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実力も資金力もほどほど…。改革が遅れ、他球団への優位性が消えた巨人軍の進むべき道は?

大島和人スポーツライター
まもなく築30年を迎える巨人の本拠・東京ドーム(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

指導者不足を招くグラウンド内の先進性消滅

来季の読売ジャイアンツ(巨人)監督に、原辰徳氏(60歳)が決まった。原監督は2002年から2シーズン、2006年から10シーズンとのべ12年に渡って巨人の指揮を執っていて、これが4年ぶり3度目の監督業となる。かつては「若大将」と言われた原監督も、今や還暦。彼の実績に疑いの余地はないにせよ、人材不足の感は否めない。

前世紀に比較すると、巨人の競争力はあらゆる面で落ちている。

彼らは1934年に活動を開始したNPB最古の球団で、同年の日米野球を戦った全日本チームをルーツに持つ。代表チームを起源とする彼らは、他の地方球団と一線を画する存在であり続けてきた。戦後も川上哲治監督、牧野茂ヘッドコーチの下でドジャース戦術を導入。広報やトレーニングコーチの採用など、今では常識となっている施策も取り入れた。そのような先進的な取り組みが奏功し、1965年からはセ・リーグと日本シリーズを9連覇(V9)している。

「ON(王貞治・長嶋茂雄)」の活躍がV9の主因となったことは明らかだが、仕組み作りや野球の内容でも彼らは先行していた。事実、V9メンバーは引退後も指導者として各球団から引っ張りだこだったし、巨人が持つ自前の指導者へのこだわりも不自然ではなかった。それは彼らが個人能力でなく「チームで野球をしていた」ことの証明だろう。

しかし広島のセ・リーグ3連覇を許し、4年連続で優勝を逃している直近の戦いを見て、今の巨人に先進的な野球をしている印象は無い。菅野智之、坂本勇人、岡本和真のような素晴らしい選手を育ててはいるが、かつてのような他を圧する激しい競争はない。

FA制度を有効活用できず

補強も彼らの助けになっていない。NPBは1993年にフリーエージェント(FA)制度を導入し、巨人はこれを積極的に活用した。落合博満、広沢克己、清原和博、工藤公康、小笠原道大といった超大物が、次々に巨人の門を叩いた。しかし今の巨人はFA制度を有効に活用できていない。過去5年で9選手を獲得したが、率直に言って全員小粒だ。

野茂英雄が1995年にドジャースへ加入してから、日本のトップ選手はメジャーリーグに目を向けるようになった。巨人がチームを一変させるような、例えばイチロー、ダルビッシュ有、田中将大のような人材をFAで獲得できない時代になっている。

更に巨人が持っていた資金力のアドバンテージも消えている。かつて巨人戦中継は平均20%前後の視聴率をキープする人気番組で、2000年代の中盤までは地上波キー局が全試合を生中継していた。今もBSやCSの放送は行われているが、放映権料の評価は大きく落ちている。

放映権料が減少 親会社も強みにできず

視聴率が高ければスポンサーは集まり、放映権の価値は上がる。かつてはそれが1試合1億円と推定されていて、巨人戦中継は読売グループの経営を潤す存在だった。今も巨人軍は人気球団の一つだが昭和末期、平成ゼロ年代ほどの「稼ぐ力」「利益を生む力」は既にない。

加えて強力な親会社という強みも相対的に消えている。読売は日本を代表するメディアグループで、プロ野球球団の保有による経営的なシナジー(相乗効果)も持っていた。巨人によって新聞の購買数、テレビの視聴率が上がり、それが巨人の宣伝になるというサイクルがあった。

ソフトバンクや楽天、DeNAといった新興のIT系親会社は単純に収益力が高く、投資や新しい取り組みに対してアグレッシブだ。読売新聞とは違う形のシナジーも持っていて、高い改革力を発揮している。また新聞やテレビといったオールドメディアに比べて、明らかに業界として成長性が高い。

外部人材の導入で経営力を高めた他球団

2000年代中盤に入り、NPBの各球団は経営体質を一変させた。親会社の天下り、グループ内のローテーション人事でなく、他業種からスポーツビジネスに対して高いモチベーションを持つ人材が流入するようになった。彼らの活躍によりプロモーション、ファンサービス、スポンサー開拓、グッズ拡販、チケットセールスなどで「スポーツビジネス」の体裁を整える球団が増えた。親会社に依存し、年に数十億円という単位の資金注入を当然視していた球界の体質が変わり、各球団は自前で稼ぐ力を身に着け始めた。

巨人は経営体質の刷新で後れを取っている。マスメディアは官公庁、バブル以前の都市銀行などと似た経営体質がある。要は社内に分かりやすいエリートコースがあり、その中でリーダーを選別するカルチャーだ。読売新聞ならば政治部が本流で、運動部や巨人軍のトップもそこから出ることが多い。一方でそのような「昭和型エリート」のゼネラリストが、今のNPBで手腕を発揮できるかは大いに疑問だ。

IT系企業は中途採用やM&Aを通して成長を遂げた企業が多く、外部人材を生かす発想が強い。意思決定が遅ければ淘汰されていく業界でもあり、スポーツビジネスのような「フットワークの軽さ」を求められる業種と親和性が高い。しかし読売グループに今からそのような経営体質への変化を求めるのは現実的でない。資金力、経営力で巨人は後れを取り始めている。

最大の課題はスタジアム問題

巨人が抱えている最大の課題はホーム球場だ。2005年以降にNPB各球団が急成長を遂げた大きな理由はスタジアムビジネスの成功だ。近年はよく「ボールパーク」という言葉を目にするが、球場の演出や物販、飲食などに力を入れる球団が増えた。それには球場を自前で所有すること、もしくは指定管理などの形で自由度の高い形で運営することが前提だ。

巨人は株式会社東京ドームに球場を借りる立場で、スタジアムビジネスに開拓の余地がない。経営面でNPBのトップを目指すならば、巨人にも球場を買い取ったソフトバンク、DeNAや、新設を目論む日本ハムのような投資が必要だ。

もう一つの大きな課題はブランディングだ。巨人は球界の盟主として、多くのファン、そしてアンチを引き付けてきた。「金満」と揶揄されることもあったが、良くも悪くもキャラクターが明確だった。

巨人に必要なアイデンティティ

今の巨人は強くも弱くもなく、そこまでお金があるわけでなく、地域性も乏しい。勝利は最大のファンサービスだが、常勝チームとして君臨することも今の体制のままなら無理だろう。となれば何をチームのアイデンティティにして、どういう層にアプローチするのか、新たな戦略を立て直す必要がある。

読売グループ、巨人を引っ張った渡辺恒雄という強烈な個性は現在92歳。結果的にそれが誤りだったことは後の歴史が証明しているものの、彼は「球団削減」「1リーグ化」というビジョンと実行力、発信力をともかく持っていた。今の読売グループからはまずビジョン、意思が見えてこない。

もちろん巨人には偉大な歴史があり、高い認知度がある。しかし歴史がしがらみとなり、成功体験がブレーキとなり、多くの面で他球団の先行を許している。彼らが強みとしていた要素の多くが失われている今、チームは明らかに落ち目だ。

一方でピンチは改革のチャンスで、危機意識は実行の後押しになる。このタイミングで彼らがどういう手を打つのか、スポーツファンの一人として注視したい。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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