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B1ライセンスは取れずとも快進撃は続く信州 石川海斗が語った思い

大島和人スポーツライター
石川海斗選手(左) 写真=B.LEAGUE

新指揮官、新加入選手が融合

今季のB2(Bリーグ2部)開幕週に、金沢で信州ブレイブウォリアーズの試合を取材していた。信州の連勝を見て「良いバスケをしているな」と感じたが、ただB2中地区の首位を独走するとまでは予想できなかった。

彼らの快進撃は率直に言ってサプライズだった。信州はレギュラーシーズン残り9試合の山場で、41勝10敗とB2全体の最高勝率を維持している。

しかし3月12日にBリーグが行った発表で、信州は2019-20シーズンのクラブライセンスが「B2」と発表された。既に「3月末までの平均観客数が1500人」というハードルをクリアするメドが立ち、来季からは5千人以上を収容する長野市の「ホワイトリング」にホームも移転する。しかし昨期(2018年6月期)の時点で債務超過を解消できておらず、そもそもB1ライセンスを申請する資格が無かったという説明がリーグからされた。

あれから10日。3月22日の西宮ストークス戦を、宝塚市立スポーツセンターまで取材に行った。

今季の信州はかなり「フレッシュ」なチームだ。勝久マイケルヘッドコーチはもちろん、211センチ・130キロの巨漢ウェイン・マーシャル、ポイントガード石川海斗らチームの主軸を新加入が占めている。彼らがシーズンを通して融合したからこそ、今の戦績があるのだろう。

難敵・西宮とのアウェイ戦を連勝

対戦相手の西宮は昨季にB1を経験し、今季の対戦成績もここまで2勝2敗の難敵だった。しかし信州は87-82で22日の初戦を取ると、23日もダブルオーバータイムにもつれ込む激闘を93-87で制した。

石川はチームのキャプテンで、22日の試合でも第4クォーターに3本連続で3ポイントシュートを決める活躍を見せていた。

彼はチームの強みについて、こう述べる。

「コーチが常々言っているのは日々ステップアップしていくこと。1位という現状に満足せずにできているのが、チームとしていいことなのかなと思います」

ライセンスの件に話を進めたが、石川はこう強調する。

「会社の人たちも一所懸命やってくれたし、僕らが勝ち続けたからこそ今まで許可が下りなかったホワイトリング(の使用)だったりで、市の人たちも動いてくれた。僕らがやってきたことは、間違いではなかったと思う」

その言葉に不満や批判は一切なく、態度も気丈だった。チームの快進撃があるから観客数は増えたし、行政の協力も今まで以上に得られるようになった。2019-20シーズンのB1という一つの夢は消えたが、クラブはこの半年ではっきり夢に近づいている。

「2連覇で昇格」というモチベーション

信州の司令塔はこう続ける。

「僕も来年どうなるか分からないですけど、2連覇をできるチームは他に無い。今年10敗しているけれど、もう1敗もしないチームを作るというモチベーションもある。確かに上がれないのはショックかもしれないですけど、上がれなかったときに僕たちがどうやるか、リーグやバスケットの神様から試されていると思う。僕らはまだ何も成し遂げていないし、チャレンジしていくのが大事。そこがB1であってもB2であっても、やることは変わらない」

クラブの債務超過は2019年6月期までに解消するメドが立っており、クラブは2020-21シーズンのB1を目指すことになる。リーグはもちろん長野県民、メディア、行政、そしてスポンサーも「信州がここで踏ん張れるクラブなのかどうか」を見ている。

今季の戦いについて、彼はこう意気込む。

「僕らは長野県民のために、もっと勇気と希望を与えないといけない。今シーズン勝っていることでワクワクしてくれている人も多いと思うし、みんなも優勝するところは見たいはずです」

石川は最後にこう口にした。

「僕が本当に嫌なのは、ライセンスが降りなかったら負け始めたりして『そういうチームだったよね』と思われることです」

プロ選手の誇り、意地を感じる言葉だった。「ピンチはチャンス」という言葉をあまり安易に使うべきではないが、当事者の踏ん張りさえあれば挫折は人やチームの潜在能力を引き出すきっかけになる。選手のプレーや、アウェイに駆け付けたブースターの後押しからはその「踏ん張り」も伝わってきた。コート内外における信州のカムバックを願いたい。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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