Yahoo!ニュース

2年ぶりBリーグ王者に近づく栃木 指揮官と同僚が語る比江島効果

大島和人スポーツライター
比江島慎は1月上旬に栃木へ合流 写真=B.LEAGUE

求められた栃木への適応

比江島慎と栃木ブレックスにどのような「化学反応」が生まれるか――。そこを楽しみにしていたバスケファンは少なくないだろう。28歳の彼は190センチ・88キロのアウトサイドプレイヤーで、ニック・ファジーカスや渡邊雄太、八村塁が合流する前は間違いなく日本代表のエースだった。スムーズな緩急でズレを作る独特のドリブルは、国際舞台でも大きな武器になっている。

彼は1月上旬に栃木へ加わり、既に9試合を消化している。オーストラリアNBLへの挑戦が不首尾に終わり、ブリスベン・ブレッツからカットされたことは不本意だったはずだが、一方で栃木にとっては大きな助けとなるだろう。

栃木は9日、10日の渋谷戦を連勝し、レギュラーシーズン60試合中の40試合を終えた。32勝8敗は東地区首位の千葉ジェッツと1勝差で、B1全体で見ても2位に勝率を叩き出している。もっともチームが万事順調というわけではなく、今も田臥勇太が腰痛、喜多川修平は右膝前十字靭帯断裂で戦列から離脱中。ケガ人の影響で主力のプレータイムが増え、一時はかなり厳しいやり繰りにも追われていた。

加えて比江島が2017-18シーズンまで所属していたシーホース三河と栃木は、スタイルが大きく違う。三河は無理をせずじっくりと戦うスタイルだが、栃木の売りはタフな守備からの速攻。もちろん彼が加入当初からすんなりフィットしたわけではない。

「これで日本代表なのかなと思いました」と指揮官

安齋竜三HCは多少の「辛味」をまぶしつつ、こう振り返る。

「ディフェンスもリバウンドもルーズボールも、来た当初はボケっとしていることも多かった」

比江島自身もこう述べる。

「それは自分でも感じている。リバウンドから走ってブレイクという(栃木の)プレースタイルがある。今でもたまに気が抜けてしまって、取られた後にハッとなることはあるんですけれど、入ったときよりはだいぶ減りました。それは今後、代表に活かしていけると思う」

92-79と勝利した10日の渋谷戦後も、彼は守備面の反省を口にしていた。具体的には渋谷のロバート・サクレに対して、ヘルプで「寄り過ぎた」という判断の部分だ。これにより外からのシュートに対するケアが遅れ、第3クォーター中盤は自身がマークしていた広瀬健太に、2本の3ポイントシュートを決められてしまった。

比江島はこう悔いる。

「(コーチから)寄り過ぎと言われたし、やられた後に自分もそう思った。相手に合わせてディフェンスのスタイルも変わるので、アジャストしないといけない」

ただ彼は対人守備力も元々かなり高い選手。栃木の強度や戦術に慣れれば、さらにそれを活かせるだろう。

「三河のときよりも楽に点は取れます」

攻撃面について、安齋HCは比江島をこう評する。

「点数を取れなくても、フラストレーションが溜まっていないのは見ていて思う。オフェンスで“彼のため”にというのは考え過ぎなくていい。それはこの9試合くらいで思いました。能力は元々高いので、オフェンス力は勝手に上がると感じています」

比江島はシュート力が高く、自分が空いていればしっかり決められる。10日の渋谷戦も2ポイントシュートが5分の4、3ポイントは2分の1という成功率だ。一方で得点を過剰に欲しがらず、取れなくても焦らず、守備が寄って来ればボールを巧みにさばけるタイプでもある。だから指揮官が「比江島に取らせるオフェンス」を用意する必要はないし、彼に合わせてチームを調整する手間もかけずに済む。

今の彼は三河時代に比べてボールを運ぶ、最初の攻め手を作る負担が減っている。むしろ比江島が仲間に作ってもらったスペース、チャンスを利用する側に立てる場面も多い。ある意味で見せ場は減ったわけだが、チームとしてそれは悪くない状態だ。

比江島はこう口にする。

「栃木は自分がズレを作らなくても、ロシターだったりジェフ(ギブス)だったりもそれができる。三河のときよりも楽に点は取れます。でももちろん自分がそういったズレを作らなければいけない時間帯もあるし、メンバーに合わせて今はやっています」

チームメイトが語る比江島効果

遠藤祐亮は外国籍選手ともに、今季の栃木で主軸を担っていた。しかし9日が17分16秒、10日は25分49秒とプレータイムが直近の2試合は減っている。

遠藤はこう説明する。

「昨日はみんな(の出場時間が)20分ちょっとでしたが、そうなるとディフェンスの強度も上がるし、オフェンスもアグレッシブにできる。40分間(強度の高い栃木のバスケを)やり続けようとずっと昨シーズンからやっているけれど、ああやってローテーションできると、それができる」

遠藤は攻撃面の“比江島効果”も強調する。

「彼がトップ(中央)でピック&ロールとかをしてくれると、相手が引き寄せられるので、コーナーで待っている側は自分のタイミングでシュートを打ちやすい。ディフェンスに関してもう少しコミュニケーションが必要なのかなというのはありますけど、彼が入ってチームがいい方向に向いているのは間違いない」

比江島はどちらかと言えばシャイなタイプだが、オフコートの“連係”も上がっている。10日の試合後に取材を受けていると、ライアン・ロシターがその様子を覗きに来た。

「ロシター記者」はちょっかいを出す感じで、比江島に「このチームでお気に入りの選手は誰か?」と質問をぶつける。すると比江島は「ジェフ(ギブス)」と即答し、ロシターは「もうお前には二度とスクリーンをかけない!」と言い返す。そんな茶番からも、彼の馴染みぶりが伝わってきた。

その能力に疑いはないが、栃木のカルチャーで強みをさらに広げている。加えて彼はチーム全体の強みを引き出す触媒となりつつある。B1のレギュラーシーズンは11日から中断し、日本代表の活動期間に入る。今週末の比江島からは、ワールドカップ2次予選のラスト2試合となる2月21日のイラン戦、24日のカタール戦に向けた明るい兆しも感じ取れた。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

大島和人の最近の記事