高校球児の埋もれた可能性を引き出すために 滋賀レイクスターズのシーズンスポーツスクールが持つヒント

西村大介・滋賀レイクスターズ社長:クラブ提供

他競技より「引退」が早い高校野球

8月6日、甲子園球場で全国高校野球選手権大会が開幕した。しかし出場49校を除くと、高校3年生は7月中に「引退」している。

他競技を見るとバスケットボールは12月、サッカー、ラグビー、バレーボールは1月に高校の全国大会がある。日本サッカー協会はシーズンをなるべく伸ばすスケジュールを組んでいて、プレミア、プリンスなどのリーグ戦も寒冷地を除くと12月まである。それに比べると高校野球は半年近くシーズンが短い。

さらにこの国では複数競技の掛け持ちが一般的でなく、高校野球は選手をグラウンド外まで縛りたがる傾向が強い。プロ野球の「みやざきフェニックス・リーグ」のような秋季リーグを高校生用に創設しても面白いし、他競技へチャレンジしてもいい。しかしそういうキャリアの多様性、柔軟性がない。

一つのチームが長く時間を共にし、人間として強く結びつき、共に泣き笑う情緒は学生スポーツの魅力ではある。ただ、それが選手の可能性や視野を狭めているなら問題だ。

アメフト経験を活かすバスケ選手

筆者はバスケをよく取材しているが、アメリカ人選手に対してよく聞く質問がある。それは「バスケ以外の競技歴」だ。

今季からレバンガ北海道でプレーするマーキース・カミングスは、試合中に「豪速球」をレフェリーに返していた。テイクバックが小さいにも関わらず、一直線で受けての胸に届くボールを見てピンときた。

「もしかしてクォーターバックをやっていたのか?」と問うと返事はイエス。ジョージア州内の高校で活躍し、アメリカンフットボールの選手として複数の大学から奨学金のオファーが舞い込むレベルだったという。

シーホース三河のアイザック・バッツは208センチ・134キロの巨体で、Bリーグ屈指のリバウンド獲得力を持つ選手。彼も高校時代はオフェンスラインの「要」としてクォーターバックをガードするレフトタックル(LT)などのポジションでプレーしていた。

バッツはこう述べていた。

「ラインマンはフットワークが大事になってくるので、それはバスケに生きていると思う。スピン(反転)などの動きをリバウンドのプレーで生かしている」

B1滋賀がシーズンスポーツスクールを開校

マルチスポーツの経験はアスリートとしての引き出しを広げる。スポーツでは野球の投球動作が典型だが、一つの動きを「続けすぎる」ことによる副作用も大きい。食事と一緒で「偏りなく、色んなものを吸収する」バランスが大切だ。もちろん野球の練習の中で色んなメニューをやればいいのだが、他競技のリソースやノウハウを生かしたほうが効率的だろう。

しかし日本は中学時代に陸上、スキーなどで全国レベルの活躍を見せた選手でも、高校は「野球だけ」になる例が多い。この傾向は野球に限った話ではない。水泳、テニス、体操など民間スポーツクラブが育成の中心で、世界レベルの選手が多い種目も「一意専心タイプ」が多い。

そんな中で滋賀レイクスターズが今年4月からユニークな取り組みを始めている。Bリーグ1部(B1)で活動するプロバスケチームだが、傘下の公益財団法人でバスケ、陸上、レスリング、カヌーのスクールを運営している。1年を4つのシーズンに分けて複数の競技に取り組む「シーズンスポーツ」「マルチスポーツ」の仕組みだ。

埋もれた才能を探した社長の経験

レイクスターズの西村大介社長は京都大学のアメフト部で監督を務め、選手としても日本代表の経験を持つ。中学、高校時代はバスケットボールの選手で、兄の影響もあり大学からアメフトに転じた。

彼はこう振り返る。

「高校に入って背が178センチまで伸びましたけれども、大学に入ったときは65キロだったんです。卒業するとき105キロだったので、4年間で40キロ増えました」

新しい競技、新しいトレーニングと出会うことで、一人の若者の可能性が拓けた。アメフトは大学から始める選手の多い種目で、国立の京都大学はもちろんスポーツ推薦で選手が獲れない。そんなチームが日本一を目指すわけだから、指導者はあらゆる競技の県大会、府大会を視察し、埋もれた才能を探すことになる。

西村社長は京大の監督時代に全国各地の進学校を回り、野球部の練習を見る機会が多かった。

「当たったら全部ホームランみたいな選手がいるんです。『彼はいいですね』と言ったら、監督さんが『あいつは球に当たらへんから、あかんねん』と(笑)そういう選手を口説くのが一番簡単です。バットに140キロぐらいのボールを当てるセンスがないだけで、その子はアメフトでなくても、ラグビーや柔道をやっていたら多分すごいだろうなと」

まずスポーツを「好き」に

日本は高校野球に限らず埋もれた才能を拾い上げて、気づきを与える仕組みが乏しい。もっともアスリートにとって最大の才能は「好き」という気持ちで、それは押し付けから育つものでない。

西村社長はこう述べる。

「スポーツで夢中になって、スポーツを好きになってほしいと思っています。その中でプロやオリンピック選手になれるのは、はっきり言って1%。好きという気持ちを持って、さらに才能の特別にある人たちが、最後にプロとして残っていけばいい。向いているのはいいんですけれども、これが楽しいか楽しくないかはまた別です。イチロー選手が引退会見で言っていましたけれど、夢中だからしんどいことも乗り越えられる。だけど『向いているからやれ』で本当にオリンピックのところまで行くかというと、多分そうじゃない」

また「やらせすぎ」も弊害が大きく、だからこそレイクスターズはシーズンごとに種目を分けている。塾に通い、同時並行で複数のスポーツをして、他の習い事もする…という多忙な生活が小学生にとっていいとは思えない。そこは留意するべきポイントだ。

とはいえ小学校、中学校、高校などの段階で相性や適性に気づき、複数の選択肢から全力で打ち込める競技を発見する環境があれば、日本のスポーツ文化は豊かになるだろう。

「挑戦をさせて失敗をさせること」が大事

西村社長は裏面からもマルチスポーツの価値を見ている。彼は京大で現役学生と触れる機会を持つ中で「失敗経験の少なさ」を強く感じていたという。スポーツ、人生関係なくチャレンジに尻込みしてしまうメンタリティーを学生から見出していた。

「一番大事なのは、挑戦をさせて失敗をさせることだと思うんです。ずっと京大の監督をして思ったのは、適切な成功体験と適切な失敗体験のバランスがいかに大事か?ということです。失敗して、失敗しても大丈夫と思わせることが大事なんです」

それはシーズンスポーツの取り組みにもつながる。

「僕はシーズンスポーツのスクールで、苦手なスポーツをさせたいんです。サッカーがめちゃくちゃ得意な子は、サッカーではリーダーなわけですよね。でも野球をしますとなったときに『おまえ下手くそやから』と言われてほしい。そうすると、サッカーのときに『お前、やめろ』なんて言っていたけど、相手はこんな気持ちなんだと分かる」

大人の世界にもつながる話だ。

「これからは色んな状況ごとにリーダーが変われる組織が強いと言われています。グッドフォロワーになろうと思うと、グッドリーダーじゃないと駄目なんですよね。リーダーはこんな気持ちと分かって、初めていいフォロワーになれるんです。逆もしかりで、フォロワーの気持ちを分かっていないとリーダーになれない。だから(子どもたちには)得意なスポーツだけでなく、苦手なやつもやってほしい」

他競技を知ることで変わる視点

しかし日本のスポーツには縦割り文化があり、人の行き来がない。野球の選手や指導者が他競技から学ぶカルチャーも乏しい。「自分たちの競技が最高」という自負は、ときに視野を狭める壁になる。

西村社長は続ける。

「バスケでもそういう人は結構多いんですよね。なんでBリーグは客が入らないか?と言うけれども、娯楽って相対的なものじゃないですか。映画もあるし、野球も面白いし、サッカーも面白い。それをバスケだけの中で考えてしまう。それは結局スポーツ界全体の悪いところです。自分が最高という思い込みが根にあります」

Bリーグ、Jリーグのクラブ経営者にはなぜかアメフト経験者が多い。スポーツ産業を広く見ても株式会社ドームの安田秀一社長のようなアメフト人の活躍が目立つ。

「アメフトは純正アメフトの人がほとんどいないんです。アメフトもいいし、バスケットもいいし、サッカーもいいってみんなが思っている。そのフラットな感じ方が、多分スポーツビジネスの色んなことをやらせているんだと思うんです」

最後の夏を終えた高校野球の選手たちは、自由に羽を伸ばしてもいいし、受験勉強に励んでもいい。ただし彼らの多くが秘めている可能性が埋もれたまま、人生の中で視野を広げる貴重なチャンスを活かせないまま残りの高校生活を終えるのは少しもったいない。レイクスターズのような取り組みが広がって、徐々に競技間の「壁」が崩れていくことを願いたい。