使って夜に2時間程度の練習を行う体制だ。代表も別に仕事を持ちながらのボランティア。月謝は3ヶ月1万円で「体育館代だけで全部なくなります」という額だ。他競技も含めた一般的な習い事の水準を考えれば、激安と言っていい。

十川虎之介はドライブとシュート、バスケIQに優れ、181センチの身長でPGも難なく務まりそうな有望プレイヤー。彼はU15年代を卒業すると、近畿の強豪校に進む予定だ。しかしクラブの活動はまだまだ続く。十川代表に今後について問うと「もちろん、絶対やります!」と力強く言い切っていた。

十川虎之介選手(RIZINGS徳島)写真提供=日本バスケットボール協会
十川虎之介選手(RIZINGS徳島)写真提供=日本バスケットボール協会

成績で街クラブの価値を示す

ただしライジングス徳島は群馬と違って地元の中学校、中体連から理解を得られているとは言い難い状況に置かれている。だからこそ、彼らにとってJr.ウインターカップは大きい意味を持っていた。

十川代表は強調する。

「こんなレベルの高い、面白味のある大会って日本中どこを探してもないと思うんです。川島(悠翔/NLGインフィニティ)くんなんかすごいじゃないですか。日本のトップスターが来て、ウチと試合をできた。今はしんどい状態ですけど、僕ら街クラブの頑張りで、ちょっとはランク付けを変えられる。今回ベスト8に入れたことは、そういう意味でよかったです」

念のため補足するとNLGインフィニティ、ライジングス徳島がクラブチームの「典型例」ではない。部活を終えた選手の受け皿として用意されたチームや、週2回程度の活動というチームも珍しくない。また県の選抜チームがクラブとして参加した例もあると聞いている。今年度はコロナ禍の影響でそのような形態が難しくなっていたものの、昨年度は部活OBが「オールスター」的に集まって活動していた街クラブもあった。

都道府県ごとに学校とクラブの関係は千差万別。それぞれの地域、学校と上手く折り合いをつけられる仕組みはどのようなものかーー。バスケ界でも模索はしばらく続くのだろう。

制約が強まる中学の部活動

大きく変容しつつあるのは中体連(部活)も同様だ。日本バスケの強化を主に支えてきたのはもちろん学校だが、今は教員と生徒のオーバーワークが問題視されている。そして時短の動きも強まっている。第1回大会を制した秋田市立城南中の栄田直宏監督は決勝後にこう説明していた。

「昨年度から平日が1日休み、週末も3時間で土日のどちらかでやっています」

クラブも部活も文武両道は大原則で、練習が長ければいいわけではない。ただ中学生年代の普及・育成を教員に丸投げできない状況は確実に強まっている。また少子化の影響は強く、今回の徳島のような「意欲と能力のある子の受け皿をどう確保するか」という難題もある。

バスケ界で街クラブをどう支えるのか?

今の状況下で街クラブ、Bリーグのアカデミーは有望な選択肢で、実際にクラブチームは増加傾向にあるという。しかし会場と指導者の確保が難題で、NLGインフィニティの堀田代表も「3年続くチームはなかなかない」とこぼす。

まだ地位が確立していない、不安定な状況にある街クラブに光を当てたJrウインターカップは貴重な大会だった。しかし「無償の愛」「献身」は際限なく要求できない。もちろん部活とBユースの役割は大切だが、サッカー界はJユースがエリートコースになった今も街クラブが大きな役割を果たしている。それは新しい制度と大会が用意されたバスケでも同様だろう。

スポンサー営業の支援、用具の提供、会場確保の援助とどんな形でもいいーー。日本バスケットボール協会がこういった街クラブをフォローする方法はないだろうか?そんな思いが強く浮かんだ第1回Jr.ウインターカップの取材だった。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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