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東芝からDeNAにオーナーが移った川崎ブレイブサンダース。説明会から見えた変えないこと、変えること

大島和人スポーツライター
北卓也HC(左)と元沢伸夫社長(右)=筆者撮影

プロ野球経営で実績のあるDeNA

7月4日、川崎ブレイブサンダース(Bリーグ1部)の「事業戦略説明会」が川崎市内で開催された。ブレイブサンダースはオーナーが東芝からDeNAに移り、クラブの進化が注目されている。

新オーナーのDeNAはプロ野球界で既に結果を残している。2012年に経営権を獲得した横浜DeNAベイスターズの集客と収益を大きく改善させた。そのベイスターズの事業本部長だった元沢伸夫氏がブレイブサンダースの社長に就任されることは既に発表されていた。ただしチーム名、チームカラーなどの詳細は、今回の会見で初めて正式に発表された。

チーム名とチームカラーは不変

「川崎ブレイブサンダース」のチーム名と、臙脂(えんじ)色のチームカラーはそのまま残されることになった。東芝のバスケ部が「ブレイブサンダース」と名乗るようになったのは2001年。ラグビー部「ブレイブルーパス」や、野球部「ブレイブアウレス」とともに、“東芝色”の強いネーミングだ。

元沢社長はこう説明する。「違う言葉がいいのではという議論もあったが、私自身の強い思いがあり、(東芝各部が名乗っている)経緯も含めて受け止めて引き継ぎたい。東芝に『この名前をそのまま使わせてもらえないか?』と問い合わせて快諾を頂いた」

チームカラーは元沢社長も当初は変更する考えだったと明かしていたが、ファンへのインタビューを行う中で考えを変え、踏襲の方向が決定。同じ臙脂でも若干明るい色味になったが、新たに「ブレイブレッド」と命名した上で、その踏襲が決まった。

コーチングスタッフ、主力選手も残留

また2018-19シーズンのチームスタッフは8シーズン目となる北卓也ヘッドコーチ以下、全現場スタッフの留任が決定。「彼以上にこのチームを分かっている人はいません。非常にクレバーで、それでいて非常に熱い。僕は最高のヘッドコーチだと思っています」と元沢社長がその力量を認める名将の引き留めも決まった。ニック・ファジーカス、篠山竜青、辻直人といった日本代表選手や長谷川技、藤井祐眞と言った主力選手との契約継続も既に発表されている。

アリーナ内外は大幅に刷新

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2018-19シーズンから用いられるブレイブサンダースの新ロゴ(クラブ提供)

一方でロゴやアリーナ内外の設営、演出などは一新される。アリーナ内には「センターハングビジョン」と言われる吊り下げ式の大型4面ビジョンがコート上に設置される。元沢社長は「ビジョンを使って皆さんが見たことのないようなエキサイティングな演出、仕掛けを行っていきたい」と口にする。

アリーナ入口付近の広場「サンダーススクエア」も大幅な充実が図られる。新たに土日を中心として大型ビジョンを使用したライブビューイングを行うことになった。元沢社長は「チケットを取れなくて中に入れない方、ふらっと広場に来た方がビジョンで試合を見て頂く」と説明する。

アリーナのすぐ脇に椅子や飲食売店を用意し、ビジョンとは言え無料で観戦できる場所を用意するのは“興行の妨げ”にもなりかねず、この構想を耳にしたときは率直に驚いた。「上質な非常識」を標榜するDeNAならではのチャレンジだろう。イベント用のステージ、ポップアップストアと称するグッズストア、仮設のバスケットコートなども設置され、当然ながら飲食の充実も図られる。

目標は土日の常時満員

2018-19シーズンの目標は「リーグ優勝」と「土日開催試合の常時満員」の二つ。ブレイブサンダースはこの2年で集客を倍以上に伸ばしたが、5千人収容のとどろきアリーナが完全に埋まった試合はまだ少ない。

加えてクラブが川崎市とその近隣で行ったアンケートによると、75%以上の認知度を持つ横浜DeNAベイスターズと川崎フロンターレに対して、ブレイブサンダースの認知度はわずか25%。観戦経験率もベイスターズが18.9%、フロンターレが12.8%となっているが、ブレイブサンダースは3.0%に止まっている。しかし元沢社長は「この差がバスケットのポテンシャル。お客様はまだまだ増やせると考えています」と前向きだ。

新アリーナ建設構想も

クラブの中長期的なミッションについては「アジアクラブチャンピオンシップ優勝」「最先端のバスケットアリーナを実現」「年間来場者数30万人」の3点が挙がっている。

「年間30万人」の達成には平均1万人の集客が必要で、これは昨年度の実績から更に3倍以上。とどろきアリーナのままでは達成が不可能な数字だ。

これについて元沢社長は立地や事業主体、資金の調達方法などは未定と前置きしつつ、「川崎の地で何とか1万~1万5千人のバスケットボール専用アリーナを実現したい」と明言した。時期についても確約は避けたものの、「1年目2年目で今のとどろきアリーナはお客様がおそらく入りきれなくなる。5年くらいが持っておきたい時間軸」と述べている。首都圏の施設不足を考えれば、川崎市内の新アリーナがコンサートなども含めて採算の合う投資となる可能性は十分にある。

Bリーグは2016年9月の開幕から2シーズンを終え、右肩上がりの成長を見せている。1990年代、2000年代は有力チームが次々に休廃部する冬の時代だったが、ようやく成長期に切り替わった。そんな中でスポーツエンターテイメントのノウハウを持ち、成功体験を持つDeNAがクラブのオーナーとなることは、Bリーグの飛躍にもつながる楽しみなチャレンジだ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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