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国際バスケ連盟のキーマンが示した、制裁の理由と解決への意思

大島和人スポーツライター

バウマンFIBA事務総長が来日

日本バスケはなぜ、一時的とはいえ国際舞台への道を断たれたのか?JBA(日本バスケットボール連盟)はなぜ、FIBA(国際バスケットボール連盟)から資格停止処分を受けなければならなかったのか?その理由と、不正常な状態を解消しようという強い意志が伝わってくる、バウマン事務総長の記者会見だった。

16日から来日しているFIBAのキーマン、パトリック・バウマン事務総長が18日、JBAとの合同記者会見に臨んだ。「2006年に世界選手権があったときも、これほどの方々は集まらなかったのではないか」(バウマン氏)というほどの、多くのメディアが会場には集まった。100分に及んだ会見には、JBAの梅野哲雄副会長も出席したが、すべての質問がバウマン氏に集中した。

「希望を作る機会として、こういう決断をした」(バウマン氏)。彼がまず強調したことは、11月末に下されたJBAへの制裁処分が、日本の“バスケケットボール・ファミリー”がよりよい未来に向かうためのステップであるということだ。

一方でバウマン氏は、日本のバスケ界に対する失望も隠さない。「06年(の世界選手権開催時)に我々が期待していたことは実現しませんでした。それどころか協会のリーダーが次々に変わってしまい、リーグも2つに分割した状況が続いている。将来へのビジョンのないまま今の状態に至った」(バウマン氏)。過去8年に渡って2つのリーグを統合しようというプラン、動きはあった。しかし彼はそれについても「JBAに様々なアイディアがあったとしても、そこだけに止まっていて、もう一方としっかりコミュニケーションをかわすことができていなかったのだと思う」と辛口だ。

タイムリミットは15年6月

FIBAが改めて設定する日本バスケの正常化に向けたタイムリミットは、2015年の6月。16年のリオデジャネイロ五輪に向けた予選が始まる直前というタイミングだ。日本バスケ改革の方向性を指し示す議論を担うのが、今回新たに設置される“タスクフォース”である。「多くとも10人以下」という構成で、バスケ界に止まらず様々な専門性を持った人材が集められるという。1月末には第1回の会議が開催され、「1か月に1度、もしくはそれ以上」という頻度でミーティングが持たれる見込みだ。バウマン氏を含めたFIBAの担当者も、この“タスクフォース”には必ず参加する。

処分のしわ寄せを受けるのは、協会の幹部でなく、国際舞台でプレーできない選手たちだ。男子代表のみでなく、直近のアジアチャンピオンである女子代表や、アンダー世代の代表までが処分の対象になる。このことについてバウマン氏はこう述べる。「選手に罰を与えるという考えは持っていない。選手のことを考えていない、日本の組織に目を覚ましてほしいという気持ちを持っている」(バウマン氏)。つまり選手により良い未来をもたらすためにも、今の状態を変えなければならないという趣旨だ。しかしリーグの分立をはじめとした日本バスケの膠着状態は、今も先が見えない状況だ。

制裁直前の動きを見ても「最初は(14年)春の終わりくらい、延期して10月末ということで、締め切りの期日を示した」(バウマン氏)というFIBAに対して、JBAは要求を満たすことができなかった。その帰結として「リセットした状態で組織の再構築をお願いするに至った」(バウマン氏)というのが、今回の資格停止処分の背景だ。

世界選手権予選の改革が影響

FIBAがリーグの再統一を急ぐ背景には、国際試合の日程問題がある。FIBAは2019年に第18回世界選手権(ワールドカップ)の予選を、今までのような集中開催でなく、ホーム&アウェイの長期戦に変える構想を持っている。サッカーのW杯アジア最終予選のような仕組みを、バスケでも導入するということだ。となれば各国の協会は、FIBAが設定した予選のスケジュールに合わせて、事前の合宿も含めてリーグ戦の日程を空けなければいけない。とはいえ日程問題は、サッカーでもクラブやリーグと協会の利害が対立するセンシティブな問題。日本のトップリーグの一方が、協会にとってコントロール不能な状態になっていれば、日程調整はどうしても難しくなる。

この問題は育成年代にも及んでいる。バウマン氏が「日本のバスケ界がビジョンを持てていない一つの例。どちらにしても負けてしまうのだから、国際大会でプレーする必要が無いじゃないかという気持ちが表れている。子供や、バスケ以外も含めた選手たちに対して間違えたメッセージを送っている」と厳しく批判したのは、高校生年代の日程問題だ。

U-17日本男子代表は、アジア予選を突破し、14年8月8日からUAEで開催された世界大会への出場を果たした。しかしほぼ同時期に国内ではインターハイが行われていた。決勝に進出した明成高の八村塁、納見悠仁は6日の準決勝まで日本に残り、“ぶっつけ本番”で世界大会に出るという事態になった。インターハイの日程はバスケ界の意向のみで動かせるものでないし、大学進学に当たっての推薦資格など、選手の人生を左右する重要な大会でもある。とはいえ世界大会の価値、意味を軽視していると言われても仕方ない状況が日本のバスケ界、スポーツ界にはある。

日本バスケに求められるビジョン

バウマン氏が繰り返し指摘したのは “ビジョン”の欠如だ。世界につながるスポーツとして、この国のバスケには大きな発展の可能性がある。にもかかわらず「学校、クラブ、投資した先といった、自分が関わっている小さい領域でしか考えていない。“マウント・フジ”に向かう姿勢が感じられなくなっている」。彼は宿泊中のホテルから見えたという日本の最高峰を例に、ビジョンの必要性を強調する。

“企業チームを認めるかどうか”“企業名を認めるかどうか”が両リーグを再統一する最大の障害という報道もあったが、バウマン氏はこのような議論を切り捨てる。彼は「もし大企業がバスケに興味を持って、投資したいということなら、拒否するのは馬鹿らしい。本当の問題は企業チームか、そうでないかというモノではない。レベルを上げる、より多くの観客に楽しんでもらうという意味でのプロフェッショナルなら、どこからお金が来ているか、誰がサポートしているかは関係ない」と述べる。

一方で両リーグをプロ野球のセ・リーグ、パ・リーグのようにNBLとbjを二つの“ディビジョン”に分けて、最後にプレーオフを行う仕組みについては「可能性が考えられる」とした。とはいえ「我々は移行時期に興味がない。私たちが考えているのはとにかく最終形。そこになるべく早く到達するということを私たちはやっている」と“一リーグ化”というゴールを重視する姿勢は揺らがない。

もちろん男子リーグの再統一に象徴される難題が、“ビジョン”だけで解決するとは思わない。bjリーグは2015-16シーズンから24チームに増え、NBLにも8つのクラブチームが参加している。経営者たちは自らの身を削って投資し、人生を掛けて経営している。リーグ単位で考えても、株式会社形態をとっているbjリーグが、出資者に十分なリターンもない形での“吸収合併”に甘んじることはできないだろう。

バウマン氏の言うようにビジョンは大切だし、それは日本のバスケットボール界が欠いている要素だ。日本バスケが効率的な強化でアジアのトップに届き、ワールドカップ予選が国民的に盛り上がる――。そんな将来像を描くことが、皆のエネルギーを結集するための“必要条件”だ。とはいえビジョンを裏付ける“そろばん勘定”はどう収まるのだろう。両リーグ再統一という難題取り組むタスクフォースに掛かる期待と負担は、極めて重いモノになる。

JBAは2014年春、14年10月という二度の“回答期限”に応じられなかった。15年6月というタイムリミットが“三度目の正直”となるか。それとも“二度あることは三度ある”という警句を地で行く事態になってしまうのか。期待と不安が相半ばする、バウマン氏の記者会見だった。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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