Bリーグ金沢武士団・中野社長が語る 一石三鳥を目指す画期的な新アリーナ構想

中野秀光・金沢武士団社長:筆者撮影

ハコモノ問題の根底はプロデューサー不足

この国のスポーツ界は「ハコモノ不足」に苦しんでいる。大きな理由は予算の制約だが、それがすべてではない。無視するべきでない要素は「人」だ。ニーズを発掘してリソースも集め、上手く調整するプロデューサーが日本は少ない。だからハコモノは増えず、完成しても上手く有効活用されない――。それはスポーツにとどまらない、文化活動全般の問題だろう。

公民の両セクターを股にかけ、プロデューサー的な役割のできる数少ない人材が、Bリーグ2部・金沢武士団(サムライズ)の中野秀光社長だ。小千谷青年会議所時代の1996年には彼が中心となってNBAのOB選手を新潟県小千谷市に招き、デモンストレーションゲームを開催。2004年に請われて新潟アルビレックスBBの社長に就任し、07年からはbjリーグ本体の社長へ移った。

bjリーグは2016年をもって活動を休止し、各クラブはBリーグに合流していった。中野はそんな節目の同年夏、当時B3だった新興クラブ金沢武士団の社長に就いた。彼はこう振り返る。

「自宅も長岡で買ってしまいましたので、戻る準備に入っていました。ただ私はbjで『地域をスポーツで元気にする』プロジェクトの中にいました。金沢武士団は財務的に苦しい球団ではあるけれど、そこを復活させる施策を作り上げれば、私がお世話になった全国のチームの役に立つ――。そんな思いでした。もう60歳なので、ある程度でき上がっているB1のアルビBBに戻る方が良いに決まっているんですけれど、何だか血が騒いでしまいました」

金沢武士団が抱える経営面の苦しみ

金沢武士団はbjリーグにおける24番目のクラブとして、Bリーグ発足の前年に立ち上がっている。Bリーグの初年度は、全国リーグの中で最も下に位置するB3で迎えた。B3では23連勝も記録する快進撃を見せ、ライジングゼファー福岡とともにB2昇格に成功。2017-18シーズンのB2も、28勝32敗の中地区(6チーム中)4位で残留を果たしている。

一方で経営面ではシビアな現実にも直面している。今期(2019年6月期)は黒字化のめどが立っているとのことだが、昨期まで赤字決算が続いていた。債務超過も2億円以上残っている。債務超過のままでは、B1ライセンスの取得が認められない。

部外者から見て同情するべき部分も少なからずある。金沢武士団はクラブの立ち上げによる初期投資がまずあり、bj、B3、B2と3季連続でカテゴリーが変わった影響による負担も大きかった。それぞれのリーグには参入金負担があり、加えてB2に昇格した昨季は会場確保に苦しんだ。金沢武士団もB3のスケジュールに合わせて会場を抑えていたが、B2昇格に伴う急遽の対応が必要となった。開幕4か月前に抑えられるのは必然的に条件の悪い、小さな会場が主になる。

中野社長もこう経緯を説明する。

「体育館はどこも駄目でしたね。金沢市総合体育館は一番お客さんの入る会場ですが、去年は(30試合中)6試合しかできませんでした」

また昨季の善戦により、選手の価値は必然的にアップした。B2の得点ランク3位に入ったアンドリュー・フィッツジェラルドは愛媛に移った。大型センターのウェイン・マーシャルが信州、司令塔の月野雅人は仙台に引き抜かれた。バスケに限らない話だが、スモールクラブが人材を留め置くことは容易でない。

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金沢武士団の選手たち 写真=B.LEAGUE

アリーナで住民サービス、選手のキャリア作りも

一方でクラブの夢に陰りはない。中野社長は苦しい台所事情の中で、未来に向けた次の一手を構想している。それは新アリーナの建設だ。

金沢市内では現在、民間主導で5千~1万人を収容する規模の大型アリーナを建設する計画が進行中だ。最短で2022年度末の開業を目指している。

武士団の構想はこれと全く別のプロジェクトで、クラブは別の自治体と話し合いを進めでいる。計画はまさに現在進行形で、議会の審議や承認がない限り正式決定ではない。現段階では市町村名も明らかにされていない。ただし中野社長が「実行にかなり近い状況」と述べるように、官民連携で首長や実務者との話し合いは進んでいる。金沢市との関係も断たれるわけでなく、「引き続いて応援する」との後押しを得ているという。

中野社長は明かす。

「十年近くは5千人程度のお客様で満員になるレベルを目指すのが現実的ではないかと思います。既にスポーツ施設を考えておられる近隣の市町村があって、仕組みも含めて計画を練っています。他球団の手本となれるような、しっかりスポーツで稼ぎ、住民のサービスのレベルをアップする施設を追求したい。選手のキャリア作りに寄与できる仕組みも考えています。4年以内の完成を目指すイメージを持っています」

金沢武士団の新アリーナは、B1のライセンスを満たす収容人員(5千人)を確保する見込みだ。建設の主体は民間で、自治体にリースをするPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ=公民連携)が検討される。5千人規模のアリーナ、体育館は何十億円という規模の建設費が必要となるものの、中野社長は「民間が建てることによって、かなりコストを下げられる」とコストコントロールの手応えも口にする。

もっともアリーナをBリーグの公式戦で使用するのは年30日。仮にポストシーズン、プレシーズンで使用するとしても、最大で40日以内だろう。「プロバスケ以外でどう施設を有効活用するか」が実は採算性確保の大きなカギになる。

先行する長岡のアリーナは稼働率90%

中野は新潟時代に複合型アリーナの建設に関わった実績がある。それはアルビBBのホーム、長岡市シティホールプラザアオーレ長岡だ。2012年春にオープンした施設だが、彼は長岡市の森民夫市長(当時)からホームアリーナ化の相談を受け、施設の有りように関する議論でも協働関係にあった。アオーレは長岡駅から至近の好立地と、運営するNPO団体の手腕もあり、約90%の稼働率を誇っている。

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アオーレ長岡のエントランス:筆者撮影

彼は新アリーナについても同じように「市民目線で午前中、午後、夜、深夜と四つに分けて1日四毛作をしたい」と有効活用を目論んでいる。

社会にはバスケ観戦に止まらない様々なニーズがある。アリーナは多目的な利用が可能で、イベントや集会、防災拠点といったスポーツ以外の用途も多い。またスポーツクラブは専門性を持った人材を集結させる「箱」となり得る。ニーズを上手く吸い上げられれば、これの有効活用に結び付く。中野社長はまず学校を例に挙げる。

「学校は部活動で困っています。必修授業であるダンスを教える先生方もあまりいません」

近年は“ブラック部活”という表現をよく目にするが、運動部の活動が生徒以上に教員の大きな負担になっている現状がある。中野社長は新潟県内の中学校でバスケ部の顧問をしている息子からヒントを得たと振り返る。

「朝早く出て夜遅く帰ってくるし、土日はほとんど部活動で時間を割かれる。そうすると奥さんは部活難民みたいになる。そこを何とかサポートする方法はないかなと思います」

『チア☆ダン』の卒業生がダンス指導も

例えば中学校にあるバスケ部の練習の何割かを、金沢武士団OBの外部コーチが指導できれば「三方一両得」の状態になるだろう。指導レベルは同等以上だし、教員の負担も軽減できるからだ。体育館のフロアが足りず屋外で練習をしているバレー部、バスケ部もアリーナを活用すればいい。保育園のバランス運動、リズム運動などの指導に選手やスタッフが関わることも社長は想定している。

ダンスはプロバスケ興行と関係の深いジャンルで、今は学校教育の中にも入っている。この部分では映画『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』でもおなじみの福井商業高の卒業生と、金沢武士団を連携させる構想が進んでいるという。中野社長は明かす。

「知り合いだった福井商業高校の五十嵐裕子先生から、全米選手権を5連覇したウチの卒業生たちに、夢を見せることができませんか?というお話を頂きました」

彼女たちのチアダンスの実力は折り紙付きだが、日本は卒業後にそのスキルを生かす場が乏しいという現実もある。試合時のパフォーマンス、地域の子供への指導など、職業として成り立つ場と収入を提供できれば、双方にメリットが生まれる。

彼はこう説明する。

「(チアダンの卒業生が)保育園児にダンスを教えることもできますし、引退した選手がバスケを教えることもできる。学校の部活動も含めて、お互いの困っていること、相思相愛でやれることを探し続けて、それをマッチングしました」

市民サービス向上とクラブ経営拡大を両立

選手やスタッフ、チアの参画により住民サービスの質が上がり、クラブは市からその対価を期待できる。彼はこう説く。

「体育館の使用料や職員の給料が、かなりサポートされます。その代わり職員は勉強をして、バスケのクラブ運営だけでなく、市民サービスに努めなければいけません。年間に30試合しかないので、あとの330日は営業に行ったり準備をしたりして使いますが、330日を市民サービスにどれだけ掛けられるかになります。稼働率、効率の良い仕組み作りを今考えているところです。そして健康寿命の延伸だとか、中学生、小学生、保育園児の授業に貢献したい」

金沢武士団が関わるのはアリーナ「だけ」ではなく、野球場、多目的グラウンドなども含めた施設全体の運営だ。新たに外部の専門家も加えて、SPC(特別目的会社)形態の運営会社を設置する予定だ。金沢武士団の正式な社名は「北陸スポーツ振興協議会株式会社」だが、将来的には他市町村で予定されているアリーナも取り込み、オール石川で一体化した効率的な運営を行っていく構想もある。

地元出身のスター選手を呼び戻せるクラブに

あまり知られていない話だが、石川県はバスケの盛んな地域だ。ただし進学、就職などの節目で、他県に人材が流出していた。例えば千葉ジェッツの大野篤史ヘッドコーチは1992年の全国中学生大会を、野々市町立(現市立)布水中の一員として制している。彼は愛知県の愛工大名電高に進んだ。

将来のBリーガー候補が集結する関東大学リーグにも、ルーキーながら東海大の司令塔として今季の優勝に貢献した大倉颯太(布水中→北陸学院高)や、197センチの大型ガード赤穂雷太(七尾東部中→市立船橋高→青山学院大)といった石川の“ご当地選手”がいる。クラブは新アリーナの完成に合わせたB1ライセンスの取得を目指している。その時点で石川出身の有望選手を呼び戻せる経営力、人気を持ったクラブになっていることも、中野社長が持つ夢の一つだ。

新アリーナが持つ大きな意義

日本バスケットボール協会は「バスケットボールで日本を元気に」という理念を掲げている。選手の全力プレーが不可欠だし、魅力を知ってもらうための努力も必要が、バスケの枠をはみ出した取り組みが理念の成就には必要だ。Bリーグのクラブが「ニーズを発掘し、結び付ける」という媒介になれれば、それは素晴らしい地域貢献だ。

今回の新アリーナ構想が持つ本質的な価値は、クラブ、ブースター、市民の三者のすべてメリットが生じる一石三鳥の仕組みだ。クラブと自治体に依存する一方的な関係から、価値を提供して対価を受け取る双方向関係への進化は、経営的な拡大にもつながる。金沢武士団の先行事例が軌道に乗れば、他クラブもお手本として活用するだろう。Bリーグ、プロスポーツがまだ残している可能性を感じた、中野社長の取材だった。