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元NBA、異色のヴィーガンプレイヤーはなぜB2最下位の八王子に加入したのか?

大島和人スポーツライター
1対1を仕掛けるクリアンソニー・アーリー 写真=B.LEAGUE

アーリーは元NBAニックスの27歳

東京八王子ビートレインズは、2018-19シーズンからB2に昇格した新興クラブだ。ただ今季はチーム編成に混乱があり、開幕直後には3選手が相次ぎ他クラブへ移籍。負傷者も相次ぎ「やっと5人が揃う」という状態で試合をした時期もある。11月3日のFイーグルス名古屋戦から、20連敗という「どん底」も味わった。持ち直しつつあるが今もB2中地区、B2全体の最下位(18位)に位置している。

しかし八王子には「元NBA」がいる。クリアンソニー・アーリーは2014年のドラフトで全体34位の指名を受け、ニューヨーク・ニックスで51試合の出場歴を持つ27歳。昨年12月7日のアースフレンズ東京Z戦で「日本デビュー」を飾ると、これまで出場した15試合で平均29.9得点、11.1リバウンドという良好なスタッツを残している。

しかもアーリーは右肩上がりの状態だ。2月15日、16日の広島ドラゴンフライズ戦は、2試合で89点を記録。特に16日は45得点、20リバウンドを記録し、7試合ぶりの勝利(109-67)にも貢献した。

B2にはアーリーを含めて「元NBA」がふたり在籍している。アーリーに加えて広島のカール・ランドリーも経験者だ。ただランドリーは長いブランクの影響もあって、16日の試合では精彩を欠いていた。一方のアーリーはまだ若く、土日の連戦でもしっかり走り回れる。

「速い展開で持ったら誰も抑えられない」

八王子は「しっかり守って速く攻める」チーム。アーリーはそのようなスタイルにもハマっている。石橋貴俊ヘッドコーチはその貢献と成長をこう評する。

「いいディフェンスから走る形をここ1か月くらいやってきていて、それが生きた。クリアンソニー(アーリー)が速い展開で持ったら、おそらく日本では誰も抑えられない。タレントは僕も今まで見たことがないくらいで、シュート力もある。審判に対してのフラストレーションとかで、40分間プレーできない試合も多かったんですが、ここに来てチームにフィットしようとしてくれている。よく我慢できるようになったところが一番の成長です」

アーリーは203センチ・95キロと細身の“スラッシャー”タイプ。鋭く相手の守備を切り裂くドライブは圧巻だ。3ポイントシュートも正確で、空いた味方を使う上手さもある。しかしそんな彼がなぜB1ならともかくB2、しかも最下位のチームに加わったのだろう?

「大学時代のチームメイトも日本でプレー」

一つの理由は友人の情報だった。ウィチタ州立大学の先輩後輩にはカール・ホール、ギャレット・スタツ(FE名古屋)、シャキール・モリス(京都ハンナリーズ)といったBリーグ経験者がいる。またジェームス・サザランド(シーホース三河)とライアン・ケリー(サンロッカーズ渋谷)も、Dリーグ(NBAの下部リーグ)時代に絡みがあったのだという。

もう一つはそのマインドだ。アーリーの話を聞くと「新しい環境」「チャレンジ」に対して前のめりなほど前向きだ。彼はこう強調する。

「違う国、違う文化、違うバスケットの中でやってみたいという思いがあった。B1のクラブからもオファーがあったけれど1部2部というより、新しいチャレンジが魅力的だった。低迷しているチームに加わることを大きなチャレンジと捉えているし、必要とされたのは自分の能力を信じて、期待してくれているから。それをエキサイティングに感じてやっている」

Bリーグの外国籍選手はアメリカ人が大半だが、異文化に対して前向きで、メディアやファンと進んで接しようというタイプが多い。また中にはひとりで10か国以上の在籍経験を持つ選手もいて、おそらく「冒険」そのものを楽しんでいるのだろう。

私生活では絶対菜食主義者

アーリーはブロンクス地区育ちのニューヨークっ子。しかし少年時代に従弟が殺人事件の被害者になり、彼自身も15年12月に強盗に遭った悲しい経験を持っている。日本の治安も彼にとっては魅力の一つかもしれない。

日本食との相性について質問をすると「僕はヴィーガンだ」という答えが返ってきた。ヴィーガンは肉、魚はもちろん乳製品や卵なども口にしない絶対菜食主義者。彼は日本の生活でもバナナ、オレンジ、アボカド、パイナップル、桃、ピーナッツ、カシューナッツといった食品をよく食べ、お気に入りというカレーライスも「肉、卵、牛乳抜き」で注文をする。遠征先ではなかなか自宅と同じような食生活は難しいが「パスタ、キノコなど食べられるものをお願いしたりして対応をしている」とのことだ。

アーリーは大物ではあっても気難しさがなく、「試合後の取材は初めてなんだ」と喜び、熱心に語ってくれた。B2はメディアの数が限られ、しかも八王子がなかなか勝てないから取材のタイミングもなかったのだろう。ただとにかく、その能力と魅力が「知られていない」ことはもったいない。

八王子のホーム開催は4月までにあと10試合残っている。エスフォルタアリーナ八王子は京王高尾線の狭間駅の改札を出て目の前。2階自由席ならば前売1800円(当日2300円)と値段もリーズナブルだ。バスケファンの皆さんは彼を見られるうちに、見ておいた方がいい。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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