Yahoo!ニュース

男性育休「義務化」の議論とともに見直してもらいたい、そもそもの制度の使いづらさ

小酒部さやか株式会社 natural rights 代表取締役
育児する男性のイメージ(写真:アフロ)

自民党の有志議員が、男性の育休「義務化」を目指す議員連盟を設立したことが大きな話題となっている。

「育休義務化」と聞くと、男性社員に育児休暇を取得するよう義務付けることかと思いきや、そうではなく、本人から申し出がなくても企業から自動的に育休を与えるよう、企業側に義務付けるとのこと。

少子化の日本において、男性の育児参加は極めて重要で、私もこの動きに概ね賛成のスタンスだ。

個人的な話になるが、私の夫も第二子の際に半月間、育休を取得した。

けれど、自動的に会社からもらえるとしても、もらって嬉しい物と、あまり嬉しくない物があるように、この制度が本当に万人にとって嬉しい制度かどうか、原点に立ち返った議論も是非して欲しい。

会社が育休をくれる状況だとしても、そもそもこの制度は男性にとって使いづらい点がある。おそらく稼ぎ手となる男性パートナーがいる女性を対象者として作った制度だからだろう。

男女ともに利用する制度として、カスタマイズする必要があるかもしれない。

どんな点が使いづらいのか、以下に記す。

●最低でも3ヶ月分の給与を用意しないと、この制度は使えない

月単位で育休を取得する場合、2ヶ月分の生活費、プラス1ヶ月分の住民税、1ヶ月分の厚生年金など、最低でも今までの給与の約3ヶ月分を手元資金として用意しておかないと、この制度は利用しづらい。

育休を取得すると、当然のことながら取得期間中は会社からの毎月の給与はない。会社員の場合、毎月の給与から天引きされる住民税(昨年実績で金額が発生する)は、会社から源泉徴収されていたので、育休期間は自分で会社の口座にお金を入れたりする。(育休中の住民税は免除にならない。住民税の支払い方法は、各会社によるので確認が必要。)

次に厚生年金。これは1ヶ月遅れで支払いが発生するので、取得前の前月分のみ支払いが発生する。たとえば5月1日に育児休業に入ると、前月4月の1ヶ月分の厚生年金の支払いが取得開始した5月に発生する。会社で源泉徴収されるので、これも会社に払う必要が出てくる。(なお、育休中の健康保険と厚生年金は免除されるので、支払いが発生するのは取得前の前月分のみ。)

給付金が支給されるタイミングも遅いため、給付金も給与もない状態で、まず、1ヶ月分の住民税プラス1ヶ月分の厚生年金、そして、給与をもらっていた時と変わらない生活費(家賃や食費、光熱費など)の支払いが発生することになる。

そして、給付金には上限※(月に30万弱)があるため、上限より給与をもらっている人はその分の金額は出ない。なので、それなりに給与をもらっている人からすると、給付金が支給されるタイミングも遅いうえに額も少なく、給与収入を前提に家賃なりローンを組んでいたりすると打撃が大きい。だから、育休取得前に最低でも給与の約3ヶ月分を手元に用意しておかなければならないのだ。

女性側が取得する際は、パートナーの収入に頼れる場合があるけれど、パートナーが専業主婦で、家計を支える人(=男性)が育休を取得するとなると、それだけハードルが上がる。ここにも、男性育休が進まない大きな理由があるように思う。

※育児休業給付金の支給額は、支給対象期間(1ヶ月)あたり、原則として休業開始時賃金日額×支給日数の67%(育児休業の開始から6ヶ月経過後は50%)相当額となっている。算定した「賃金月額」が447,300円を超える場合は、「賃金月額」は、447,300円となる。(これに伴い1支給対象期間(1ヶ月)あたりの育児休業給付金の支給額(原則、休業開始時賃金日額×支給日数の67%(50%))の上限額は299,691円(223,650円))

●改善点1:せめて育児休業給付金は通常給与をもらえていた日に支給を!

育児休業給付金は2ヶ月単位で、しかも、通常給与が振り込まれていた日より2ヶ月以上後に指定の個人口座に振り込まれる。たとえば、5月1日から育休を開始したとして、5月6月分の給付金が5月の通常給与をもらっていた日にもらえるかというともらえない。実際にもらえるのは7月以降だったりする。7月8月分は9月に入金せず、10月以降の入金だったりする。

そしてこれは、会社側の申請のタイミングにも左右される。確実にもらえるのだが、すごく遅い。少なくとも給付金に関しては、通常の給与がもらえるタイミングで支給するよう改善されると、男性育休ももう少し取りやすくなるのかもしれない。

そもそも育休制度の給付金は少し前まで給与の40%で、休業中に半分、復帰をしたら残りが貰えるという職場復帰給付金だった。それが法改正で一律に給与の50%になり、67%になりと進化していった。制度だけを利用して職場復帰せずに辞めてしまう人もなかにはいるだろうが、男性育休の取得率をあげることを第一義に考えるなら、より使いやすい制度に改善した方がいいように思う。

●改善点2:制度フローの認知をもっと広げて!

給付金をもらうタイミングや3ヶ月分の給与を用意する必要性など、この制度のフローがあまりに男性たちに知られていない。行政の手引書も分かりづらい。行政の手引書をもっと分かりやすくする工夫や、会社が新入社員の時点で産休育休とはどのような制度か、女性社員だけでなく男性社員にも教育する必要がある。

取得してみて「負担が多過ぎる!」と初めて知る、という状況にはならないような、事前の周知も育休「義務化」議論とともに検討してもらえたらと思う。

制度のマイナスポイントだけをあげてしまったが、お金にはかえられないプラスポイントの方が多いと個人的には思っている。

男性の育児参加・家庭参加は、第二子、第三子へと繋がるし、女性のキャリアの維持にもなる。

そして、何より可愛い我が子とのかけがえのない時間を得ることができる。

企業側から自動的に育休が与えられるようになっても、制度の利用を断る男性が続出するとならないよう、様々な角度から男性育休「義務化」の議論を進めてもらえたらと願っている。

そして、大企業や生活にゆとりのある男性社員だけが取得できるようになる「義務化」ではなく、シングルファザーやシングルマザーなど弱者にとっても使いやすい制度へとブラッシュアップする機会にもしてもらえたらと思う。

株式会社 natural rights 代表取締役

2014年7月自身の経験から被害者支援団体であるNPO法人マタハラNetを設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月女性の地位向上への貢献をたたえるアメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使とともに登壇。2016年1月筑摩書房より「マタハラ問題」、11月花伝社より「ずっと働ける会社~マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!~」を出版。現在、株式会社natural rights代表取締役。仕事と生活の両立がnatural rightsとなるよう講演や企業研修、執筆など活動を行っている。

小酒部さやかの最近の記事