話題の任天堂「著作物ガイドライン」、ファンや法曹関係者の評価とは

 11月29日は、ゲームと動画投稿の未来において歴史的な日となったようです。任天堂は29日、「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」を9カ国語で公表。同社が著作権を有するゲームの動画や静止画の共有サイトへの投稿について、個人かつ非営利の場合は「どうぞご自由に」という姿勢を明確とし、ほぼ全面解禁とあいなりました。

 また、「YouTube」や「ニコニコ動画」など指定された6つのプラットフォームで投稿した動画などから広告等の収益が発生した場合であっても、「どうぞすべて投稿したユーザーさんがお受け取りください」という寛容な姿勢。これに伴い、ゲームプレイ動画の広告収益を投稿者6割、任天堂4割で分配していた「Nintendo Creators Program」の終了もアナウンスされました。

 同ガイドラインが明示した寛容さはこれにとどまりません。QAの中に以下の言及がありました。

Q6.ゲームのプレイ動画やスクリーンショット以外の任天堂の知的財産に基づいて創作したもの(例えば、ファンアート等)を投稿することは、このガイドラインの対象ですか。

A6.このガイドラインは、任天堂のゲーム著作物を利用した動画や静止画を、適切な動画や静止画の共有サイトへ投稿することを対象としたものです。これ以外の任天堂の知的財産の利用や創作は、各国の法令上認められる範囲内で行ってください。なお、任天堂は、お客様の著作物の利用が法令上認められる範囲のものであるかどうかについてのお問い合わせにはお答えいたしかねますので、あらかじめご了承ください。

出典:ネットワークサービスにおける 任天堂の著作物の利用に関するガイドライン

 つまり、任天堂のキャラクターなどをもとに独自のクリエーティブを展開する「二次創作」「ファンアート」についても、「まぁ、やりすぎなければ、黙認しますよ」という姿勢を、絶妙な表現力で表したと言えます。一部ファンのあいだで、「これは著作権違反ではないか」という任天堂への通報合戦が繰り広げられていましたが、これを「まぁまぁ、落ち着きましょう」と鎮静化させる狙いもあるとみられます。

 ガイドラインの詳細については任天堂の公式ページをご覧いただくとして、注目したいのは、このガイドラインの評価です。

■「明快な基準」に評価

 29日、ネット上では任天堂の“神対応”が大きな話題となり、称賛の嵐が吹き荒れていました。

 「歴史的な大事件」「時代が前に一歩進んだ感がある」「控え目にいって神」「さすが我らが任天堂」……。拾い上げれば枚挙にいとまがありません。

 ファンは大絶賛ですが、法曹関係者はこの件をどう捉えているのでしょうか。著作権に詳しく、ゲーム領域にも日頃から注目しているという法律事務所エイチームの馬場貞幸弁護士は、こう評価しています。

 「伝統的に優れたゲームを世に送り出してきた任天堂が、対象となるゲームタイトルを限定せずにこのような自主ルールを策定したことは、動画コンテンツの在り方や世界中のユーザーのゲーム体験に大きな影響を与えると考えます」

 「ユーザー自身がプレイすることにより新たな創作性やコメントが付与されることを条件に、任天堂の著作物の利用を認めるというルールは、現行の著作権法の考え方の延長上にあるものと評価でき、基準としても明快といえるのではないでしょうか」

 こう馬場弁護士が指摘するように、ネット上でも単に“解禁”されたことに対してではなく、「明快な基準」が示されていることへの評価も多いように見受けられます。

 たとえば、ゲームのプロモーション動画やサウンドトラックをコピー(転載)しただけの投稿は、「ユーザーの創作性やコメントが含まれない」ため、認められていません。プレー動画のキャプチャは、「プレー」自体がユーザーの操作による創作なのでOKだという理屈です。当然ながら、法令違反の内容や公序良俗に反するもの、チートやクラッキングによるものなど、不正が含まれる投稿も認められません。

 また、投稿は「正式な発売日またはサービス開始日を迎えた任天堂のゲーム著作物」に限るというポイントも押さえられています。当然といえば当然なのですが、12月7日発売予定の人気ゲームシリーズ最新作「大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL」のゲームデータが海外で流出してしまい、キャラクターやステージ構成などがYouTubeなどを通じてリークされる、という事件があったことから、今一度、明確にしたのかもしれません。

■「表現の巧みさ」に感嘆の声も

 一方で内容もさることながら、ガイドラインの「文章表現」に対しても感嘆の声が上がっていました。任天堂のキャラクターや世界観を純粋に愛するファンへの、任天堂からの感謝の気持ちや配慮が随所に散見されたためです。

任天堂は当社が創造するゲームやキャラクター、世界観に対して、お客様が真摯に情熱をもって向かい合っていただけることに感謝し、その体験が広く共有されることを応援したいと考えております。

出典:ネットワークサービスにおける 任天堂の著作物の利用に関するガイドライン

 まず、ガイドライン冒頭の一節にある「応援したい」という表現に多くのユーザーやファンが反応し、絶賛していました。さらに、

お客様ご自身の創作性やコメントが含まれた動画や静止画が投稿されることを期待しております。

出典:ネットワークサービスにおける 任天堂の著作物の利用に関するガイドライン

 この「期待しております」という表現に対して、「二次創作歓迎をここまで上手く言葉にした例が生まれるとは。日本語巧すぎ」「任天堂はファンを大切にしているなぁ」といった声が上がるなど、ファン心理をくすぐられている様子です。

 また、こういったテクニカルな指摘も。

 さらに、ガイドラインでは「してはいけません」といった否定表現を極力、抑えつつ、「できます」といった肯定表現を多用していることから、ネット上では「センシティブな文章ながら肯定的な表現を多用して穏当にまとめており、参考になる」「ユーザー感情を刺激しかねない内容の文章を書く上で参考になる」といった声も上がっていました。

■進化するガイドライン

 個人的に「うまくできているな」と思ったのは、ガイドライン末尾に「QA」が掲載されており、「ガイドラインおよびQ&Aは、随時更新されます」と明記されている点。つまり、「進化するガイドライン」という建て付けになっていることです。

 たとえば、収益化が可能な共有サイトのプラットフォームについても、当初は6つですが、そのQA末尾に「※随時更新されます」とあり、今後、対象が増えていくことが予想されます。

 「隙がない」と話題のガイドラインですが、「個人」と「法人」の線引きについては、曖昧な部分が残ります。ガイドラインには明確に以下のような記述があります。

Q9.法人が、任天堂のゲーム著作物を使った投稿をすることは、このガイドラインの対象ですか。

A9.このガイドラインは、個人であるお客様による任天堂のゲーム著作物の投稿を対象としています。法人等の団体による投稿は、このガイドラインの対象ではありません。

出典:ネットワークサービスにおける 任天堂の著作物の利用に関するガイドライン

 ただし、YouTube上では、個人のチャンネルを束ねて効率的に収益化する「MCN(マルチチャンネルネットワーク)」という仕組みがあり、MCNは法人であることから、MCN上の個人チャンネルの扱いがどうなっていくのか、は現時点では明確ではありません。ネット上でも「事務所所属のYouTuberはどうなるんだ?」という疑問の声がちらほら。前出の馬場弁護士も、こう指摘しています。

 「このガイドラインはあくまで個人としての利用を対象とするものであり、たとえばYouTuberが所属事務所から指示を受け、個人アカウントで配信する場合、ガイドラインに従った利用といえるかは現時点では明示されておらず、今後の動向が注目されます」

 そこは、進化するガイドライン。今後、こうした疑問にも随時、答えていくと思われますが、念のため、任天堂広報部に確認したところ、即日、以下の回答をくださりました。

タレント事務所に所属するタレントやMCNに所属するYouTuber、およびvTuberの場合、タレント事務所やMCNの業務とは別に、個人の取り組みとして投稿される場合は本件ガイドラインの対象となります。ですが、所属事務所や所属MCN、スポンサー等の業務の一環で、個人のチャンネルから発信される場合は、本件ガイドラインの対象外になります。また、タレント事務所自体や、MCN自体が投稿を行うことも、ガイドラインの対象外です。(任天堂広報部)

 所属に依らず、その投稿が「業務であるか否か」が線引きとなるという明快な回答。いずれ、ガイドラインのQAにも掲載されると思われますが、こちらでも紹介しておきました。

 またもや名を上げた感がある任天堂と、その法務部。「任天堂法務部最強伝説」がファンのあいだに流れて久しいですが、今回のガイドライン対応などを通じて、任天堂法務部が「畏怖」の対象ではなく「尊敬」の対象へと変化していっていることも見逃せません。「任天堂らしさ」が詰まったガイドラインの進化に、引き続き、注目していきたいと思います。